第42話 全員、生還
※本作にはTS要素があります。
レオンは暗部の男を担いで、マナヴェインの森を駆けていた。
彼の瞳からは、とめどなく涙が溢れている。
あの雷撃が放たれる直前、マズいと思った。
だが、なまくらと化した“聖裁”の動きを変えることは叶わなかった。
その結果、自分だけが助かり、“聖裁”を失ってしまったのだ。
いくら希代の巨悪、バルフェリアを名乗る奴を味方に付けたからといって、あの女にあれほどの力があるのも誤算だった。
「嘘だ……嘘だ……!」
あの女に罰を与えるだけ。
そのつもりだった。
なのに今は、“聖裁”を失った混乱から、あの場を後にし、逃げる様に森を駆けている。
「くそぉ……!」
レオンの胸に去来する想いは、怒りよりも悲しみが強い。
大切なものを失った失意。
自分の軽はずみな行動の結果に対する失望。
己の慢心に対する自己否定。
最早、戦うどころではない。
今、彼の思考を支配しているのは、どう言い訳をするか。
どんな罰が待っているのか。
この二点だ。
「レギュラス様に……見捨てられたくない……!」
レオンは自らの失態を嘆きながら、森を駆け抜けるのだった。
――――――
――俺は夢を見ていた。
「君は、ここで何を?」
瓦礫を除けていると、恰幅の良い男に声を掛けられた。
裕福そうな恰好の、スキンヘッドの中年だ。
村が全焼して、三日目の昼ごろの事だった。
「……まだ、足りないんだ」
小さいが、俺も含めて八十人ほどはいる村。
全員が顔見知りで仲も良かった。
……残念ながら、死体は焼け焦げており、誰が誰だか判断が付かない。
だから死体を探している。
これまでに見つかった黒焦げの死体は、七十体。
俺も含めて生き残ったのは八人。
だから、あと二人分の死体をみんなで探していた。
「それは大変だ。だが君、ほとんど寝ていないんじゃないか?」
「……」
それはそうだ。
たったの八人で瓦礫の撤去、墓掘り、死体探しの全てをしているんだ。
寝てる暇なんてない。
「……仕方ない。ここで会ったのも何かの縁だ。俺が手伝ってやろう」
「……なんで?」
「俺は商人でな。この村には世話になったんだよ。子供のこんな姿、放っては置けないだろ。
村の入り口に、うちの商隊がいるんだ。ほら、一緒に行こう」
今までにこんな商人が来た事があっただろうか?
とは言え、俺が商人と取引をしていた訳でもない。
グウ〜〜〜
俺の腹の音が鳴る。
あれから、ほとんど飲み食いしていないから当然だ。
「はっはっはっ!体は正直だな!飯の用意もある、さあ行こう」
男は無理やり俺の手を引いて歩く。
疲れきっていた俺に抵抗は難しかったし、彼の言葉が嬉しかったんだ。
だからこの男が、ほくそ笑んでいる事に気が付かなかった。
――そうして俺は、奴隷になったんだ。
――――――
「う……」
俺が目を覚ますと、そこは森の中だった。
温かい。
優しい温もりを感じる。
意識がはっきりしてくると、誰かに背負われているのが分かる。
「気付いたか?」
ガレスが振り返る。
俺は、ガレスにおぶられていた。
「ガレス!?」
何だか妙に気恥ずかしくなり、飛び起きようとするが、
「痛っ……!!」
動いた瞬間、全身に激痛が走る。
痛みは俺がガレスから離れる事を許さなかった。
「無理をするな。丸一日寝ていたんだ」
「丸一日!?」
そんなに寝ていたのか。
「あの大怪我だ。どうにも起きる気配も無かったんでな、おぶって森を出る事にしたんだ」
「目が覚めてよかったです!でも本当にどうなる事かと……」
「うん、心配かけて、ごめん」
体を動かせないもので、振り向けないまま謝る俺を許してくれ、カイル。
「俺が加勢出来ていれば、こうもならなかったんだが……すまん、痺れ毒でやられてな。俺もしばらく動けなかった」
「いや、ガレスがいてくれたからニ対一にならずに済んだし、こうして助かってる。謝らないでよ」
「しかし、やはりバルフェリア様の力なんですかね?死んでもおかしくないほどの傷だったのに、かなりの速度で治ってきてます」
バルフェリアか。
そうだ、バルフェリアの様子は?
