スカーレット・フェザー
「弓だと!?いつの間にそんな物まで!?」
弓兵でもないのにディー君が呼び出した物は、紛れもなく弓だった。
それは一般の物とは違い、深く蒼い色の大弓。
ディー君の背丈よりも少しばかり小さい程度だが、ひと目見ただけでわかる事は、並みの弓兵では扱う事はかなわないだろうと言う事。
左手に収まる大弓を軽々と片手で持ち上げ、構える。勿論、その標的は目の前にいる私そのものだ。
しかし肝心の矢と弦が何処にも見当たらない。弓は矢と対になって初めてその意味を成す。
そして、それを射る為の弦が無ければ、それはもうただの曲線した何かだ。
そんな不自然な物であっても、何があっても良い様に、決して油断をせず、ディー君の動きに注視する。
矢尻無き弓を左手に構え、そして右手をゆっくりと本来弦のある場所へと移す。
そしてディー君から言葉が放たれた。
『イヌケ…。豊穣の蒼弓』
その言葉と共に、大弓の上弭から下弭へと光の弦が張られた。一切の迷い無く、右手を光の弦へと移し、弦を引く。そして直感的に感じる。
あれは危険だと。
「フェザァーーーーーーーー!!」
シュボッッ!
私の叫びと同時に、大弓から本来の矢尻とは違う矢が、短い音を発して射たれる。私に向かって来るのは物質ではない、魔力を凝縮させた光の矢だった。
闘技場の空気を巻き込み、螺旋状の渦巻きとなって襲い来る。
しかしそれは私の眼前で静止し、光は霧散する。
危険だと直感的に感じた。だからこそ私は叫び、使用したのだ。
『真紅の殺翼』と呼ばれる私だけの固有魔法を。
イメージは背から魔力を開放、放出する様なもの。
それは魔力で出来た塊。魔力で出来た刃。
その形状は大空を自由に舞う鳥の翼そのもの。
ただ、鳥の翼と違う事を言えばそれは。
「我が翼は真紅。戦場を翔ける紅の閃光。この紅き焔と暴風に包まれる覚悟は君にあるかな?これを使わせた以上…。少しキツめの目覚めを覚悟してもらうぞ!ディオっ!!」
紅い翼の様に見える、この魔力の塊。
それが私が妖魔との戦いにおいて、決して遅れを取らなかった最大の理由でもある。
攻守のバランスが取れた非常に使い勝手の良い固有魔法だ。展開中は全ての身体的能力も格段に上がる。
剣の使い手でもあり、私だけの固有魔法でもあるフェザー。それは剣と魔法の融合の技。魔剣技とも呼ばれる代物。
唯一の欠点は、いや不満だな。それは燃費が悪い事だ。
そしてそれ以上に不満なのは、いつのまにか勝手に付けられた
『真紅の殺翼』と言う名だ。
もう少し可愛い感じの二つ名は用意出来なかったのだろうか?
ふん。っと鼻を鳴らし選定者の剣を構える。背中らから展開する紅き翼フェザーも魔力が生きているかの様に波打ち煌々と輝いている。
シュッ…!
シュッシュッ…!
ボッッ!!
音よりも早いと言えば大袈裟なのだろうか。しかしその言葉と、そう相違ない速さで光の矢が次々と放たれる。矢をつがえる手間が無い分、かなりの速射が可能なのか。
厄介な武器だ。
放たれた数本の光の矢を、展開したフェザーを使い自身を護る様に翼を前に出す。
眼前に折り重なる様に紅い翼が身を包みこ込む。
「『交差する紅の翼盾』我が身を護れ!」
パァァン!
パパパパァァァン…!!
魔力で生み出された光の矢と、魔力で生み出された紅い翼が重なり、弾ける様な音を出して光の矢が消え去っていく。
恐ろしい速さで生み出され、射られた魔力の矢であっても、常に魔力を放出し続ける私のフェザーの護りとでは、話にならない。
「フェザー!選定者の剣に纏え!『焔を宿す刃』!!」
右手に掲げた剣に紅翼が絡みつき、刀身が紅く燃え上がる。選定者の剣は炎の審判を与える。
「ディオ!さっさと目を覚ますんだ!」
なおも矢を放ち続けるディオ。
それをフェザーで防ぎ、紅く燃える選定者の剣を持って打ち消す。
剣を逆手に持ち替え、剣先を大地に突き刺す。
「紅き炎となりて迸れ!『焔の道標』!!」
魔法と剣技が融合する必殺の一撃。
勿論ディー君の命を奪う事などしない。
しかし手加減をしても、正気に戻させる事が出来るかどうかも怪しい。ならば思い切って一撃を当てて思い切り気絶させる。
実にシンプルで良い作戦だと思った。
大地に焔の亀裂が走り、焔の道がディオに向かって進んでいく。そしてディオの足元まで来たのと同時に仕上げを行う。
「舞え!」
パチンと右手で指を鳴らす。
その瞬間、凄まじい音と共に大地が裂け焔が渦巻きディオの身体を飲み込み、焔は天に舞い上がる。
出来る最大の手加減はした。
見た目の派手さ程、魔力を込めている訳ではない。これでとりあえず倒れてくれたら、したり顔だ。
『ウッ!?グワァァァァァァ!?』
うめき声とも、叫び声とも聞こえる声を出しながら、焔に飲まれるディオ。
手にした大弓は、ディオが手から離してしまった後すぐに消えた。
(いけるか…!?)
私の淡い期待は少しだが、確実に功を奏していた。
『ウッ…うぅゥゥっ…。熱イ…。はぁ…はぁ…!!ネッネエサン…?』
膝を落とし、苦しそうにそう言った。
今初めて意識が戻りかけた!?
「ディー君お姉ちゃんの声が聞こえるか!?しっかりしろ!!」
ディー君に駆け寄り、身体を僅かに揺する。
虚ろうしているが、目の色も元に戻りかけている。時間が経過したのか、ショックで元に戻りかけているのか。安堵の表情を浮かべ、気を緩んだ時に我が耳を疑うゾッとする声を聞いてしまった。
『11武装開錠…』
それを聞いた瞬間、一気に頭に血が上り、ついうっかりとだ。
本当に茶目っ気に定評のある私なんだが、うっかりとやってしまった。
武装開錠の代償を知っているだけに、私は涙を両目に溜めてフェザーを展開しながらやってしまったのだ。
「ディ…!ディー君のばかものぉぉぉぉーーー!!」
身体強化された状態で、ディー君の顔面に思い切り拳を打ち込む。
闘技場にめり込み、身体をピクピクと震わせる。
こうして最愛の弟は轟沈した。
思いきった一撃は見事に彼の意識を刈り取ったのである。




