第22話 砕けた鉄と折れた腕
※本作にはTS要素があります。
ドカッ!
床に叩きつけられた瞬間、視界が白く弾け、激しく揺れた。
何が起こった?
記憶が飛んでいる。
『しっかりせい!』
バルフェリアの声に、急速に意識が戻る。
咄嗟に短剣を持ち、立ち上がる。
そこにとどめとばかりに、アイアンゴーレムが襲いかかってくる!
ガィン!
再び、短剣と鉄拳が交差する。
衝撃で体が揺さぶられる。
ダメージが如実に残っていて、踏ん張りがきかない。
左腕が熱い。
そういえば、さっき思い切り殴られた。
この感覚、恐らく折れている。
というか、肉ごとグシャリと押しつぶされている。
かなりの痛手だが、まだ集中は切れていない。
というより、集中が切れでもしたら、もはや戦闘継続は不可能だろう。
ガイィン!
スピードはかなり上がったが、片腕が減ったぶん攻撃パターンは単調だ。
この調子なら俺が倒れるよりも早く、奴の右腕も破壊できるだろう。
そんな時、
――突然、奴が攻撃をやめた。
奴はバックステップで距離を空け、動きを止める。
「……なんだ?」
……エネルギー切れだろうか?
いや、罠の可能性も捨て切れない。
もしものことを考えると、どうしても追撃できない。
『何をしておる!行かんか!』
「もしかしたら、罠かもしれないだろ!」
『……チャンスをふいにしおって、このたわけ』
アイアンゴーレムが、ぶるりと大きく震える。
震えた直後、奴の右腕が細く長く、変質していく。
脚もみるみる短くなっていく。
そのぶん腕がどんどん長くなり、いくつも節が増えていく。
そして、変質が止まる。
その姿はまるで、獲物を狙う鉄の蛇。
「これは……鞭?」
『避けよ!』
耳をつんざくバルフェリアの怒声。
俺は反射的に後ろに下がる。
その直後――
バチィィィン!!!
空気と地面を破壊する破裂音が、先ほどまで俺がいた場所の地面を抉り取る。
何が起きたのか、見えなかった。
鉄なのに、細くしなやか。
そして充分な強度を持つそれは、とんでもないスピードで地面を刈り取る。
奴は近距離では不利と踏んだのか。
その鞭の先端は、もはや目では追い切れないスピードだ。
「くそっ!長さも自由自在かよ!」
離れれば離れたぶん長くなり、近づけば近づいた分短く、長さを調整される。
俺は負傷した体で、動きを止めることなく走り続けることを強要された。
一瞬でも止まれば、鉄の蛇は俺の体をたちまち粉砕するだろう。
……左腕はすでに感覚がない。
だが、今はそんなことを気にしている暇なんてない。
先端が見えないことには、短剣で受け止めることもできない。
……仮に受け止められたとしても、その衝撃に襲われた時、俺の体はどうなってしまうか。
「何とか隙は作れないのか……!?」
『伏せよ!』
バルフェリアが叫ぶ。
その声に反射的に伏せる。
ビュウゥン!!
風切り音とともに、鞭が頭上を薙いでいく。
「……」
バルフェリアの声がなければ、俺は既に二度死んでいた。
彼女は叫ぶほど感情を見せ、俺を助けてくれている。
もちろん俺は、俺のために戦っているつもりだ。
だが、助けてくれるバルフェリアの気持ちにも報いたい。
「バルフェリア」
『何じゃ!』
「ありがとな!」
『何!?』
ちょっとしたやり取り。
だが、今はこれで充分だ!
元気をもらえた!
気を取り直して、俺は走りながら奴の動きを観察する。
しかし相変わらず、鞭の先端を捉えることはできない。
「なら――」
見るべきところはそこじゃない。
どんな角度で鞭が振るわれているか、だ。
鎧野郎の時と同じだ。
角度が分かれば、次の攻撃範囲と予測ができる。
だからこそ、見るべき場所は右腕の付け根にあたる場所――右肩だ!