「なあ、バルフェリアはどうしてる?」
「あの戦いの後、“妾は回復に専念する。アレックスは任せたぞ”と……今のところ、それきりです」
マジか。
アイツもそれだけ消耗したって事か。
……ちゃんと生きてるだろうか?心配だ。
「なあ、カイル。俺のあの“柄”はあるかな?」
「ええ、アレックス様のズボンのポケットに」
「ちょっと取ってもらっていい?」
カイルは、「はい」と返事をすると、俺のズボンのポケットに手を入れる。
サワリ
「ひゃっ!?」
カイルがポケットを探るその手の動きに、思わず声を上げてしまった。
「すみません。くすぐったいですか?」
「い、いや」
何だ?今まではこんな事なかったぞ?
というか、ガレスに密着してるこの状況も妙に照れ臭いし、何だろうこの感じ。
「はい、こちらです」
俺が不思議な感覚に悩んでいる間に、カイルは柄を取り出した様だ。
「ありがとう」
カイルは、ゆっくりと右手を開く俺の動きを察して、柄を右手に持たせてくれた。
「……」
目を閉じて、意識を集中する。
すると、今までは感じ取る事ができなかった、何かが体を流れる感覚が駆け巡る。
――きっとこれが、魔力の流れだ。
俺はレオン戦の要領で、右手に魔力を集めようとする。
右手に何かが集まり、熱が溜まっていく。
そして――
『やめぬか、たわけ!』
バルフェリアの声が頭に響いた。
『お主、まだコントロールもままならんじゃろう!また暴走させる気か!……全く、少々待っておれ』
そう言うと俺の返事も待たずに、右手に改めて魔力が集中し、柄が変形していく。
「アレックス、勝手なことをするでない!」
暴走することなく、柄はミニバルフェリアへと変形を果たした。
「おー、ちゃんと生きててよかったよ」
「……お主もな」
「これで、全員無事と言うことだな」
ガレスのひと言に、俺の意識にまた照れ臭さが蘇る。
「どうした?アレックス?」
その落ち着かない様子を、バルフェリアに簡単に見破られた。
「いや、なんかおんぶされてるのが照れ臭くてさ……でも痛みで動けないし……」
「なるほどの。お主、身体の性別に引っ張られてきておるな」
「え?」
「妾とお主の魔力回路の同期も相まって、魂の身体への順応が急速に進んでおる」
えーと?
「つまり?」
「ふふ、楽しみにしておれ」
「えーーっ!?教えてくれよ!」
バルフェリアに抗議するために、つい動こうとして体中を激痛が駆け巡る。
「痛ったたたた……」
「無理するでない」
「痛ってー……って、お前のせいだろ……」
急に誤魔化しやがって、にゃろう。
「おい……大丈夫か。どうする?一度降ろすか?」
騒ぎ立てる俺たちの様子を見て、ガレスはバツが悪そうな、そして心配そうな顔をしている。
それを見て俺は、
「ブハッ」
思わず吹き出してしまった。
ガレスがジト目でこちらを見てるのが、また面白い。
「ごめんごめん。ガレスのその表情が新鮮で」
「おい。俺は真剣に――」
「このままで大丈夫。ありがとう」
「ここで立ち止まってる余裕もないしの。万が一、魔物と出会う事があればまずい状況じゃ」
確かに。
俺も既に戦力外だ。
早く森を出るに越したことはない。
「とにかく、あと少しです。頑張りましょう」
そして、しばらくの後ついに――
俺たちは無事、森を抜け出る事に成功した。
「カイル、ガレス、あとバルフェリアも。……本当にありがとう」
「待て、妾はついでか?」
頬を膨らませて怒るバルフェリアが、何とも可愛らしい。
森は脱した。
もう危険はない。
「さあ、街に帰ろう」
読んでいただきありがとうございます。
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