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少女の願い先

時は少し遡る夕暮れ前。


大好きなお爺ちゃんとお婆ちゃん、そして先輩と私が座るテーブル。今さっき、お爺ちゃんの口から出た魔力石マギア・ペトラの言葉。思わず大きな声を出してしまったけれど、そうか。


確かに本当に高純度の魔力石マギア・ペトラが出るならば、国がこの島を強制的に管理しても何もおかしくはないし、ましてやそれを秘密裏に採掘し多額の利益を得ようとする連中が群がっても不思議じゃない。


(どうしようかなぁ?どうすれば元の島に戻せるのかな…?)


あれだ、これだと色々思案はするけど、あまり良い案も浮かんでこない。だってそうじゃない?全てを片付けるにはこっちは相手の手の内もわからずじまい。無闇に相手の懐に飛び込むにも、相当な危険がある。


特に昼間の槍の男。


思い出すと嫌な汗が出てくる。

あの槍の男に私は何も出来なかった。


きっと訳もわからないまま死んでいたかもしれない。

お爺ちゃん達の宿に向かう途中考えていた。


『自分が死ぬと理解する前に、既に自分は死んでいる』


100年戦争に参加していた兵隊さん達や騎士の人達もそんな風に思ったりしていたのかな…?眼前に迫る槍の刃。


怖かった。


ただただ、恐怖に身体が支配されてしまった。


恐怖が身体を包み込みだしたのも、その場じゃなくて男達が去ってからだ。


体中のあらゆる所から汗が吹き出し、身体の震えも収まってくれなかった。


(あれが本物の戦い…。命の奪い合い…)


昼間の事をあれこれと考えてはみるけれど、私の手に終える相手じゃない事は火を見るより明らかだ。俯き加減な頬を、冷たい汗が一筋流れ落ちる。


(う~ん…私でもあいつを倒せるとしたら、得意の炎で丸焦げにするのが一番なんだけど、絶対に詠唱中にやられてしまうよね…。豪炎の奔流(イグニス・トレント)も不発だったし…)


ちらりと目線を上げればなおもテーブルを囲み、お爺ちゃんと先輩が真剣な表情で話を続けている。どうにかしてお爺ちゃんとお婆ちゃんを助けてあげたい。ゴロツキ対策で先輩を借りる事にもなんとか成功したんだ。あのマリーベル姫の従者にして少なくても私の知る限りでは一番武芸に秀でているであろう先輩の方へ視線を移す。


『何処にでもいてそうな平民の青年』


それが先輩を最初に見た時の印象だった。武棟祭に残りそうな相手はそれなりにチェックした。その中でマリーベル姫の従者として本年度から生徒として通い、武棟祭に参加する相手をチェックしない筈はなかった。


来歴等は調べても不明で、何一つわからずじまい。


調べれば調べる程、何も秀でたところがなさそうな『何処にでもいてそうな平民の青年』だった。


そんな何処にでもいてそうな青年を頼り、ここまで半ば強引に連れて来たのも全てはおかしくなり始めた島を元に戻すため。いや、違う。


仲睦まじく過ごす大好きな老夫婦に安心して以前の様に暮らしてもらう為だ!その為に、先輩には本当に危険な役割をお願いしてしまう…。命を落とすかもしれないし、勿論失敗すれば私も、お爺ちゃんもお婆ちゃんもただでは済まないと思う。


それでもっ…。


私はあの時に見た圧倒的な力に賭けたかった。


都合の良い時にお願いする神様に祈りを捧げる。


私の全てを捧げても構いません。


(私の…私の大好きな人達を守ってっ…!!)


深く瞼を閉じると、渇いた喉がなんだかとても不安を煽る。


それでも私は今出来るありったけの私を演じて、テーブルを勢い良く両手で叩きつけ、思いを、願いを、口にする。


「よしっ!もう今日中に全部終わらせちゃおうよ♬」


心臓の鼓動が聞こえてきそうな時間。私がこの場で放ってまだ一瞬。きっとほんの一瞬なのに、とても長く、音の無い世界かの様な錯覚に陥る。


先輩に断られたら終わりだ。


あの男の強さを見て軽々しく、戦えなんて本当は誰も言えない。ましてや先輩は本当に無関係の人で、無理やり私が巻き込んだだけだ。でも私にはこれしか無いんだ。今できる最高の笑顔を作り、みんな反応を待つ。目を開いて笑顔を見せれているだろうか?私の視界はぼやけ、周りがほとんど見えていない。


お願いします神様っ!


私達を…。


違うっ!


何年祈っても何もしてくれなかった自分の都合に良い神様にじゃない!


私がっ…。


私が本当に祈りを、願いを捧げるのは…!


(先輩…、私達を助けてっ…!!)


「まぁ、俺もあの物騒な連中と片を付けないといけないしな」


えっ…?


今聞こえて来た言葉は?


本当に?


先輩は全て理解してくれた上で言ってくれたの?自分が殺されるかもしれない、大怪我を負うかもしれないかもしれないのに…。しかも…。


ぷっ。


あは♫


しかもなんですか、その食器を片付けるくらいの軽い言い方は。


抑えきれない安堵感と、安心感。


この人なら、この人になら私は…。


「あは♬先輩♪本当に頼りにしてますからねっ♫」


今の私は先輩にどう映っているのかな。


泣いている様な顔に見えているのだろうか?


笑っている様な顔に見えているのだろうか?


身体に力が不思議とみなぎってくる。


結構単純な性格だなと少し自嘲するも、変に気持ちが良かった。


さてと…♪


全部終わらせて、みんな笑顔にしないとねっ!

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