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woman’s intuition

きっと俺は今この時、この場所で起こっていた出来事を今後自ら誰にも話す事はない。


全てが終わり、虚しさに身を委ね仁王立ちする。


断言する。


絶対に話す事はない。


絶対に話す事も出来ない。


…特にマリーには。




学園内でのサンドラとの一連のやりとりの後、一部内容を伏せて、俺の様子を遠くから物見遊山を決め込んでいた三人に、出来る限りの説明を、当事者であるサンドラ中心に進めた。


中庭であの調子で簡潔に説明を行うサンドラ。


その話をムスッとした表情で聞くマリー。


表情を変えずに耳を傾けるメリーアン。


にやにやと何がそんなにおかしいのだろう。


お前さんの事だぞ?ロブロイ。


当然の事だが、俺と言う立場では、マリーが俺に対する学園からの一時出向を認めなければ、例えサンドラに『あの』弱みを握られていようが断るつもりだった。


しかし、意外にもマリーはあっさりとではないものの、しばらく考えにふけた後サンドラの用事とやらに付き合う事を認めてくれたのだ。


「…本当に良いのか?マリー?」


「正直断腸の思いですわっ!…しかし!」


その場では溜飲を下げてくれたものの、何かを言いたげにマリーの美しい両目は俺を見ていた。その日から数日間、俺はサンドラと共に彼女のお願いとやらをさっさと済ませるべく準備に勤しんだ。


そしてとうとうその朝を迎えた。


行き先はゼオングラーダの港から北西へ丸1日の距離で、人が住む小さな島へ。


その島から更に小型の船で孤島へと向かうらしい。


順調に行って帰ってくるのに4,5日程度だろうか。その日数を考えると、改めてマリーの傍から離れると言う事に申し訳なくなってくる。


その間だけはパリンガー婦人のミラルダ筆頭のメイドさん達がマリーの身辺を警護してくれる。ミラルダ達にも今度礼をしないといけない。


実は出向するまでの数日、気になる問題が少しあった。しかしそれも意外にと言うかあっさりと言うかクリア出来たのだ。


それは学園に少しの間とはいえ、通う事が出来ない事だった。それに対してのなんらかのペナルティがあるのかと危惧していたのだ。しかし実際は学園側にも事前に出向申請と言う物を丁寧に記入し、それが生徒にとって良き経験となるものであるなら、しばらく学園に来れないであろう生徒に対して、特にお咎めはないとの事だった。


その変わりに、具体的に何を見て、何を知り、何を得てきたのかを先生や教官に報告する義務があるらしい。


「文章を書くのって苦手なんだよな…」


気の乗らない頼み事の後に、気の重い提出課題があると思うと、ため息が出る。そんなため息を余所に今日と言う日の朝を迎えてしまった訳だ。


「早朝から悪いなマリー。わざわざ見送ってくれなくても良いのに…」


色々とひっくるめて後ろめたい感情が燻っている身としては、こんな朝早くから見送りに来てくれたマリーに申し訳なく思ってしまう。


「何を仰いますか!ディオ様のお姿をお見送りし、ご無事を祈るのもマリーにとっては当たり前の事ですわ!」


まだ控えめな身体つきで、胸を張ってさも当然の事だとも言う様に話す。まるで主人を見送ってくれる子犬の様だ。本来はマリーが主人で俺が飼い犬の立場ではあるのだが。


「4,5日傍を離れるけど、すぐに戻ってくるから心配はいらないよ」


マリーにそう言葉を投げかける。


「私はディオ様を信用しておりますし、信頼しております。だから何も心配をしておりません。し!か!し!」


マリーの鋭い眼光の先には、先ほどから俺の傍らで笑顔を振りまくサンドラ。


実は俺達が到着した時には既にサンドラはえらく軽装の小荷物で到着していたのだ。さて、そんなマリーの眼光を意に介さず、口角を緩めていつもの口調で話しだす。


「だ~いじょうぶですよ♪危険な場所に行く訳でもありませんし♫マリーベル様のご心配する様な事になりませんよ~♪」


両手を握りしめ、胸元に引き寄せ「キャハ☆」と笑顔を振りまく。


「…っ!良いですか?サンドラさん!ディオ様はとてもお心が広いお方です。善意の塊と言っても過言ではないでしょう。私が困っていた時、見ず知らずの私を命を懸けて戦う様なお方です!」


「ん?そんな事があったんですかぁ??」


「…」


サンドラの問いに答えず、早朝の港で自分の事を熱弁するマリーに閉口する。


決して呆れている訳ではない。


ただマリーが俺に対する見方が日に日に美化されている様な気がしてならないのだ。


「ちょっとっ!聞いていらっしゃいますか!?ですから、サンドラさんに何か困った事があったと判断してのご決断と思い、いくら立場上は私がディオ様の主だとしても、私としてはディオ様からの願いを無下に断るつもりはございません!」


ビシッ!!


