第36話 ひとつ、ふたつ、みっつ
※本作にはTS要素があります。
こっちの武器は弓矢のみだ。
俺は、迫り来るスプリガンたちに弓矢で応戦する。
何度も当たりはするものの、弱点以外にヒットしたところで大したダメージはない。
素早く動くスプリガンたちの弱点に、ピンポイントで攻撃を当てるのは、至難の技だ。
「くそぉ!」
俺は悪態をつきながらも矢を番える。
そして再度、目についたスプリガンに矢を放つ!
ガッ!
しかし、矢がスプリガンに届くことはない。
奴の触手は、あっさりと矢を弾き返した。
「こいつら、俺の動きに適応してきてるのか!?」
『アレックス!下じゃ!』
目を離した隙に、俺が登っている木の根元に、一体のスプリガンが立っていた。
そいつは幹や枝に触手を絡ませながら、木を器用に登ってくる。
「野郎、落下の勢いで潰してやる!」
登ってくるスプリガンの、無防備な顔面に蹴りをお見舞いしようと、飛ぼうとしたその時――
ズズンッ!
別のスプリガンが木の幹を強く殴りつけ、大きく揺らす。
その振動に足を取られた俺は、飛ぶことができない。
そしてその間に登ってきたスプリガンが、目の前に迫る!
『退け!』
「分かってるよ!」
俺は体を重力に預け、自由落下でうしろへと退く。
そのまま空中で、後方にクルリと回転し体勢を整える。
着地の瞬間、さらに地面を転がり、衝撃を逃して無傷で着地した。
「くっ!」
直後、微細に揺れる地面の振動を感知し、俺は咄嗟に側方へと飛んだ。
それと同時に、地面からいくつも生えてきた触手が、元いた場所を抉り取る!
「連携攻撃がえげつねえ!」
『……これはやはり、妾の魔力を取り込んだ故か?』
息をもつかせぬ連続攻撃は、俺の集中力と体力を着実に削っていく。
どこへ避けても、別のスプリガンがフォローをしてくる。
この波状攻撃に隙が見出せない。
俺は防戦一方で、時間だけが過ぎていく。
どこかに逃げようにも、気がついたら回り込んできているため、逃げ場がない。
「一体でも減ってくれれば、まだ違うのに……!」
無いものねだりをしてもしょうがない。
しょうがないけど、このままじゃなぶり殺しだ。
「なあバルフェリア!こいつらを魔法で焼いたり出来ないのか!?」
こうして会話をしている間にも、当然スプリガンの攻勢は止まらない。
俺はなんとか避けながら、藁にもすがる想いで声を絞り出す。
『確かに焼くのは効果的じゃろう。柄もある。焼くこと自体は可能じゃ』
一筋の光明。
「なら――」
『場所が悪すぎる。あっという間に燃え広がり、お主も巻き込まれよう』
少し考えれば当然だ。
奴らは木の化け物だが、ここは当然森の中だ。
森の中でなんの対策もせず火を焚けば、どうなるかは一目瞭然だろう。
……よっぽど集中力が削られているようだ。
このままだと、まずい。
俺はスプリガンの殴打を再びバックステップで避け、地面に着地――
シュルルッ!
――する直前、二本の触手が俺の両足に絡みつく。
「しまった!」
さっきの殴打は、俺のバックステップを誘う餌だったのだ。
こいつらは、俺の癖をも学習してきている。
こっちは観察する暇もないっていうのに。
流石に多勢に無勢が過ぎるだろ!
心の中で悪態をついてもどうにもならない。
俺はあえなく触手で空中に引き上げられ、宙吊りになる。
「まさか――」
嫌な予感が背筋を走る。
その予感の通り、触手はそのまま俺を地面へと勢いよく叩きつける!
「うわあああ!」
バシッ!
