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目覚めた後

なんとか屋敷から脱出した後、混乱しているサンドラに飛びつかれた。身体に開いたあちらこちらの傷口に遠慮くなく抱き着くサンドラを諫め、島の人達が必死に引き離してくれたところまでは覚えていたが、その後の事はよく覚えていなかった。


見慣れない天井を見つめ続ける趣味もなく、とりあえず身体を起こす事にした。


「うっ…。全身が痛い…」


それもその筈、短時間で『11武装イレブンアームド』を多用したのだ。身体にかかる負担も相当なもので、きっちりと副作用として全身の痛みとして表れていた。幸いにも、顕現状態は偉大なる海君の三叉槍マグナ・ネプティヌス・ヒュンフからの蒼き鎧エルガイオスのみだったので、大きく生命を削る負担までは達していない筈だ。しかし精神的にも肉体的にも消耗は激しかった様で、疲労に打ち身、打撲とあらゆる痛みと倦怠感に襲われている訳なのだが、丁寧に巻かれた包帯へ自然と視線が移動する。


「あれ?ジャックスにやられた箇所があまり痛くないな」


腕を振ると気怠さは襲ってくるものの、それなりに切創もあった筈。そのどれもが切り傷らしい痛みを感じなかった。自分の身体の状態を確認していると、扉の外からコンコンと乾いた音を立てるのが聞こえた。


「はい、どうぞ」


その言葉と共に勢い良く扉が開かれ、サンドラが駆け寄って来た。


「先輩!目が覚めたんですね!!良かった…。島で腕利きの治癒士とお医者様に診てもらったのに、まる1日目を覚まさなかったから、もし起きなかったらどうしようって…」


「ほら、この通り。元気にお目覚めだ。と言っても少しだけ無理をしたから身体の至る所が気怠いけどな」


心配をかけまいと、力こぶを作り声をかける。そんな様子を見て少し安堵したのか、サンドラの口元が少し緩む。


「あの!先輩の身体を拭こうと思って、お湯を貰って来たんです。身体を洗わせて貰いますので!」


そう話すサンドラの手には桶が握られており、湯気が立ち上っていた。


「いや、いいよ!自分で洗うから」


見せる様な身体でもないし、当然ながらお断りをする。ましてやサンドラは貴族の令嬢なのだ。おいそれと男の肌を見せて良い訳がない事くらいは、俺にだってわかる。


「駄目です!先輩が倒れた昨日から私がずっと身体を洗っていたんですから!何を今さら恥ずかしがっているんですか!念のため包帯も巻いておきましたが、全部外しますからね!汗疹にでもなったら大変なんですから!」


凄い剣幕で話すサンドラに思わず仰け反りそうになる。と言うか昨日俺身体を洗われてたの?上も?下も?嫌な予感がして思わずシーツを捲り下半身へと視線を移す。


(う…俺が履いていた物とは違う短めの下穿したばきを身に着けている…)


「あ、あの…そちらの方はお婆ちゃんにして貰ったので…わ、私は何も見ていませんので…」


俺の様子を見たサンドラが、少し気まずそうに話す。俺だって気まずい。戦時中ならそんな事も言ってられないのだが、とりあえず心の中でローラに感謝をした。


「と、とにかく!少し身体は重いけど、自分で洗えるからいいって!」


「駄目です!私が綺麗にしますのでっ!」


何度目かの押し問答の後、再び扉からノックの音が聞こえ、ローラがやって来た。


「あらあら!ディオさん目を覚まされたのですね。本当に良かった…。おじいさん!おじいさんっ!ディオさんが目を覚まされましたよ!」


ローラの声と共に近づいて来る足音。直にノブがやって来た。


「おぉ!おぉ!ディオさん起きなすったか!丸一日眠り続けていたから心配しましたぞ!」


ローラと同じくノブも本当に良かったと安堵のため息をつく。二人にも多くの心配をかけてしまった様で少し申し訳なくなるが、サンドラ、ノブ夫妻も集まったところで、二日目のその後の事を聞くことにした。


