キケンなオンナたち 8
「ジェニファ。よくきてくれた」
「辞令がおりたゆえ。これよりはウズベル卿の部下として、白の軍の末席を汚させていただく」
晴れて彼女は我が軍の一員となった。
騎士として叙勲されたわけではないので、身分としては一兵卒でしかないが、ジェニファの戦術眼は私と同等だ。
片腕として大いに期待している。
「それで、なにやらお困りの様子だったが」
「ああ。魔法学校に探りを入れたいんだけど、適当な人材がいなくてね」
ロバートだと迫力ありすぎるんだもん。
かといって彼が魔術協会にいっても軽く扱われてしまう。
このあたりは悪しき伝統なんだけど、魔法使いってのはそうじゃない人を見下してるから。
私やパリスのような魔法騎士でないと、まともに話も聞いてくれない可能性が高いのだ。
「なれば、魔法学校の方はわたしが探ろう」
「いいのか?」
ジェニファはジェニファでガタイが良いが、ロバートよりははるかにマシだろう。
女性だから、必要以上に警戒感を持たれずに済むし。
「安んじてお任せあれ」
大きく頷く女戦士だった。
そして三日後。
パリスとジェニファが持ち寄った情報をもとに、今後の計画を策定する会議を催した。
場所はロウヌ邸。
集まっているのは、私、ロバート、パリス、ジェニファ、そしてメイリーである。
そして私とパリス以外は、この家の住人だ。
「会議ではなく、ご飯を食べにきただけですよね。隊長」
「そうともいう」
ともあれ、食事しながら方針を決めようってのは本当だ。
公私混同というなかれ、私だってたまにはメイリーの手料理が食べたいのである。
ここ数日忙しくて、ぜんぜん会えてなかったし。
一日一メイリーは必要な栄養素だと思うんだよ。
あれだ。
我が国は、私を深刻なメイリー不足で殺すつもりなんだ。
「結論から言いますと、魔術協会はシロですね。この件に関して、むしろ蜂の巣をつついたような騒ぎになってましたよ」
鴨肉のローストをつまみながらパリスが報告する。
全員の前には、軽い酒精が置かれていた。
がっつりとした食事ではなく、酒を楽しむための肴としてのラインナップだ。
これはこれで素晴らしい。
つーかこの鴨肉、美味しすぎないか?
私の皿を狙うなよ? パリス。
まあ、飲みながら話そうって時点で、会議でもなんでもないよね!
「あれは知っていて隠してるって雰囲気ではありませんでしたな。むしろ彼らも躍起になって原因を探っている感じでした」
そりゃそうだろうな。
封印された禁術が、もし協会から持ち出されたのであれば大スキャンダルだ。
厳正中立を謳い文句としている魔術協会としては、とんでもない話になっているだろう。
「逆に魔法学校はちょっと雰囲気が違ったな。まさかというより、やはりという感じだった」
語を継ぐジェニファ。
二枚貝を殻ごと焼いて、東方のソイソースとやらをかけたものを楽しんでいる。
それも美味そうだね!
ちょっと食べにくそうではあるけど、うす茶色に染まった貝柱がすんげー食欲をそそるよ。
「つまり、学校の方では何か心当たりがあるということかな」
「そのあたりはやや不分明だな。ただ、ここ一月ほどの間に、八人もの学生が行方不明になっているらしい」
キメラと関係があるかどうかまでは掴めなかったが、と、ジェニファが付け加える。
一月に八人。
数学的な確率から考えておかしな数字だ。
スラムなどではなく、貴族の子弟が通う学校なのだから。
「よく今まで騒ぎにならなかったもんだな。隠蔽主義ってやつか」
ぐいと杯をあおるロバート。
情報収集において、まったくなんの役にも立たなかった男だ。
「隠蔽というのもたしかにあろうがな。ロバートどの。むしろいなくなってせいせいするという類の輩らしく、だれも心配はしておらなんだ」
札付きというやつだろうか。
まあ、どんな組織でも社会でも、そういうのが一定数は含まれるからね。
このケースだと貴族の三男とか四男とかで、お気楽に遊んでるバカ息子っていうところだろう。
なんか悪行のほどが目に浮かぶようだよ。
「ふむ。学校では変な事件が起こっているが、とくにこれといった情報はないか」
杯を空け、パリスが腕を組む。
席を立ったメイリーが、全員の杯に酒を注いでまわる。
可愛いなぁ。
気が利くなぁ。
「どうすんですかい? 若。手がかりがなくなっちまいやしたぜ」
メイリーを見ていたら、くそオヤジの声が邪魔をした。
至福の光景から、むさくるしいオッサンに視線を移す。
「犯人は学生だろうな」
『…………』
あっさりと言った私に、ロバート、パリス、ジェニファが沈黙の三重奏をかなでる。
あれ?
