第40話 なまくら
※本作にはTS要素があります。
「何だ、今の光は!?」
俺は光に目が眩みながらも、何とか地面に着地する。
「ぐうっ!」
対してレオンは完全に虚を突かれたのか、上手く着地できずに地面を転がった。
「ここだっ!」
一転、大チャンスだ!
ここでレオンを倒すべく、俺は弓を引き絞る!
――が、“重い”。
バルフェリアの助けが無くなったかのように、弓は硬さを取り戻している。
「!?」
一瞬、躊躇してしまったが、俺はレオンへと矢を放つ。
「ちぃっ!」
だが、ワンテンポ遅れた攻撃はレオンに避けられてしまった。
そして、放った矢は……爆発しなかった。
「バルフェリア!?」
『……安心せい。大丈夫じゃ』
明らかに大丈夫じゃない、バルフェリアの疲弊がにじむ声色。
まさか、さっきの光が原因か?
「貴様、何をした……!」
レオンも苦々しく顔を歪めて俺に問う。
先ほどまで、片手で軽々と振るっていた“聖裁”を、何故か重そうに、両手で支えて何とか持ち上げている。
『……アレックス、良いか。先の光は、妾の魔力とあの剣の魔力を相殺した際の光じゃ』
「ってことは、お前の魔力も……!」
『案ずるな。……おかげで、あの剣のレギュラスの魔力を、ごっそり奪えたわ』
レオンが重そうにしていたのは、魔力による効果の一部が失われたからに違いない。
しかし、バルフェリアも相応に魔力を消耗している。
『だが、気をつけよ。奴のスキル“剣聖”は、全ての剣の力を最大限に引き出す能力よ』
「……マジか」
『奴の言葉に嘘はなかろう。それぐらいでなければ、あの矢を捌き切るのも大木の両断も、無理じゃ』
魔力の相殺で、もしかしたら“聖裁”の斬れ味も落ちているかもしれない。
だが、そうじゃないかもしれない。
奴との戦いは、慎重にしなければ行けないが――
「ブツブツと、何を一人で喋っている!」
レオンが“聖裁”を持ち、こちらに迫る。
しかし重さのせいで、動きには俊敏さの欠片ももない。
これなら、やれるか!?
「これでもくらいな!」
俺は近づくレオンに対して、遠慮なく矢を放つ。
“聖裁”を手放しでもしない限りは、避けられないだろう!
「舐め……るなっ!」
レオンは急に足を止める。
そして、その推進力を利用して剣を振り上げ、矢を切り落した。
「爆発無しとは、そちらも力を失った様ですねえ!」
レオンは重量と遠心力を利用して、剣を振り続ける。
その勢いは、まるで超小型の嵐だ。
続けて矢を放つものの、その勢いであっさりと弾かれる。
「どうする?バルフェリア……」
『……』
「おい!聞こえてるか!?」
『……ああ、何じゃ?』
魔力が一気に減り、バルフェリアは衰弱している様だ。
これは……隙が見えるまで様子を伺うしかないか。
幸い、あの場で剣を振っている分には安心して見ていられる。
「馬鹿が、死ねぇっ!」
俺が一瞬、油断をした隙を、レオンは逃さなかった。
奴は、先ほどとは逆に、遠心力と重量を推進力に利用して、俺に向かって飛び込んできた!
「くっ!」
俺は間一髪、飛び込み突きを避ける。
が、ここはもう、レオンの間合いとなっていた。
「死ね死ね死ねぇ!」
レオンは俺の目の前で、遠心力を利用し剣を振るう!
しかしその重量感と振りの動作で、余裕を持って避ける事ができる。
「これなら……!」
今度こそ、奴が隙を見せるまで避け続けてやる!
レオンが“聖裁”を一振りする度に、俺の体のすぐ近くに轟音を唸らせながら、風を起こす。
その斬れ味は健在で、近場の木々を、熱した包丁でパンを切るかの様に、いとも容易く切り裂いていく。
この至近距離で矢を放つための隙が、まだ見えない。
早くスタミナ切れでも起こしてくれ!
ピッ
瞬間、レオンの一太刀が髪をかすめる。
さらに服、皮膚と、俺の薄皮を切りながら、その剣が徐々に迫ってくる。
――これはひょっとすると。
『……奴の速度が、上がってきておる!』
やはり。
重さにもたついていた奴の剣撃は、重量と遠心力を味方につけて、まるで踊るかの様な動きに変わりつつある。
レオンが回転に慣れ、速度を増しつつある。
「はははははは!どうしましたかぁ!?」
このままだとヤバい。
しかし、こうなると不用意に下がることもできない。
安易な回避は大きな隙となり、真っ二つにされてしまうことだろう。
この場に留まっていてもいずれ死ぬ。
不用意に引いても死ぬ。
ならば、どうする?
