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左手に携えている水袋の紋様が淡い青色に輝いている。
一応予選通過の条件を満たしたのだと思っても良いのだろうか。
最初に転倒させた生徒の分も加算されて、今目の前で仰向けで倒れている3人と合わせて4人分。
そして光り出した紋様と合わしても、間違いなく予選を通過した事になっているだろう。
ホッと胸を撫で下ろすと、盛り上がる闘技場に二つ目の銅鑼の音が鳴り響いた。
グゥワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン……!
続々と予選の通過条件を満たす者が増える一方で、より多くの脱落者が生まれ、息を切らして座り込む者や、さっさと闘技場を後にする者。
チラっと仰向けに倒れる3人に目をやる。
『口惜しや…。口惜しや…口惜しや…』
等と呟いている者と様々だ。
ロブロイはどうなったのだろう。
辺りを見渡すと、ちゃっかり水袋の紋様を淡く光らせているロブロイを他の勝ち残った生徒の中で見つけた。
俺の視線に気づいてくれた様で、盛大に手を振ってくれている。
(お、生き残ったなロブロイ)
そんなロブロイに応える様に、俺も手を振り返す。
もう1人の気になる生徒、ダミアンは先程の場所から殆ど動いた形跡も無く右手に携えた水袋を光らせていた。
(ま、そうなるよな…)
予選通過に喜ぶ、いくつかの生徒達とは対照的に、ダミアンは無表情とで言うのか、酷くつまらなさそうな顔をしていた。
それが、彼の余裕から出ているものなのか、そうではないのかは俺には判断出来ない。ダミアンから視線を外し、他の生徒達を見渡そうとした時に3度目の銅鑼の音が鳴り響いた。
グゥワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン……!!
「それまでぇ!!只今をもって予選を終了とする!」
その合図と共に更に盛り上がる観客席。
聞こえてくる拍手は健闘を称えるものなのだろうか。
何を言っているのかは、はっきりとはわからないが、時々笑い声や誰か個人を名指しで応援していた辺り、楽しんでいる様だった。
マリー達の方を向くと立ち上がり、両手を上げ、力強く拍手をしてくれている。興奮気味のマリーを、なんとか落ち着かせようとするメイドさん達の姿が印象的だった。楽しんでくれている様で何よりだ。
予選を通過出来なかった生徒達の全てが、闘技場を後にした時、レイア姐さんの声がまた闘技場に響いた。
「この場にいる生徒諸君!まずは予選通過おめでとうと言っておこう!」
その言葉で観客席がまた盛り上がる。
「さぁ!メインイベントだ!予選通過したこの生徒達で勝ち抜き戦を行う!このルールもシンプルだ。1対1で闘い、最後に残った者が優勝者だ!気合入れろよ、小僧共?優勝すれば結構な特典が貰えるんだろ?」
あ、後半ちょっと邪悪な笑いに変わった。
相変わらずノリノリで進行するレイア姐さんに苦笑する。
観客席も姐さんの口上で、笑いが盛大に起きている。
「盛り上がっている様でなにより。では早速進める事にしよう!20人前後は残ると思ったのだが、ご丁寧に必要以上に間引いてくれた奴がいるからな。総勢10名が今より厳正な抽選を行い!闘ってもらう!!」
姐さんの言葉からは、予選通過者の中に予選通過の条件である
『4人分の水袋を破壊する』
以上に破壊した奴がいるのか。
あれだけいた生徒も10名までに減るわけだ。
それに姐さんのルール説明に触れられていなかったけど、確かに1人で4人以上の水袋を破壊してはいけないと一言も言ってない。
それを理解してなのか、逆手に取ってなのかはわからないが、参加生徒の間引きを行った生徒がいてたのか。
「それでは抽選するぞ?」
予選通過者である生徒、観客席の人達が一斉にレイア姐さんの方に集中する。
「ここに予選通過者の名前が書かれた木札がある!これを木箱に入れて混ぜ合わせ、僭越ながら私が引かせてもらう。恨み言無しのわかり易い抽選だ。それでは第一試合から第五試合までの抽選だ!一気にいくぞぉぉ!!」
ワァァァァァァァァ!