っと人差し指を立てて、あくまで上品さを失わない様に振る舞い、強調する。


「サンドラさん!良いですか!?く・れ・ぐ・れ・も!!ディオ様に良からぬ事だけはしない様にして下さいませ!!」


危険な事じゃなくて、良からぬ事?


マリーはどういう意味で言っているんだ?


「ん~~♪それってぇどういう事ですかぁ~?先輩に危険はありませんよぉ~♫マリーベル様は過保護ですねぇ☆」


悪戯っぽい笑顔で応戦するサンドラ。


別にマリーに対して応戦しているつもりも無いのだろうが、食えない子だからな。マリーの話している事をわかった上での言葉なのかもしれない。


「これは王族の…いえっ!女の勘。ですわっ!!」


そう言い切ったマリーに対して、本当に一瞬。すぐ傍らでいる俺だからこそ気づいたサンドラの一瞬の表情の変化。スッと目元が細くなった。春嵐武棟祭で俺と対峙した時の様な、瞳に映る激情の感情。


「もう☆マリーベル様の従者様である先輩に変な事はさせませんよぉ~♬」


俺の思い過ごしか?


サンドラの瞳に感じた感情は、もう微塵も感じさせなかった。


あるいはこの子も少しは自分の感情をコントロール出来る様に成長したのかもしれない。感情に飲み込まれ、まぁ情けない最後を迎えた俺が言えた義理じゃないが。


そんな二人の早朝の中の言葉の冷戦は船乗り達の声で遮られた。


もうそんな時間になっていたのか。


どうやら出港の予定時刻が迫って来ているらしい。準備した荷物を背負う。


「そ、それじゃあマリー、しばらく留守にするけど、すぐに戻ってくるから!行ってくる!」


片手を上げ、マリーにそう告げた。


「はい!行ってらっしゃいませディオ様!ご武運をっ!!」


そう言って、見る者全てを虜にしてしまう太陽の様な笑顔を見せてくれる。


よし。


さっさと終わらせて戻ってくるか。


マリーに背を向け、船へと向かう。


俺の後方ではマリーとサンドラの二人が何か手短に話しをしている様だった。


「んふ♬それじゃ先輩を『頂き』ますね♫」


「えぇ。私が言う事ではありませんが少しの間『お貸し』致しますわ」



眼前に近づいてくる船に、あの日この国にやって来たことをなんだか思い出す。色々訳あって今はマリーと共に過ごさせてもらっているが、これからも彼女が必要としてくれている間は、俺は…。


と後ろを振り向くと、小走りに走ってくるサンドラの姿が目に入った。


なんだ、まだマリーと話していたのか。


一体何を話していたんだか。


そんな事を思っていると、サンドラはあっという間に俺の横を通り過ぎ、小走りで駆け抜ける際、俺の袖を掴み、勢いで俺を引っ張る。


「おっ、おいっ!?」


「ほらほら先輩♪早く早く♫遅れちゃいますよ♬」


「そんなに引っ張らなくても間に合うだろうし、ついて行くってっ!?」


突然、若干の駆け足となった事に抗議をしてみる。


早朝の眠気覚ましには丁度良い心地良さではあるが。


引っ張られる腕とは逆、首を曲げて視線をマリーに向ける。


しっかりと俺を見据えている。


俺も徐々に小さくなってゆくマリーを見続ける。


が、ガクンと更に腕を引っ張られ、否が応なしにその原因である方へ視線をやる。


「先輩♪少しの間、頑張って下さいねぇ~♫」


「何がそんなに楽しそうなんだか…」


今回の全ての原因である彼女に愚痴を零す。


しかしそんな言葉も一切気にせず、軽快な足取りで船に向かうサンドラは俺に振り向く事なく言い放つ。


「楽しいですよぉ~♫サンドラちゃんは欲しい☆って決めたら人でも物でも本気で狙う努力家ちゃん♫なんだからぁ~☆」


そう言ってサンドラ・イメス・ホォーエルは意気揚々と船に乗り込んだ。

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