第35話 分け与えられた力
※本作にはTS要素があります。
スプリガンと行った、一対一での戦闘。
先ほどは不意打ちとは言え、ダンジョンで戦ってきた魔物ほどの脅威は感じなかった。
ただし、それはもちろん一対一の場合の話。
今回の相手は六体。
全員が囲むようにして、俺を睨みつけている。
奴らの隙間を埋めるかのように、立ち塞がる木々。
現状、逃げることは難しいだろう。
何体か減らしてからでないと、どうにも無理が過ぎる。
「バルフェリア。悪いんだけど、背後を見てもらってもいいか?」
『フ、良かろう。良い機転じゃ』
俺は軽く手を上げる様に右手を掲げ、バルフェリアに後方を任せる。
「これで死角はない、と」
さて、奴らはどう出る?
ヒリつく緊張感の中、葉が風に揺らされる音だけが聞こえる。
――そして、
『後ろ!くるぞ!』
先に仕掛けて来たのは、後方のスプリガンだ!
俺はバルフェリアの声を聞き、後ろを振り返ることなく、迷わず全力で前方へと駆け出した。
ドスン!
それとほぼ同時に、後方から重量感のある音と振動が伝わって来る。
やはりバルフェリアに協力してもらってよかった。
この人数差、俺ひとりでカバーし切れるわけがない。
「っよし!」
前方には二体のスプリガン。
一体は、その場でこちらに手を向け、魔法の準備をしている様子だ。
もう片方は、俺に殴り掛かるために拳を振り上げながら、こちらに向かって来る。
「……こいつら」
やはり、遅い。
アイアンゴーレムは言わずもがな、鎧野郎よりも遅い。
あの地獄を生き抜き、観察眼を身につけた俺には、こいつらの動きは遅すぎる。
スプリガンの殴打を難なく避け、その頑丈そうな腕を足場がわりに、再び跳躍。
手をかざし、魔法の準備をしていたであろうスプリガンの照準は、俺の動きを捉えきれず、定まらない。
「そこだ!」
俺は空中で瞬時に短剣を抜き、狙いを定め、殴りかかってきたスプリガンの目を深く貫く。
そしてそいつは動きを止め、ゆっくりと倒れた。
まず一体目。
これで残り五体。
次の相手に向かうために、俺は力を込めて短剣を引き抜こうとする。
が、短剣が抜けない。
……どうも勢いよく刺し過ぎたようだ。
深々と根元まで刺さり、何度引いてもビクともしない。
『勢いをつけ過ぎじゃ、阿呆』
ぐ、すかさず突っ込まれた。
そうこうしている間に、スプリガンの足音は背後から迫ってくる。
「くそっ!」
『また後ろじゃ!』
俺は短剣を諦め、横っ飛びでスプリガンの殴打をまたも避ける。
そのまま体を反転させ、スプリガンたちへと向き直った。
一、二、三、四……一体足りない!?
「どこだ!?」
目を凝らすも、周囲はおろか、木の上にも見当たらない。
……見失ってしまうのはやばい。
ガシッ!
その瞬間、地面から飛び出した木のような何かに俺の右足がガッチリと掴まれ、背筋に悪寒が走る。
その、木のような何かこそ、見失っていたスプリガンだ!
「――地中かよ!」
スプリガンは地中から飛び出し、そのまま勢いに任せて俺を空中へと放り投げる!
「うおああっ!」
思い切り放り投げられた、俺の視界に空が広がる。
空を見上げた瞬間、今度は俺の右腕に素早く何かが絡みつく!
「何だ!?」
見れば、絡みついているのは、木の根のようなスプリガンの触手。
放り投げ、そして空中で絡みつく触手。
その答えは恐らく――
触手は空中の俺を、地面方向へと思い切り引き落とす!
「予想、通りっ!」
俺は引き落とすを利用して、体を地面の方へと翻し、四つん這いの体勢で勢いよく地面へと着地した。
「痛ってえぇ!」
衝撃は全く逃せなかった。
両手両足に痺れが走る!
痛みを我慢し、触手が伸びている方向を見ると、そこには一体のスプリガン。
そいつは攻撃の手を止めず、俺ごと触手を振り回す!
「うおおおおおお!!」
俺はそのまま、空中で回され、速度はどんどん増していく。
そして触手スプリガンは、痛烈な一撃を与えるために、遠心力を利用して俺を木へと叩きつける――
――絡みついたのが腕でよかった。
不幸中の幸いと言うか、足が自由なのがデカかった。
俺は木に足で着地し、その反動で触手スプリガンの方へと飛び出した!
「お返しだ!」
俺は素早く矢筒から矢を一本取り出し、矢筈を靴裏にセット。
そしてそのまま、触手スプリガンの顔面に勢いよく飛び蹴りをお見舞いする!
メキッ
反動と体重を思い切り乗せた飛び蹴りは、矢を触手スプリガンの顔面に深々と突き刺した。
そのまま触手スプリガンは倒れ伏す。
これで、残りは四体!