俺は鞭打を前後左右に必死で避ける。
髪や衣服を風がかすめていく。
避けながら――
見る。
見る。
――見る。
「……分かったぞ」
相手はあくまでゴーレム、人形だ。
動きは速いが、肩の動きは一定のリズム。
奴の攻撃の角度も、理解した。
あとは奴に肉薄するために、ギリギリで避け、全速力で近づくだけだ。
しかし、分かったとは言え、鞭は尋常ではないスピードと破壊力を持って、俺を襲い続ける。
これをギリギリで避けるなんて、本当に俺にできるのか?
かすりでもすれば、ダメージはスライムのそれとは比較にもならない。
肉が千切れ飛ぶだろう。
恐怖はジワジワと俺の精神を蝕む。
だが、それでも――
俺は、俺の度胸と悪運を信じる!!!
「度胸だ……腹を括れ!」
俺は吠えると同時に、コンマ数秒脚を止める。
その瞬間を見逃すことなく、奴の鞭が俺に襲いかかる!
それを俺は最小の動きで、左に一歩だけズレるようにして避ける!
バチイイィィイイン!!!
――成功だ。
紙一重だった。
間髪入れず、返す刀で鞭が飛ぶ。
行くならここだ!
バチイイィィィイン!!!
紙一重の回避と同時に、俺はアイアンゴーレムに向かって駆け出した。
タイミングを見て、右へ左へ、軸をずらして鞭を避ける。
――どこを狙うか?
攻撃すべき箇所は、もう決まっている。
左腕を切り離した、あの接合部。
切り離した断面から、中身が丸見えだ。
いくら短剣に魔力を通しても、奴の外装にはなかなか傷をつけられない。
ならば、狙うべきはそこしかない。
そこに賭ける!
俺は右手の短剣を逆手に持ち直し、アイアンゴーレムに向かって、跳んだ。
「これでもくらええええ!!!」
ドッ!!
剥き出しの中身、魔力回路に短剣を深々と突き刺した!
力強く押し込み、短剣に纏うバルフェリアの魔力が、奴の魔力回路を容赦なく焼き続ける!
アイアンゴーレムは激しく揺れ、必死に俺を引き剥がそうともがく。
「離すかよ……!」
俺はアイアンゴーレムに足を絡めてしがみ付く!
振りほどかれたら終わりだ!
そして――
バチバチバチッ!!!
激しいスパーク音が鳴る。
アイアンゴーレムの動きが、止まった。
「……やった」
動きを止めたアイアンゴーレムを見て、安堵の息を吐く。
「ふう……」
アイアンゴーレムを倒した。
さて、もう扉は開いただろうか?
俺は進むべき扉を見る。
「これで扉は――」
『馬鹿者!』
メシャッ
「え?」
アイアンゴーレムの右拳が、俺の左肩に食い込み、俺の体は回転しながら宙を舞い、激しく地面に叩きつけられた。
しまった。
アイアンゴーレムは元の姿に変質し、俺を殴りつけたのだ。
二度目の攻撃をもろに喰らった。
致命的だ。
ダメージが大きすぎる。
なかなか立ち上がれない。
いや、立てない。
ダメージで足が動かない。
意識も朦朧としている。
視界に入ったアイアンゴーレムは、カクカクと滑稽な動きをしながら、俺の方へと向かってきている。
奴のダメージも深刻なようだ。
まともな動きができないでいる。
「う……ああ……」
『アレックス!しっかりせい!』
焦点が定まらない。
バルフェリアにも上手く声を返せない。
そうしてる間にも、奴が迫る音だけは聞こえてくる。
俺にできる事は、ない。
もう体が動かない。
――あと少しだった。
ここまで、生きるために抗った。
強くもなった。
本当の意味で必死になったのは初めてだった。
死ぬには早いのかもしれない。
だけど、自分の力でここまでできたんだ。
割と満足してる。
「……バルフェリア……」
最後の力を振り絞り、蚊の鳴くような、か細い声でバルフェリアを呼ぶ。
『何じゃ』
「やるよ……この体……」
もう、喋る力も無くなった。
そこで、俺の意識は完全に途切れた。
読んでいただきありがとうございます。
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