「――前だろっ!」
俺は背筋に走る恐怖を飲み込み、前へと踏み出す!
「もらった!」
だが、レオンの剣撃が俺を袈裟斬りにしようと上段から迫る。
このままでは避けきれず、真っ二つだ。
――避けられないなら、いなすしかない!
俺は“聖裁”ではなく、レオンの持ち手の甲に手を当て、思い切り押す。
するとレオンのバランスが崩れ、俺を斬ろうとしていた太刀筋はそのまま外へと流れ、空を切った。
「!!!」
「お前は剣に頼りすぎなんだよ!」
『よし、やれっ!』
俺は籠手でレオンの顔を思い切り殴りつけた!
その瞬間――
ズドンッ!
バルフェリアの魔力が、奴の顔を爆発で包む!
「ぐぅっ……き、さま……!」
レオンは衝撃で怯む。
しかしあろうことか、これでも少ししかダメージが通った様子がない。
耐久力が上がっているせいか!
『仕方あるまい……もう一度、妾で剣を殴りつけろ!』
もう一度だって?
一度目でバルフェリアはかなり消耗した筈だ。
そこで更にもう一度とは……本当に大丈夫なのか?
『妾を信じよ、アレックス!!』
ここまで俺を信じてくれた。
そんな彼女が、信じろと言うんだ……。
――信じてやるよっ!
俺は追撃をする様に、もう一歩踏み込み、レオンに密着する。
そしてレオンへの殴打のフェイントから、“聖裁”をバルフェリアの籠手で殴る!
『食らえい!』
一度目よりも、一段と大きな衝撃音と激しい光が辺りを包み込む!
「ぐうっ!」
音と光で何も見えないし、聞こえない。
どうなっているかは分からないが、棒立ちしている訳にもいかない。
俺はレオンが居たであろう場所を、狙って拳を振るう!
バキィッ!
「があっ!」
顔を捉えた確かな手ごたえが右手に走り、レオンのうめき声も微かに鼓膜を揺らした!
これは確実にダメージが入った筈だ!
そう思った瞬間、
――ミシリ
俺の右脇腹に、重く硬いものが勢いよく叩きつけられた。
「ぐほっ!」
俺はたまらず、そのまま地面を転がる。
追撃を恐れ、低い体勢のまま目と耳が回復するのを大人しく待った。
そして、徐々に目が回復し、はじめに視界に入った光景には、驚愕の表情を貼り付けたレオンがいた。
「お前……お前お前お前ぇ!一体何をしたあ!」
レオンの腕には、振るった後の“聖裁”がある。
つまり、俺の脇腹に叩きつけられたのは、斬れ味をも失った“聖裁”だったのだ。
「へへへ……魔力を失ったそいつは、もうただのなまくらだ」
「なっ、レギュラス様の魔力を……消したのか!?」
「そう言うことだ。……賭けに勝ったぞ、バルフェリア」
『…………うむ』
バルフェリアは、喋るのも辛そうなほどに疲弊している。
これ以上は負担を掛けられない。
ここからは、俺の仕事だ。
「あとは任せろ」
俺の言葉を聞いたバルフェリアは、言葉もなく変形を解き、右手の目玉へと戻った。
そこでゆっくり休んでくれ。
「じゃあ、決着をつけようか、レオンさんよ!」
――残り、三本。
矢筒に突っ込んだ右手で触れた矢の残りは三本しかない。
だが、これだけあれば充分だ。
俺は弓を引き、レオンに向けて容赦なく矢を放つ!
ドッ
「がああ!そんな、神の加護が……!」
矢はレオンの左腕に深々と刺さり、あの耐久力が消失したのが伺える。
「どうだ?レオン。今の気分は」
レオンはこちらに聞こえるほど、強く歯軋りをし、口元に血が滲んでいる。
その視線だけで俺を射殺さんとするほどの明確な殺意。
「私はねぇ……レギュラス様のお力だけで、罰を与えたかったんですよぉ。
ですから、自ら発動するスキルは自重していました」
そう言った瞬間、レオンの姿が目の前から消えた。
「!?」
「……斬れ味を失っても、動けない人間を叩き殺すぐらい容易いんですよ。弓を離してくれますかぁ?」
声がした方に向き直る。
すると、横になったカイルに“聖裁”を突きつけるレオンの姿が、そこにあった。
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