第39話 アレックス、死ぬなよ
※本作にはTS要素があります。
冒険者たちを殺った時も、ガレスとの戦いの時もそうだった。
レオンの剣速は尋常じゃないほどに速い。
このまま剣の間合いに入ったら、俺に勝ち目はない。
「素直にやり合ってたまるかよ!」
「逃しませんよぉ!」
俺は矢を番えながら、迫るレオンから必死で距離を取り続ける。
籠手となったバルフェリアから、番えた矢へと魔力が流れていくのが分かる。
この一撃を喰らわせてやる!
充分に距離を取った俺は、進行方向に跳躍しながら空中で反転。
レオンを視界に捉え、弓を引き絞る。
引きが軽い。
これもバルフェリアの力か。
「これでも喰らえっ!」
弓から離れ、放たれた矢は、もの凄い速度でレオンへと一直線に迫る!
「遅い!」
しかし、レオンは眼前迫った矢を軽々と切り落とす。
今までより、矢の速度は何倍にも上がっている。
にも関わらず、その速度に対応するレオン。
やはり、只者ではない。
『クク、速度だけではないぞ?』
「え?」
チュドン!
魔力を帯びた矢は、切り落とされた直後に爆発を起こす!
「うおっ!」
俺は爆風に怯みつつも、地面へと着地する。
『阿呆!足を止めるな!』
爆発で生じた煙の中から――
『この程度で奴は倒せんぞ!』
――怒りに満ちた表情で、レオンが飛び出してきた!
「ふざけた攻撃を!」
「マジか!」
俺は急反転し、レオンから距離を取るように走り出す。
「逃げるな!卑怯者が!」
「何とでも言えよ!」
目の前にはドンと根を張る大木。
木の幹の窪みを足場にして、上へ上へと駆けぬけながら俺は、
「バルフェリア、連射は可能か!?」
『無論!』
地面のレオンに向けて、矢を連続で放つ!
「“剣聖”を舐めるなぁっ!」
無数に放たれた矢はレオンに刺さる事なく、信じられない速度で捌かれる!
『見事じゃ。だがのう――』
その全ての矢が、次々と爆発を起こす!
『これは避け切れんじゃろう!』
俺は木の上から、爆風で渦巻く地面の様子を伺う。
「すげえな……」
『変形したのは正解じゃったな。魔力を流しやすい』
この破壊力。
流石に、無事ではすまない筈――
ズズッ
足元がゆっくりと傾く。
木の上なのに?
……これは、まさか。
「舐めた真似を……してくれますねぇ!」
爆煙の隙間から覗く地面には、剣を振り抜いたレオンの姿。
こいつ、この大木を一撃で真っ二つに!?
このまま落ちれば格好の的だ!
「ここは……煙幕を張る!」
俺は近場に魔力の矢を放つ!
爆風と爆音、衝撃が俺の体を襲う!
思っていた以上の衝撃だ。
レオンはこれに耐えていたのか。
「うおおおっ!」
俺は爆風で吹き飛ばされ、図らずとも別の木へと飛び移ることに成功した。
『無茶をするでない!』
「あいつはピンピンしてたから、行けるかと……」
『阿呆、考えてからやらんか!……恐らく、奴の剣の力じゃろうな』
神々しさと禍々しさを併せ持つ、異質な長剣。
奴は“聖裁”って言ってたっけか。
ただでさえ強いのに、耐久力までおかしいことになってるのかよ!
『っ、来るぞ!』
「逃さないぃ!!」
いつの間にか、レオンは木の上へと駆け上がってきていた。
ここはもう、レオンの間合いだ。
『妾を盾にせい!』
「分かった!」
バルフェリアの身も心配だが、もはや信じるしかない。
剣を振り抜かれると間に合わない。
レオンの肩、捻り、剣の角度。
その全てから太刀筋を予測し、力を込めて右手で防御の構えを取る!
「死ねええええぇっ!!」
レオンの剣と籠手となったバルフェリアが交差した瞬間、激しい衝突音と共に、眩い光を放った。
――――――
ほぼ同時刻。
ガレスとフードの男が相対していた。
「まったく、向こうは派手にやってるようで」
そう呟くフードの男の両手には、闇が纏われている。
「闇魔法か。やはり、暗部のものだな」
「……だったら?」
「やめろ。お互いに戦う理由がない」
「……」
両手の闇はフードの男の全身に広がり、男はその姿を消した。
「戦う理由なら、ある」
男の姿は見えない。
だが、声だけは聞こえる。
「何だそれは」
「それは――」
ガレスに直感が走る。
――右だ。
ギィン!
