第29話 門をくぐれば
※本作にはTS要素があります。
冒険街、オークリッジ。
そこは、ダンジョンを内包する山にほど近い場所に作られた街。
「オークリッジって名前自体は、森が近いからって事で分かるんだけどさ。冒険街、って言うのはどこから来てるのか、知ってる?」
俺はカイルに質問を投げる。
街で奴隷をしていたのなら知ってるかな?と思ってのことだ。
「はい、もちろん。この街の起源は、三百年ほど前まで遡るそうです」
「えー!三百年!?すっげー!」
「ふふ、そうですよね。はじめは、ダンジョンでの一攫千金を狙う少数の冒険者たちが集う、小さな集落でだったそうです。
そんなある日、ダンジョンで掘り当てたお宝が話題になって、多くの冒険者や商売人が集まった。
そうして出来たのが、冒険に夢を馳せる街、オークリッジ、と言うお話です」
こう言っちゃなんだが、ものすごく分かりやすかった。
カイルの説明は何かこう、スッと理解できる。
「すごいな、カイル」
「いえ、街に住む人なら誰でも知ってるお話ですよ」
「こりゃ、アレックス。なんでお主は街のことを知らんのじゃ?」
「う……仕方ないだろ!俺はど田舎出身なの!実際、あの村から出ることはないと思ってたぐらいだし」
実際、本当にそう思っていた。
村が焼け、奴隷に落ちるまでは。
「とにかく、街に行くなら主人と奴隷ってテイで行くしかないな」
「でも……本当にいいの?あたしたちも一緒で」
奴隷の少女、ミリアが遠慮がちにそう告げる。
「構わぬ。弱きを救うのが、強き者の義務よ」
バルフェリアは鷹揚な態度で堂々と答える。
小っちゃいけど。
「うん!ありがとう!」
ミリアはすっかりバルフェリアに懐いてる。
引き離すのも野暮ってもんだ。
ここまで来て、見捨てる気も起きないしな。
「アレックス」
「どうした?ルカ」
「アレックスは服、着替えた方がいいよ。同じ奴隷みたいだからさ」
ルカに痛いところを突かれる。
このボロボロの格好で、主人です!なんて言っても、確かに説得力がない。
だが切実に――
「……金が、ないんだよね」
はい、俺たちは無一文なんです。
ダンジョンから命からがら脱出をしたものの、金銭は一切、手に入れることができなかった。
「何を言うておる。金銭そのものではないが、良いものが手に入ったではないか」
「イイモノ?」
そんなものあったかな?
と俺が考えている間に、バルフェリアが俺のバッグに頭をつっこんで、それを取り出した。
「これじゃ!」
バルフェリアは小さい体で、ポーションを頭の上に掲げている。
「ああ、ダンジョンで手に入れたポーションか」
「これはな、欠損も回復させるレアポーションじゃ!売れば大金になるはずじゃぞ!」
「うえ!?そんなすごいもんだったの!??」
「ま、妾ほどの使い手ならば、こんなもの必要ないんじゃがな。そうでないものは、喉から手が出るほど欲しがる一品じゃ」
マジかよ!
「じゃあ売れさえすれば、しばらくは安心して過ごせるんじゃないか!?」
「その通りじゃ!」
「よし、善は急げだ!そうと決まれば、さっさと街に行こうぜ!」
「あ、ちょっと待って」
俺たちが意気揚々と街に向かおうとした時、ミリアからストップが掛かる。
「……バルフェリアちゃん、そのままだとまずいと思う」
「あ」
確かにこんな三頭身のちんまい生き物、見たことない。
このまま街に行けば、騒ぎになりそうな気がする。
「むう……仕方ないのう」
ポンッ
煙とともに、ミニバルフェリアだったものは柄へと戻り、バルフェリアは俺の右手の目玉に変化した。
「またお話ししようね、バルフェリアちゃん」
『フフ。勿論じゃ』
庇護欲でもそそるのだろうか?
バルフェリアはミリアに甘い。
強者が弱者を守る、ってポリシーゆえなのかもな。
「あ、あとアレックス様」
「ん?」
「その言葉遣い、何とかなりませんか?」
「え?何か変かな?」
何だ?訛りでも出ちゃってたかな?
「もう少し、女性らしい言葉遣いが望ましいと……」
歯切れの悪いカイルの後ろで、ルカもミリアも頷いている。
「……このままじゃ、駄目?」
三人、息ぴったりに再度頷く。
『カッカッカッカッ!』
満場一致。
バルフェリアは笑ってるんじゃないよ、畜生。
――――――
「止まれ」
俺たちは門衛に歩みを止められた。
あの後すぐ、みんなと山を下った。
そしてダンジョンと街を繋ぐ街道を、何の問題もなく進み、オークリッジの北門へとたどり着いたのだ。
――途中、すれ違う冒険者たちにジロジロと見られたが、特に問題はなかった。
俺みたいなボロボロの格好の女が、奴隷を三人も連れてるのが珍しかっただけだ。
「姉ちゃん!おっぱい揉ませてくれよ!」
と下卑た声を浴びせられたが、きっとただの下品なジョークだ。
すれ違う男連中の殆どがイヤらしい目で見てきた気もするが、きっと気のせいだ!
