アルメダ諸島
ゼオングラーダの港から船に揺られる事丸1日の距離。
『小さな島々が浮かぶゼオングラーダ領北西の地『アルメダ諸島』ここにはゼオングラーダでも見られる動植物とは別に、この諸島域に生息する鳥類や植物も多数発見されている。
小さな島々には幾つもの自然に生み出された洞窟が存在し過去この海域を住処に暴れまわっていた海賊のアジトがあったとか無かったとか…。
さぁ!あなたも想い人と一緒にドキドキ洞窟探検!Let's Love♡』
サンドラが予めとっていた小さな船室の硬いベッドの上で小さなリーフレットに記載された文字を口には出さずに読み上げる。傍らに備え付けられた小さな椅子に座っている彼女が、ひと通り読みあげた俺の表情を見て声をかける。
「どうしましたかぁ♫先輩♬」
「ちょっといいか、サンドラ…?」
俺は多少危険な場所に赴くのだと思っていた。
しかし、アルメダ諸島行きの船内で貰ったリーフレットには一番大きな港町アルメダの特産品から始まり、今流行りの貝殻のアクセサリー特集恋人と行く洞窟探検ツアー等の目を疑う様な文字が並んでいた。
俺は堪らず彼女に問いかけた。俺の言葉に、いつもの口調でサンドラが口を開く。
「先輩ぃ♬どうしてそんなに難しそうな顔をしてるんですかぁ♪」
大げさに、さも不思議そうな表情で話す。
「…サンドラ。俺は力仕事だと聞いて、已む得ない事情もあり今回君の用事に同行した訳だが、このリーフレットにあるのはなんだ?」
そう言い、持っていたリーフレットをサンドラの前に突き出す。
サンドラは、にやっと口角を上げ、両手をパンッと鳴らして笑顔で話す。
「あれ♪先輩はご存知なかったんですかぁ?アルメダは割りと有名なリゾート&デートスポットなんですよ♫」
当然とばかりにそんな事を言ってくる。
「そんな場所に何故俺を連れてきた?来るなら君の恋人や意中の相手でも誘ってくればいいだろ?」
半ばやっつけ気味で返してしまう。
無理もないだろう。
詳しく説明を聞かなかったとはいえ、ここまで想像と違うとは思ってもみなかったのだ。そんな言葉にも別段気にする事もなく彼女は続ける。
「あは☆確かにリゾート地ですけどぉ、目的は遊びじゃないので心配しないで下さいね♪先輩の力も期待してます♪」
「…あまり信用出来ないんだけど?」
「ひっど~い♫」
全然怒っていないであろう抗議の声が返って来る。
しかし、リゾート地に向かうのに、遊びでもなく本当に俺の力を必要としているらしい。
…半信半疑だが。
そんなあれこれを考えていると船内にアルメダ到着を知らせる大きな声が響き渡った。
どうやら目的地に着いたらしい。
窓も無い安い船室だ。
甲板にでも出なければどの辺りまで進んだのかもわからない。ベッドの下に無造作に置かれた荷物を持ち上げ、彼女に話しかける。
「サンドラ、どうやら目的地に到着した様だ。早く君も自分の船室に戻って荷物を取りに行かないと」
彼女にそう言って促すと、椅子から立ち上がり、俺の船室の扉に手をかざし自分の船室へと戻って行く。
「それじゃ先輩♪甲板で先に待っていて下さいね♫勝手に降りちゃ…や!ですよ♪」
「…はいはい」
終始この調子でいくのだろうか。
俺はサンドラにこの先、どんな手伝いをお願いされるのだろうかと一抹の不安を覚えながらも甲板に足を向けた。
薄暗い船内を他の客達に混じりながら、出口である甲板上へと向かう。
申し訳程度の船内灯りの元に、目に入ってくる老若男女の様々な人達。比較的、若い男女の姿が多く見られるのも、アルメダのセールスポイント所以だろうか。
恐るべしリーフレット。
流れに逆らう事無く、俺も甲板へと足を向ける。
何度目かの階段を上がりきった所で、光が入って来た。眩しい陽の光に瞼がかすむ。どうやら本日は晴天の様だ。
まぁ海路自体、穏やかなもので、ある程度はわかっていたが。
程よい気候と、心地良い潮風が全身を包んでくれる。たった1日ではあるが、暗い船室で閉じこもっていた俺は陽の元で思い切り両腕を伸ばし盛大にあくびをしながら伸びをする。
「あは♪先輩もしかしてお眠ですかぁ♫」
そんな言葉と共にサンドラは姿を現した。
「学園寮のベッドと違い、硬いベッドだ。そりゃあくびの一つも出るさ」
両目に薄っすらと涙を溜めながら話す。
「帰りは2等船室で帰ります?もちろんダブルで♪」
「からかうんじゃない」
「あは☆」
そんなやりとりの後、俺達はアルメダ行きの船を降りた。
船から降りる時に船員達の割りと丁寧な挨拶に片手で答えながら、降りた先から始まるアルメダの住人達による宿屋の勧誘や、観光スポットへの馬車(有料)への盛大な客引きに目が行った。
「お客さん!もう宿は決まってるのかい!?決まってなけりゃ、うちの宿に決めなよ!素泊まり大歓迎さ!!」
「当館をご予約して頂いておりますお客様、お集まり下さいませ」
「長旅お疲れさんっ!コナッツの美味しいジュースはいかが?」
「リーフレット記載の今流行のマイム貝のアクセサリーは当店で決まり!お帰り前に是非お立ち寄りを!!」
通路の左右に別れて威勢の良い声やら、丁寧な声やらが耳に入ってくる。
本当にこの島はリゾート&観光地として生業をしている様だ。
威勢の良い声を聞いているとラ・シーンの街並みを思い出す。
そんな事をふと考えていると、この賑やかな集団とは全く異なる雰囲気の人が目に止まった。
活気で活発な人達の中でも、特別浮いて見える年老いた男女が二人。あまり浮かない表情で、船から降りて来る人達を見ては、当該の人物を探している様だった。
その年老いた夫婦であろう男女が少し気にはなったものの、自分よりも少し先を歩くサンドラの後を追う様に歩を狭め様としたその時、目の前の彼女から大きな声が発せられた。
「あ!いたいた!!ノブお爺ちゃん♪ローラお婆ちゃん♫」
大きく両手を振りながら名前を呼んだ初老の男女の元へと駆け寄って行く。自分達の名前を呼ばれた老人二人はその時初めて、安堵の表情を浮かべゆっくりとサンドラの元へと近づいた。
「あぁ…。サンドラちゃん!よく来てくれたのぉ…」
ノブと呼ばれたお爺さんが孫に話かける様に、とても優しい声で話かける。
「本当に…よく来てくれたねぇ…。船酔いはしなかった?」
ローラと呼ばれたお婆さんが破顔して、とても優しい表情で話かける。
サンドラの頭を優しく撫で、愛しそうに頬を緩ませている。
「だ~いじょうぶ!お爺ちゃんもお婆ちゃんも安心してね!このサンドラちゃんが来たからにはおまかせよ♪」
なおも老人二人に歓迎されながら、ウインク一つバッチリと決めてサンドラは自信たっぷりにそう話す。
一連の流れを思わず、終始見守っていた俺の不意を突くようにサンドラは続けた。
「あ!この人は学園の先輩で、私の将来の旦那様で、今回は二人で頑張りま~す♪」
とんでも無い嘘をさらりと言う。
驚くご老人二人の視線が俺に集まった所で、俺は軽く会釈し、今回の経緯を改めてサンドラに求めたのだった。