と一際大きな歓声が、もう何度目かと思う程上がる。
毎年こう言う感じなのだろうか。
姐さんもノリノリであれば、観客もノリノリである。
正面の高座で、木札が係りの者によって木箱の上部の穴に投げ込まれた。そして、別の係りの者が木箱を両手で持ち、かき混ぜている。
ある程度かき混ぜた後、その木箱を再び姐さんの前でそっと置き、姐さんが木箱の上部に手を入れる。
更に手でもかき混ぜてから、取り出す様だ。
皆が注視する中、ある程度かき混ぜたであろう、姐さんの右手に高々と2枚の札が掲げれた。
「まずは第一試合!アジアンタム所属!フィーノ・グレイヴVSアジアンタム所属エリック・カートン!」
その声に観客席からも歓声とどよめきが起こる。
そんな事はお構いなしに抽選は続く。
「続けていくぞ!第二試合!ペチュニア所属!サンドラ・イメス・ホォーエルVSアドニス所属!ディオニュース・カルヴァドス!」
おっ、俺の名前だ!
『Petunia』って事は、本年度の新入生か。
どんな相手か見渡すと、紺のローブを纏う1人の生徒が俺を見つめていた。なるほどね、あの生徒が相手なのか。
なら新入生同士、仲良くやろうか。
「第三試合!アドニス所属!ダミアン・メリル・ヤンスターVSアドニス所属!ロバート・ロイル!」
ダミアンとロブロイが闘うのか…。
さっきの予選ではロブロイは危なげなく通過したが、1対1の闘いだ。
しかもその相手があのダミアンだ。
俺の心配は杞憂に終われば良いのだが。ロブロイを見ると、神妙な顔つきになっている。
ダミアンもあの性格とはいえ、同じ棟の仲間に大怪我をさせる様な事はしないと思いたい。
「第四試合!スターチス所属!エキゾナ・フレイアVSペチュニア所属!ベルグ・ノーマン!」
「第五試合!アジアンタム所属!ルディフィア・タルク・エターニスVSスターチス所属!オルガ・ボーノ!」
次々と呼ばれる生徒の名前。
レイア姐さんによる、予選通過者の名前が全て読み終え、生徒達は其々の対戦相手の様子を伺っていた。
「これよりしばらくの後、用意された個室で待機しておけ。また係りの者が、迎えに来る筈だ。盛大に盛り上げろ!盛大に己の力を誇示しろ!新入生共は己の実力をこの武棟祭で試せば良い!在園する生徒はこの数年で培ったものを発揮すれば良い!では…、解散!」
姐さんの解散の合図と共に、自分達が入場した出入口へと戻って行く生徒達。
ほど良い緊張感がどの生徒からも迸っている。
ロブロイに何か話かけようかとも思ったが、今のロブロイの表情を見る限りは今はダミアンとの試合に集中させた方が良いと判断した。
通路に入ってすぐ、係りの人が参加選手を一人ずつ個室の控え室へと案内していく。
「ディオニュースさんですね?こちらへどうぞ」
係りの人が俺の名前を呼び、俺に割り振られた部屋へと案内する。
案内者の後を追って歩こうとした時、同じように案内されるロブロイの姿が視線の先に見えた。
「ロブロイ!」
振り返り、俺を見るロブロイ。
表情は相変わらず硬い。
「先に試合をさせてもらうよ。お前と闘えるのを楽しみにしているからな」
頑張れよ。とか応援の言葉の方が良かったのかもしれない。
でもその時の俺には、ロブロイを激励する言葉よりも、ロブロイと闘える事を楽しみにしている言葉を選んだ。
「…おうっ!俺っちもディオっちとの闘いを楽しみにしてるからな!負けんじゃねーぞぉ!」
お決まりの親指を突き立て、白い歯を見せる。
表情こそ硬いが、いつものロブロイだと少し安心する。
「おう、また後でな」
「おうよ!」
そんな短いやり取りを終えた後、俺とロブロイは通路で別れる。
然程広くもない控え室の椅子に腰を下ろし、先ずは自分の対戦する相手の事を考える。
『サンドラ・イメス・ホォーエル』ローブを深く纏っていた為、顔を見る事は出来なかったが、背丈からするにきっと女性だろう。
「う~ん、少しやり難いなぁ…」
そんな事を考えていると、控え室の扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ?」
誰なんだろうか。少なくても係りの人では無いだろう。
俺の試合は第二試合からだ。
扉が静かに音を鳴らしながら、その人は俺の控え室に入って来た。




