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レイア駆ける

様子が明らかにおかしい。


ヤンスターから受けたであろう、魔法にかかってからだ。


一層胸騒ぎが大きくなる。


もしかすると、取り返しのつかない方の胸騒ぎか?


何事も無く無事に終わる事を祈っていたが、それは裏切られた。


「馬鹿なっ!?ディー君何故それ(・・・)を使うのだ!?」


目の前で起きた出来事が信じられず、堪らず叫ぶ。


最早、ディー君に何かしら異変が起きているとしか思えない。


(11武装開錠を使うなんて…!)


周りを確認するまでもなく、苛立ち交じりの声で叫んだ。


「誰でも良い!直ぐに銅鑼を鳴らせ!!直ぐにだ!試合は中止だ!!」


一瞬何事かと呆気に取られる職員達。


今の状況を私自身も理解している訳では無い。


ただ、一刻を争うであろう事はこの胸騒ぎと、ディー君の異変で間違い無いと判断したのだ。


慌てて、今大会で銅鑼を鳴らしていた者が銅鑼に近づき、盛大に鳴らす。


グゥワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン……!


グゥワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン……!


グゥワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン……!


(ディー君銅鑼の音が聞こえて…クソ!やはり聞こえてないのか!!)


銅鑼の音に構う事なく、剣を携えヤンスターへ近づく。


手元に置いていた拡声器を持ち、大声で叫ぶ。


「試合中止!ディオニュース・カルヴァドスの失格とする!ヤンスターの子息!ただちにその場から逃げろ!!」


拡声器を無造作に放り投げ、周りの職員達に指示を出す。


最悪の事態を考慮して。


「先生方、今より私が闘技場内へ向かい彼を止めてきます。ですが一つだけお願いがあります。いえ、これは命令と言わせて頂いた方が良いのかもしれません」


突然の私の言葉にみな一様に、驚き固まっている。


私だってディー君の事を知らなければ彼らの様に驚いているかもしれない。だからこそ、驚き戸惑う彼ら先生方に、とても重要な事を伝えねばならなかった。


「それは絶対に闘技場内へ入らないで下さい。下手をすれば私も闘技場内にいる者を守りきれる自信がありません」


私の言葉に息を飲む教員達、しかし私の性格を多少なりとも知っている人達はそれが冗談でも誇張でも無いとわかっている筈だ。


「治療班はヤンスターが居る、一番近い出入り口で待機。彼が出入り口までたどり着いたなら、直様治療の準備を!他の方は観戦席の最前列に位置する人達を念の為後方へ下がらせて下さい!各自早急にご対応願います!!」


その言葉を残し、私は一目散に闘技場内へと向かった。


出来るだけ時間が欲しい。


ヤンスターの子倅が、何程持ち堪えられるかは、わからない。


念の為腰に帯刀していた愛用の剣が今は心強い。


薄暗い通路を迷い無く、最短の距離で走り抜ける。


「どけどけー!邪魔だぁーーーーーーー!!」


通路内に行き交う者達全てに怒声を放つ。


皆一様に驚き、壁に張り付く。


すまないと思いながらも、目的の場所へ急いだ。


最短距離を走り続け、闘技場内への出入り口が見えて来る。ディー君達が居る場所よりも、一つ隣の出入り口に私は飛び出した。


それはこれ以上、通路内を走り続けるよりも、一つ手前の出入り口から場内の2人を確認する方が得策だと判断したからだ。


少し離れた位置、左方向に彼らの姿があった。


既にヤンスターは、関係者席から見た時よりも、傷を多く負っており力無く逃げ続けている。その顔は悲愴と絶望そのものだった。


2人に向かって駆け出す。


直後、ヤンスターの悲鳴が聞こえた。


「嫌ぁだぁ…あっ?あぁぁぁぁぁ!?あの構えは…!!」


ヤンスターから少し離れ対峙するディー君。


そして、ディー君は剣を胸の辺りに構えて、腰を落とし力を溜めだした。


斬煌の神突(イレイザー・トラスト)!?)


あの構えは間違いなく斬煌の神突(イレイザー・トラスト)だった。


私から何度も手ほどきを受け、死に物狂いで習得した最初の剣技。


確実にディー君は『ダミアン・メリル・ヤンスター』を殺す!!


(いけない!ディー君!それ以上はいけない!!)


間に合うか?


2人の距離まで後、僅か。


しかし既にディー君は斬煌の神突(イレイザー・トラスト)の構えを始めている。サンドラ戦で見た時よりも明らかに遅い構えに、一類の望みを託す。


鞘から愛刀『選定者の剣(ヴァルキュリア)』を抜き出し、走り続ける状態で選定者の剣(ヴァルキュリア)を胸の位置まで持ち、構える。


(間に合え!…いや!必ず間に合わせるんだ!!)


「本家!斬煌の神突(イレイザー・トラスト)!!」


渾身の一撃で放った技は、ヤンスターに突き刺さる直前。


耳元で鳴り響く金属音と共に、ディー君の剣とぶつかり合った。


(よし!間に合った!)


ディー君の剣から、もの凄い力が伝わって来る。


それでも私は決して弱気な顔は出さない。


何故なら、私がパーフェクトウォーリア、レイア・アネスであり何よりも今、剣と剣が鍔迫り合う相手、ディオニュース・カルヴァドスの姉なのだから!


だから私は当然の様に宣言する。


「ふん!お姉ちゃん…参上!!」


可愛い弟の為に一肌でも二肌でも脱ごうではないか。



なぁ?ディー君?

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