地面に打ちつけられるより、柔らかい衝撃。
ダメージはなかった。
「大丈夫か?」
ガレスが俺と地面との間に割って入り、俺を受け止める。
そして間髪入れずに、腰に携えていた手斧で、俺の足に絡みついていた触手を切り落とした。
「あ、ありがとうございます」
「気にするな。緊急事態だ」
ガレスの実力の程はわからない。
しかし、一対四が二対四になるのは正直大きい。
俺たちは、スプリガンの追撃を避けながら会話を続ける。
「いいんですか?まだ試験中ですが!」
「死なれると寝覚めが悪い」
ガレスが手助けをすれば誰も死なないと?
大した自信である。
しかし言質は取った。
お言葉に甘えて共闘と行こう。
「気をつけて!あいつら、学習速度が異常です!」
「……なら速攻で行く。援護しろ!」
え?今ので理解したのか?
ガレスは突然、一体のスプリガンに向かって突撃する!
「ちょっ、ああもう!」
俺はガレスの援護をするように、スプリガンに矢を放つ!
しかしスプリガンは、顔に向かってきた矢を軽く触手で払いのけた。
ドスッ!
――直後、スプリガンの頭を、手斧が深々と抉った。
矢を払った一瞬の隙を狙って、ガレスが手斧を投擲したのだ。
「ひとつ」
ガレスがボソリと呟く。
そして急に反転し、自身の死角だった方向に駆け出した。
ちょうど木々の隙間から、スプリガンが一体、姿を見せる。
勘か、経験則か。
ガレスは迷いのない動きで、背負っていた長槍を持ち、そのままスプリガンへと突進した!
そして派手な音を立て、長槍は木の間で逃げ場のないスプリガンの顔面を深々と貫いた。
「ふたつ」
ガレスは呟く。
倒した敵数のカウントなのだと、ここでようやく俺は気付いた。
ガレスは長槍を引き抜くと、力強く踏み込み、その長槍を宙へと放り投げた!
ドンッ!!
上空から急襲しようとしていたスプリガンはあっけなく長槍に貫かれ、力なく宙を舞い、地面に転がった。
「みっつ」
「すげえ……」
これが一流の冒険者、と言わんばかりの動き。
あっという間に三体撃退だ。
俺は、その強さに見惚れてしまった。
『何をしておる!』
「ボーっとするな!」
バルフェリアとガレス、二人から同時にお叱りを受けた。
その強い言葉に我に返ったものの、既に遅かった。
何かを吸い取られる不思議な感覚。
やられた。
俺の背後には、手をかざし魔力吸収を行うスプリガンの姿があった。
『くっ……この阿呆!』
バルフェリアの声は先ほどよりも、疲労の色が濃い。
油断してしまった。
これでまた、バルフェリアの力に満ちた、強大なスプリガンと戦わねばならない。
「まだだ!」
俺は背後に向き直り、スプリガンの動きに対応するため身構える!
果たして、どれほどの力で襲い掛かってくるか。
まだだとは言ったものの、勝てるイメージが湧いてこない。
それでも生きるためにはやるしかない。
赤黒く変色したスプリガンは、こちらを見据えて姿勢を低くする。
そして――
「……何だ?」
スプリガンはブルブルと痙攣し出した。
痙攣するだけで、動かない。
そして奴の体色は、少しずつ黒が濃くなっていき――
――鈍い音と共に、スプリガンは破裂した。
まるで、空気を入れすぎた風船のように。
「……今のは?」
ガレスは俺に問う。
が、俺にもよく分からない。
だがあの様子。
恐らく、魔力の量に耐え切れずに破裂したんじゃないだろうか?
最初に赤黒くなったスプリガンが震えていたのも、苦しかっただけなのかも知れない。
もしそうなら、だから他に分け与えて調整をしたんだ。
「いやー……」
『今のを見られたんじゃ。……あやつは誤魔化せんぞ』
「説明してもらおうか」
六体、いや、計七体のスプリガン全てが動きを止め、戦闘は終わった。
だがある意味、戦闘よりも難しい問題が、目の前に残されたのだった。
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