第4話 目が覚めたら女の子でした
※本作にはTS要素があります。
――夢を見ていた。
どこかも分からない場所で、俺は巨大な獣に追いかけられている。
右腕は既に、根本から食いちぎられている。
「はぁ、はぁ……」
必死で逃げる。
しかし、夢の中特有の浮遊感で、強く踏み込んでも一向に前に進まない。
モタモタしている間に、俺はあっという間に狼に追いつかれる。
俺を噛み砕くために、獣は大きく口を開く。
そして、あと少しで食われるというその瞬間、急に現れた人影が、獣を文字通り一蹴した。
バシュウゥゥ
獣はまるで霧のように霧散し、人影はこちらにゆっくりと振り返る。
目が合った。
その人影は、真っ赤な瞳に長い金髪をなびかせた美しい女性だ。
俺があまりの美しさに見惚れていると、女は堂々とした挙動でこちらに歩いてくる。
目が離せない。
目の前で、女が立ち止まる。
そして、ひと呼吸置いたのち――
バチィン!
俺の左頬を、遠慮なく張り上げた。
『死ぬならちゃんと死なんか! このたわけ!』
「……は?」
―― ―― ――
「う……」
意識が戻る。
体中が痛い。
どうやら、硬い石畳の上に横になっていたようで、体中が痛むのもうなずける。
ハッとした。
眠気は急激に失せ、心臓が高鳴る。
――そういえば、腕を喰われたはずだ。
何故か痛みはない。
しかし、直視する勇気がない。
飛び起きた俺は、左手で恐る恐る、右腕があるべき場所を探る。
「……あ……ある」
左手で触れると、感触が確かにある。
指先の感触で分かる。
しかも、以前のような傷だらけの腕ではなく、つるりと滑らかな、絹のような手触り。
もしかして、狼に右腕を喰われた痛みも恐怖も、ダンジョンの罠が見せた幻だったのか……?
にしてはかなりリアルだったが、まあ罠なんて、きっとそういうもんだろう。
何はともあれ、俺は生きていて、腕もちゃんと残っている。
「ハ〜〜〜〜」
右腕が残っていることに大きく安堵し、大きくため息。
ちょっと泣きそうだ。
あれ?だが、ちょっと待て。
……何かおかしくなかったか?
「……ん?」
“絹のような手触り”とは???
俺の腕は別段、肌がきれいなわけではない。
実家の農業を手伝ったり、ダンジョン奴隷として働いたり、普通の労働者のそれだ。
俺は戸惑いを持ちつつ、ゆっくり右腕に視線を落とす。
そこには、傷もない、ゴツゴツとした筋肉もない、ついでに奴隷の腕輪もない、白い肌。
指先まで透き通る、美しいフォルム。
どう見ても女の腕だ。
いや、右腕だけじゃない。
服の上からでもはっきり分かる。
左腕も、脚も。
更にあろうことか、胸には自己主張の強いふくらみがふたつ。
思考が停止する。
なんだこれ?
……まるで俺が女になったみたいじゃないか。
「いやいや、そんな馬鹿な」
はっきりと喋る俺の口からは、高く可愛らしい声が漏れる。
……嘘だ、嘘だろ?
俺は恐る恐る、胸の膨らみを持ち上げて、離す。
ポヨヨン
「ななな、何じゃこりゃあ〜〜!?」
膨らみは俺の胸から離れることなくバウンドする。
そして容赦なく、“この身体は女性である”という事実を俺に突きつける。
「何だこれは?何が起こってるんだぁ!?」
パニクる頭を必死に抑えながら、何とか立ち上がり、周囲を確認する。
すると、近くにあの巨大な狼の死骸が転がっていた。
「うわぁ!」
俺は恐怖で咄嗟に後ろに飛び退く。
狼はピクリともしない。
「あの狼は幻じゃなかった?じゃあこの腕は?というかこの身体は!?」
大声で、誰かがいるなら聞こえるだろう声量で投げかける。
しかし、ここには俺しかいないんだ。
答えが返ってくるはずもない。
はずだった。
『ギャーギャーうるさいのう。少しは落ち着かんか。みっともない男よ……いや、今は女か』
俺の頭の中に、女の声が流れ込んでくる。
高慢そうで、尊大で、しかし疑いようのない“格”を感じさせる女の声だった。
読んでいただきありがとうございます。
よければブクマ・評価・感想いただけると励みになります!




