胸騒ぎの空
「本年度の武棟祭もいよいよ大詰めである!予選を進み、本選への出場を勝ち残った優秀な生徒達を改めて紹介しよう!」
姐さんの声の後、勝ち残った生徒達を称える声が場内から響き渡る。
「第一試合勝者!アジアンタム所属!フィーノ・グレイヴ!!第二試合勝者!アドニス所属!ディオニュース・カルヴァドス!第三試合勝者!アドニス所属!ダミアン・メリル・ヤンスター!第四試合勝者!スターチス所属!エキゾナ・フレイア!第五試合勝者!アジアンタム所属!ルディフィア・タルク・エターニス!以上の五名である!」
勝ち残った各棟の生徒達の名前が声高らかに読み上げられる。
残念な事にペチュニア棟の生徒は全員脱落なのか。
勝ち残った生徒に視線を移す。
一人だけ女性が残っているのが、最上級生のエキゾナ・フレイア。
一つ上の上級生であるアジアンタムの生徒が2人。
そして、俺とダミアンのアドニスが2人か。
これだと一人余るんだが…。
「なお抽選の結果1人はシード枠として闘いを免除する。選ばれた者は素直に喜べ。外れた者は素直に悔しがれ!」
なる程。抽選で試合が1人だけ免除されるのか。
しかし姐さんの話す言葉が率直過ぎると思うんだけど。出来ればその抽選で俺がシードになれば非常に後が楽だ。
その恩恵は考えなくても大きい。
しかしきっと、それを素直に喜べないだろう。
心に小さく燻り続けるモノがそれを拒否する。
「まずはシード枠を発表するぞ!」
姐さんを見ると木箱に手を入れてかき回している。
両手で木箱を持つ係りの人も真剣な顔つきだ。
木箱から勢い良く木札を取り出し読み上げる。
「喜べ。貴様がシード枠だ。エキゾナ・フレイア!」
名前を突然呼ばれたエキゾナ・フレイアは呆気に取られていたが事の次第を理解すると、大喜びしていた。
唯一残った女性で、しかもシード枠か。
かなり幸運だな。いや幸運と簡単に言ってしまうのは彼女に失礼か。ここまで残った実力者なのだから。
俺はロブロイとダミアンとの試合しか観戦していないから、彼女を含め他の2人が、どう言う戦い方をするのかわからず未知数だ。
だから俺は、俺の戦い方をするだけだ。
「では注目の準決勝第一試合の抽選に入るぞ!」
再び木箱に手を入れ、楽しげにかき回している姐さん。
姐さんの力で揺れる木箱を必死で支えている係りの人の表情とは対照的だ。
これだ!とも言わんばかりに再び木札を勢い良く取り出す。ご丁寧に2枚同時だ。
「…ふむ。そうか…」
場内が見守る中、先程までの勢いではない、姐さんの呟きが闘技場に零れる。
「準決勝第一試合の発表を行う!アドニス所属!ディオニュース・カルヴァドス!」
闘技場内が盛り上がる。
「ディオニュース!また派手な技見せろよ~!」
「ねぇ!あの子ちょっと可愛くない!?」
ワァァァァァァァァァァァァァ
名前を呼ばれた直後からの歓声は、何を言っているのか聞こえたものじゃない。ただワァァァと聞こえるだけだ。直後、姐さんの口から続く対戦者の名前が読み上げられた。
「そして、その相手は!アドニス所属!ダミアン・メリル・ヤンスター!」
ざわめきと、どよめきが交じる場内。
先程のダミアンの闘いを思い出しているのだろう。
勿論、俺もそうだ。
他の対戦者である生徒が気の毒そうな顔を俺に向けて来る。
しかしそれは勝手な思い込みだ。
俺は少なからず望んでいたのだから。
どんなに心を落ち着かせようと、どんなに平静を保とうとしてもどんな言葉で取り繕っても、この身体に燻るモノは今喜びに打ち震えているのだ。それは俺自身気づかないフリをしているだけで、既に身体中を行き渡らせているのかもしれない。
「準決勝第二試合は必然的に残りの生徒になるな。ではこれより後第一試合を行う!先程までの闘いで受けた傷等は今の内に治療して貰えでは、再び開始までの間、各自準備をしておく様に!」
姐さんがそう告げると、闘技場内に残された生徒達が各自控え室へと戻って行く。
ダミアンも踵を返し同じ出入口へと向かう。
正面を見据えたままの俺の横を、ダミアンがすれ違う。
「飼い犬の次が、まさか野良犬とはな」
すれ違い様に、俺に聞こえる様にはっきりと言い放つ。
怒りも悲しみもそこには無い。
ただあるのは嬉しさだけだった。
俺以外の者と戦って、負ける事が無くなったのだ。
姐さんに感謝しなければいけないな。
視線を姐さんに合わせると、姐さんも俺を見ていた。
嫌な予感がする。
ディー君とヤンスター家の子息との試合がだ。
自分で抽選をした結果で、勿論不正等は有り得ないと断言しよう。
だが先程からの、この胸騒ぎは一体なんだ?
私の嫌な予感はそれなりに当たる。
その結果が大なり小なりでもだ。取るに足らない事で済む事もあれば、冗談では済まない事もあった。
「どっちだ…?」
私の独り言は、今は私だけにしか聞こえない。
闘技場内ではディー君が私を見てくれていた。
すぐに振り返り、控え室に戻るディー君の背中を見つめ続ける。
徐々に離れて、やがて出入り口へと姿を消した。ディー君との距離がとても遠く感じる。
何かを誤魔化すように空を見上げれば、先程まで無かった雲が
徐々に空を覆い尽くそうとしていた。