「ご心配をかけてしまいすみませんでした。その…まだあれから時間も経っていませんが、オディ…ジャックス一味らはどうなったんですか?」


俺からの問いかけに真っ先に口を開いたのはノブだった。


「まずはわしから話そう。あの晩の事じゃが、島に住む者達も何が起こっているのかわからず、とにかく慌てておったよ。そりゃそうじゃ、この島で勢いづいていた権力者の屋敷が燃えているんじゃ。皆驚くのも無理はないて。わしも含めてじゃがジャックスの屋敷の様子を見に来た島民はそれなりにおったよ。ジャックスの抑圧に煮え湯を飲まされた連中も、呆気に囚われておったわ」


続けてサンドラが話す。


「先輩が気を失ってから島の人達にお願いしてここまで連れてきて貰ったの。直ぐに治癒士とお医者様に連絡して回復の処置をして貰ったのだけれど、先輩目を覚まさなくて…」


「そうか…」


「サンドラちゃんや、ディオさんがわしらの為に無茶な事をしてくれたのはわかったよ。取り巻きの連中はあっという間に蜘蛛の子を散らす様に島から出て行きおった。今となっては連中が強引な手を使って探そうとしていた『魔力石マギア・ペトラ』じゃが…結局それも本当にあったのかどうかも誰もわからぬ」


「…」


ノブが言う魔力石マギア・ペトラは確かに存在した。どこまでも燃え盛るような真紅の宝石。ジャックスは確かに最後の力を使って魔力石マギア・ペトラを使い、オディウムを呼び寄せた。いや、オディウムになったと言う方が正しいのかもしれない。その事実を伝えるかどうか迷ったが、ノブ達に今伝えるべきではないと思い、黙って話に聞き入った。


「あとはねぇ、ディオさんの身体に良さそうな食事をと思って、私が昨日市場に行った時の事だけど、ジャック達がいなくなった翌日から島の人達の何人かの様子が変わったって話を聞いてねぇ…。それもそれなりに土地を持っていた人達ばかり。不思議な事もあるもんだねぇと思っていたのだけれど、何か関係があるのかしら」


ノブが一呼吸ついた後ローラが口を開いたのだが、今の内容が少し気になりローラに質問する。


「それはどの様な感じで様子が変わったんですか?」


「聞いた話だと、口々に『今まで何をしていたんだ』とか困惑しながら家族に話していたそうよ。市場での話だからどこまで本当かはわからないけど、その時の話がなんだか耳に残ってね」


「そう…なんですね。ローラさんありがとうございます」


ローラは言葉を発せず、いえいえと言うジェスチャーをして目を優しく細めた。俺もその優しい笑顔に心が落ち着く。


「ノブさん、ローラさん。ご心配をお掛けしたした事、本当にすみませんでした。それに手当までしてくださり、本当にありがとうございました。力及ばずジャックスには逃げられましたが、先日の様にやすらぎ亭に強引な手段でやって来る連中はもういないと思います」


「そうか…ジャックスは…いや!お礼を言うのはわしらの方じゃ。ありがとう…本当にありがとう。外から来た人らにはわからんが、島に住んでいる者達がこの数年感じた違和感や異変も無くなり、これから少しずつこの島も以前の様に誰しもが気を休めれる場所へと戻る事じゃろう…。よし!ディオさんも目が覚めた事じゃし、さっそく精のつく料理を用意するぞい!ばあさん、手伝っておくれ!出来上がったらまた呼ぶから、少し待っててくだされ!」


そう言って、夫婦二人とも軽く頭を下げて、部屋を後にした。残った俺とサンドラがどちらともなく話かけられなくて、少しだけ気まずい空気が流れる。


『『あの…!』』


間の悪い事に同時に言葉を発してしまい声が被ってしまう。ほんの少しばかりの沈黙の後、先にサンドラが頬をそめながら口を動かした。


「あのっ!お、お湯が冷めてしまったから…ちょっとお手伝いに行ってきますっ!!」


そう言ってそそくさと部屋を後にするサンドラ。桶に入ったお湯を入れ直しに行ってくれたのか、ノブ夫妻の手伝いに行ったのかわからなかったが、よくわからない緊張から解放されて、胸を撫で下ろす。


「なにやってんだ俺は…」


気怠さの残る腕を使って頭を掻き毟る。


丸一日寝ていたと言うのに、気が抜けたのか少しばかりの眠気が襲ってくる。サンドラがお湯を持ってくるのが先なのか、ノブ夫妻が作ってくれる料理が先なのかはわからないが、少しくらいな良いだろう。俺は再び身体を休め、ほんの少しばかりの目を閉じる事にした。


次に目を覚ました時の料理を楽しみしながら。

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