長槍でその攻撃を防ぐ。
長槍と摩擦を起こしたのは、鉤爪。
闇魔法を腕に纏い、武器の存在を隠していたのだ。
「使徒様の言葉は絶対だ。……聖女様の次にな」
「確かあの男は、神託を受け、アレックスを逃したんじゃなかったか?」
「そんな話は知らない。ただ依頼を全うするだけだ」
フードの男は飛び退くと同時に、溜めた魔力を自分の影へと伝えた。
すると影が質量を持ち、ガレスへと襲いかかる!
ただ、その影の動きには速さはない。
ガレスはよく見て、その影を余裕を持って避ける。
――左だ。
ガレスは長槍を勢いよく回転させると、左から飛んできた何かを弾き落とした。
飛んできていたのは、投げナイフ。
「色々な武器を使うんだな」
「……まあな」
そして再び、男の姿が闇に消える。
この魔法は厄介だ。
恐らく、奴のスキルも合わせての効果だろう。
男の気配も、足音も聞こえなくなる。
その上声はすれど、どこから聞こえてきているのか判別がつかない。
「どんな場面でも、ターゲットを確実に殺すためだ」
「!」
ガレスの背後に迫る何かを“感じる”。
金属音が響く。
またしてもガレスは、長槍で鉤爪を食い止めた。
「勘がいいんだな……お前のスキルか?」
「答える義理はない」
フードの男は逆の手の鉤爪を振るう。
が、ガレスは長槍を器用に回して、両方の鉤爪を弾いた。
「……どうして、お前から攻撃してこない?」
フードの男の問いに、ガレスは答える。
「レギュラス教を敵に回す理由がない。手を引け」
「……理由が、ない?」
フードの男が顔をしかめる。
「使徒様が罰せよと命じた。なのに、理由が無いだと?」
「そうだ」
「理由はそれで充分だろう!」
そう言うと、男は三度、姿を消した。
「罰だと?お前たちがやっている事は間違っている。都合のいいように、教義を解釈しているだけだ」
「我らを愚弄するな」
――正面。
ガレスは正面から飛んでくる投げナイフを、長槍を回転させ難なく弾き飛ばした。
トスッ
長槍の軸となった右手に、ワンテンポ遅れて何かが刺さる。
「これは……針か?」
「……ナイフに気を取られ過ぎたな」
針が刺さった箇所を中心に、ガレスの握力が失われていく。
既に長槍を持っていられないほど、急速に痺れが広がる。
そしてついに、ガレスは長槍を地面に落としてしまう。
「麻痺毒か」
「これでもう、武器は扱えないな」
右手に力は入らない。
武器を拾う隙は見せられない。
つまり、ガレスはもう丸腰で戦うしかない。
「使徒様の御心のままに!」
このチャンスを逃すまいと、鉤爪を構え、男が真っ直ぐに突進してくる!
「これが罰だ!」
男は両手を振り上げ、体重を乗せた一撃は、ガレスを頭から勢いよく切り裂く!
……事は無かった。
「何、だと?」
ガレスは両手を頭上でクロスさせ、素手で鉤爪を止めてみせる。
いや、素手と言うには違和感がある。
ガレスの両手は、まるで岩のように硬化していた。
「残念だったな」
ガレスは鉤爪を思い切り弾くと、痺れていたはずの右腕を大きく振りかぶる。
鉤爪を勢いよく弾かれた男は、バランスを崩し、完全に無防備だ。
「硬化していれば、痺れていても関係ない!」
ドゴォッ!!!
ガレスの右手が男の顔面を捉えた。
その硬く重い一撃は、容赦なく男を吹き飛ばし、樹木に叩きつけた!
男は、ズルズルと木の幹から滑り落ち、地面へと倒れ、ピクリとも動かない。
「……やはり、鉤爪にも、毒が塗られていたか」
ガレスは男を倒したものの、その痺れはついに全身に周り、そのまま倒れ込んだ。
「アレックス……死ぬなよ」
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