そんなに難しかったかな?
「どうしてそう思うの? 兄ちゃん」
「や。魔法学校の学生が八人も行方不明になってるなら、学校関係者を疑うのは定石だろ?」
「そうだけど、学校の行方不明と、こないだのキメラ事件はどう繋がるの? 殺されたのは学生じゃないよ?」
たしかにそれはそうだ。
別件と考えたくなるのも判るが。
「それは順序が逆なんだよ。メイリー」
「逆?」
たぶん魔法学校において、捜査関係者の気配を至近に感じた犯人は、その耳目を逸らすために市街地にキメラを出現させた。
この二つは無関係な事件なんだよーんって思わせるために。
ようするに、このまま学校の中で事件を起こし続けたら追いつめられる、と読んだわけだ。
「だったら最初から外部で犯行を重ねた方が露見しにくいのだがな。しかし犯人はそうしなかった。それは、そうすべき必然性が犯人にあったということだろうよ」
どういう必然性か、までは判らない。
「じゃあ、学生だと思ったのはどうして?」
「そちらはもっと簡単だ。成算も計画性もない動き、追いつめられてから次の手を考える稚拙さ、中途半端に知恵がまわる子供そのものだろうよ」
「兄ちゃんってさ……すごい頭いいね……」
お?
私ほめられた?
いいぞメイリー。もっと言ってくれ。
ついでに結婚してくれ。
「ここまでくれば取るべき手は難しくない。学校内の捜査を始めればいい。外部で事件を起こすことに意味がないと悟った犯人は、攪乱という方法を捨て、排除という選択肢を選ぶのではないかな」
「しかし若。学生なんて、せいぜい一六、七の若造ですぜ。封印された禁術を扱うってのは、ちぃとリアリティがなさすぎやせんかい?」
「それはその通りだ。ロバート。私の考えのネックもそこにある。しかし、今のところ、学生が犯人と考えるのが筋が通るからな」
理由は判らないけど、なぜかできたという予測しか立てようがない。
「そうですなぁ」
右手で下顎を撫でるロバート。
感心するメイリー。
その横で、ジェニファがパリスに話しかけている。
ぼそぼそと。
「もとより侮っていたつもりはないが、ウズベル卿はおかしいな。ギュンターどの」
「ああ。変態だ。これで性格が残念でさえなかったら完璧だったろう」
「お前ら! きこえてるからな!」
なんだよ変態って。
そもそも私は残念じゃないぞ!
いやまて。
残念でなかったら、完璧な変態になってしまうのか。
それはそれでダメだろう。
ううむと考え込む私。
「こういう部分が残念なのだと、ウズベル卿は死ぬまでに気づけるであろうか」
「いいのさ。ジェニファどの。隊長が残念でなくなったら、小官たちが支える意味もなくなるし、かえって嫌味というものだ」
なんかすげーバカにされてる?
「まあまあ兄ちゃん。兄ちゃんのすごさに感服して、新作料理あげるから」
「え? 本当に?」
「東方から渡ってきたブタ料理。その名も叉焼」
皿の上に置かれる肉。
表面が刺激的な赤で、切り口は艶めかしいうす茶色だ。
「モモ肉で作ったのも良かったけど、お酒のオツマミにはバラ肉の方が良い感じだよ」
説明を、私は半分も聞いてなかった。
うまい。
うまいぞー。