俺は先ほどあった出来事に蓋をして、門衛へと向き直った。
「えーと、なんでしょうか?」
「女が一人で何をしてる?」
「イヤですね。他に三人もいるじゃないですか」
「三人と言っても奴隷だろう。こんなものは人とは呼べん」
は?何だとこの――
『この痴れ者め!恥を知れ!』
……俺の怒りが爆発する前に、バルフェリアが爆発した。
『この者たちが人間でなければ、何が人間なのだ!人を見下すための制度をた盾に、人を貶めるなど下衆のやることじゃ!』
頭の中がめちゃくちゃうるさい。
……だが、真剣なバルフェリアの言葉は、俺の胸に刺さった。
俺の気持ちそのものの代弁のようでもある。
だが、俺以外の誰にも聞こえていないのは残念だ。
怒りを爆発させたバルフェリアの声は、俺の怒りを収めてくれた。
もしかしたら、これが狙いだったのかもしれない。
よし。
「あなたはそう言いますが、この三人は大切な従者であり、友人です。
私の服は見ての通りボロボロですが、これも三人が助けてくれたから、この程度ですんだのです」
俺の口は止まらない。
「見ての通り、私たちは得体が知れず怪しいのかも知れません。
ですがどうでしょう?奴隷と小娘一人に、何か大それたことができると思いますか?
それとも、この街は傷ついた、少女ひとり、助けては下さらないのでしょうか?」
俺は何だかよくわからない言い訳を捲し立てた。
道理が通ってそうな、通ってなさそうな、俺自身よくわかってない。
だが、門衛を惑わすには充分なはず!
「……」
門衛は訝しみながら、俺と三人を見比べる。
そして、ため息を吐いたあと、
「奴隷が友人とは、だいぶ変わってるな。まあいいだろう。
あと、その格好は日が高いうちに何とかしろ。暗くなってからでは、襲われても文句は言えんぞ」
門衛はそう言って、“通ってよし”と親指のジェスチャーで街の中を指差した。
害はないと判断してくれたのか、面倒臭いと判断したのか。
何はともあれ、街に入ってもいいらしい。
「ありがとうございます」
俺は門衛に礼を伝える。
『このようなものに礼など言うでないわ!』
バルフェリアはまだおかんむりだ。
と言うか、俺を冷静にするためにわざと怒りを見せたんじゃ無いんかい!
と、直接ツッコミたいところだが……。
俺と右手の会話は、この三人でさえドン引きしてたんだ。
赤の他人からすると、気が狂った女に見える可能性が高い。
気をつけよう。
俺は改めて門番に一礼をして、街中へ向け歩きはじめた。
「ありがとうございます。庇って頂いて」
カイルが俺に礼を告げるが、何だかむず痒い。
「俺だって元々奴隷だったんだ。そんなに畏まらないでくれよ」
「アレックス様!」
俺の軽口を、カイルが慌てて大声でかき消した。
周囲の人々が何事かとこちらに視線を向ける。
「……失礼しました」
「いえ、こちらこそ」
バルフェリアのことを気をつけようと、思った矢先の失言だった。
口には気をつけよう。
――――――
オークリッジの街中は賑わっていた。
門から街中に入ってすぐの場所にあった市場は、屋台や露天で溢れている。
奴隷としてでなく、自由に街を歩くなんて初めてだから、色んなところに目移りしてしまう。
『お主、目的は覚えておるだろうな?』
うっ、釘を刺された。
そうだ、早めに売れるところを探したい。
カイルなら知ってるだろうか?
「なぁ…じゃない。ねえ、カイル。ポーションはどこで売れるか、分かる?」
「ええ、それなら薬屋に行けばいいかと。ダンジョンで手に入れたポーションは高く売れると聞いたことがあります」
へえ、なるほど。
餅は餅屋的な話か。
「じゃあ薬屋を探しましょう。ええと、薬屋は」
「案内しますよ」
おお、カイル有能。
「この街で奴隷として仕えていたと言いましたが、商人の召使いとしての奴隷だったんです。……色々あって、ダンジョン奴隷になってしまいまして」
「そっか。あ、二人ともはぐれないようにね」
「「はい」」
俺はカイルとの話をそこそこで切り上げ、ルカとミリアに呼びかける。
カイル本人が“色々”ってぼやかしてるんだ。
言いたくないことに違いない。
「こちらです」
カイルに案内され、街の中を進み、程なくして薬屋の前に到着した。
「ここですね」
美しい赤い屋根が目立つ一戸建ては、店舗兼住まい、といった雰囲気を放っている。
「さ、用事はパパッと済ませちゃいましょう」
そう言って俺は、薬屋の扉を優しくノックしようとした――
「うわあああああっ!」
突然、店内から叫び声とガシャンと激しい音が響く。
「何が起こった!?」
俺は反射的にドアを蹴り開いた!
その先には――
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