「なあ、これって――」
『うむ。妾の魔力が浸透し始めとるのかもしれんな。ま、まだまだじゃがの』
そうだ。
バルフェリアは、魔力の操作で身体能力が上がる、的なことを言っていた気がする。
魔力を通してもらったり、融合している時間で徐々に馴染んできているのかもしれない。
「ならこの調子で――」
その時、違和感を感じた。
残りのスプリガンが、誰も距離を詰めてきていないのだ。
四体とも距離を保ち、俺に手のひらを向けて構えている。
『っいかん!カイルのように、精気を吸われるぞ!』
やられた。
こいつらは、俺を捉えるために、チームプレイを行っていたんだ。
それも恐らく、俺が試験のために倒した最初のスプリガン。
そいつ自体がそもそも囮だったのだろう。
動きに対応できたから、完全に甘く見ていた。
四体のスプリガンは一斉に、俺に向けて精気吸収の魔法を放つ。
それも完全同時ではなく、ほんの少しずつタイミングをずらして。
これを食らうわけにはいかない。
カイルのようになってしまうのだとすれば、食らった時点で即アウト。
「食らってたまるか!」
余裕を持ってひとつ目。
大胆にふたつ目。
ギリギリみっつ目と避けていく。
そして最後の四つ目は、
――避けきれなかった。
避けるために無理やり捻った体は、これ以上は動かせない。
どこへも避ける事はできなかった。
スプリガンの魔法が、俺へと襲いかかる!
「ぐあっ!」
何か大事なものを吸われている感覚。
これが、精気を吸われるということなのだろうか。
――そしてしばらくして、スプリガンの魔法照射が突如として止まった。
「……ん?」
吸われた感覚はあった。
だが、俺の体には何の変化もない。
不発か?失敗か?
いや、何だっていい。
体に異常がないなら、反撃をするだけ――
ドンッッッ!
大きな音と共に地面を揺らし高く跳躍した、一体のスプリガン。
そいつは真っ直ぐに俺目掛けて襲いかかる!
「うおっ!」
不意を突かれたが、俺は素早く近場の木に駆け登り、何とか回避に成功した。
が、スプリガンの強力な一撃は、周囲の木ごと破壊する!
「やっば……!」
俺は破壊された木を空中で踏み台にし、何とか別の木へと飛び移れた。
あの速度、パワー。
今までのスプリガンなど、紛れもなく比にならない。
奴の体表は赤黒く変色し、顔つきも、より凶々しいものとなっている。
「何だ?……こいつは」
何が起こってる?
どうして急にパワーアップしたんだ?
『あやつ、妾の魔力を吸収しおった……!』
「!?」
バルフェリアの声が、微かにかすれて聞こえる。
軽い疲労を感じている声質。
こいつが些細でも弱った声を出すなんて事は、今までに一度もなかった。
「もしかしてあいつ、俺の精気の代わりにお前の魔力を……?」
『そうらしいの。しかし気をつけよ……妾の魔力を吸った魔物なぞ、今までに見たこともない。』
バルフェリアの魔力を吸収した結果、あの変化ってことか。
「やばいな。どうにか逃げるか?」
『さて、簡単に逃がしてくれるかの……?』
奴の目は、バルフェリアの言葉通り、俺たちを逃そうなんてかけらも思っていない、鈍い輝きを放っている。
そして奴は――
地面に自分の両手を突き刺した。
「……?何を」
ゾワリと嫌な感じが身体を駆け巡る。
身体中が粟立つ。
このままここにいるとやばい。
そんな予感がビシビシと伝わってくる!
俺は咄嗟に、木から飛び降りる。
瞬間、俺が立っていた木は、無数の触手に絡みつかれ、埋め尽くされた。
触手は容赦なく、ミシミシと音を立て、木を締め上げる。
「お前の魔力の影響、怖すぎだろ……」
『まさか、この様な効果があるとはな』
「そうだ、お前は魔力を吸われて大丈夫なのかよ?」
『……うむ。多少、倦怠感の様なものを感じるが、問題はない。しかし、奴にとってはかなりの量の魔力となったはずじゃ』
赤黒いスプリガンは、巻き付いた触手で木を粉々に粉砕する。
力が溢れてたまらないのか、呼吸は荒く、体はまるで痙攣するかの様に細かく震えている。
そして奴はこちらを見据え――
ギイイイイイイイイイ!!
口から激しい金切り声を発し、背中から三本の触手が飛び出した!
触手はものすごい速度で飛び、他のスプリガンに突き刺さる。
「何をやってるんだ!?仲間を攻撃するとか、正気か?」
強大な魔力に我を忘れて狂ってしまったのか。
そう思ったが、それは間違いだったと、すぐに思い直すことになる。
奴の体から赤黒さが消える。
まだほのかに赤いが、凶々しさは感じない。
そして、触手が刺さった他のスプリガンたちも同じ色味になっていた。
まさか――
「魔力を、分け与えたのか?」
俺が疑問を呈したのと同時に、四体のスプリガンたちは動き出す。
通常のスプリガンではあり得ないであろう俊敏さで、俺へと迫り来るのだった。
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