王女の思惑と始まるお祭り騒ぎ。
皆様ご機嫌よう。
私の名はマリーベル・フェイメール・リングベルと申します。
これでも小さな国ではありますが第三王女をさせて頂いております。
紆余曲折の末に、ディオニュース・カルヴァドス様に学園内での従者兼警護役として共に過ごす事になりました。
私はとても喜びました。
えぇ、喜びましたとも!
私にとっての英雄、勇者の様な方です。
何をする訳でもなく、一緒に肩を並べて歩いているだけでもマリーは幸せです。そんな方が私と共に学園で生活して頂けるなんて…。
しかし困った問題が初日から起こりました。
ディオ様の昔を知る女性が現れたのです!
それもディオ様が姉と慕う、当学園でも見目麗しいと評判のレイア・アネス教官。
それでも姉弟の様な間柄と思って静観しておりましたが、ディオ様を見るレイア教官の目はとても姉弟のそれではなく、事ある事に近づいて来るのです。
レイア教官とディオ様が数年生き分かれていたとの事ですし、お気持ちはわかりますが、それにしても
『ディー君』
とか言って
「この呼び方をしても良いのはこの私だけだぞ」
とでも言わんばかりに私を見て来るのです!正直、羨ましいですわ!ディオ様の幼少期を知っているなんて!
それに特別な呼び方も…。
私だけの特別な呼び方が、何かないかと考えてしまいます。
「ディオ!…様」
あぁ~!!もう!やっぱり恥ずかしくてそんな事出来ませんわ!
こんなにも悶々としてしまうのはやはり、ディオ様の周りに近しい女性がいた事による焦りなのでしょうか?
しかも幼少期とは言え、あの美しい教官と一緒に水浴びや、入浴を共にしていたなんて…。ガツンと鈍器で叩かれた様な衝撃でしたとも。
教練が終わり、私のやり場の無い不機嫌さは、益々募るばかりでした。
ディオ様と別れて、シャワー室に入り、もう手馴れた手つきでポンプを動かす。
ほど良い温かさのお湯が流れ、汗を洗い流していく。
学園内にある王族貴族関係者専用のサロンで、定期的に手入れをして頂いているので、私の程良く伸びたこの金色の髪は、少し自慢です。
グレーシア様が仰っていた様に、まだ敵わない部分もございますが…。
そう思いながら、程良く成長されている女生徒の方々よりもやや控え目な胸を確認する。
「はぁ…。ディオ様も他の男性と同じで、大きい方が好みなのでしょうか?いえ!私はまだ成長中ですわ!これからですもの!」
自分の可能性を信じて、成長した姿の自分を想像する。
うふふ。
この姿でしたらディオ様も、私の虜になってしまうかもしれませんわね。
未来の姿はディオ様の背丈に少し近づいて、一緒に並んでも兄と妹の様には見えない。
レイア教官の様な成熟したプロポーションはありませんが、私だってディオ様ともっと親しくなりたいですわ。
シャワー室には私以外の方はいない。
身体を流れ落ちる滴りを見て、ふと妙案を思いついた。
(そうだ…!ディオ様に私と言う者があると言う事をアピールする事が出来れば今後、おいそれと他の女性が近づく事はないのかも…!)
問題はそれをどこで行うのかです。
大々的に、しかも多くの目に留まる場所で伝えなければなりません。
王女である私だけの従者で姫守護者と言う印象を。
今は白羊の月…、来月の天牛の月には各棟からなる武棟祭がありますわ!
これですわ!!
直様シャワー室から退室し、丁寧に身体を拭きあげる。まだ雫が滴る、この髪が今はもどかしい。
早く中庭でお待ちしているディオ様に頼んでみましょう。
でも、先程の事もありますし、急に態度を改めるのも不自然でしょうか?
申し訳ないのですが、少しだけ怒った表情を作って、ディオ様に気にかけて頂きましょう。
熱と風の紋様が刻まれた道具で、丁寧に髪を乾かしていく。
早く早くと急く気持ちが、大きくなってくる。
全ての準備を整えた後、ディオ様の待つ中庭へと私は向かうのでした。
そして…
-------------------------------------------------------------
そして、今日武棟祭に参加する事になった訳だが、この数十日間はそれはもう毎日が驚きと斬新との繰り返しだった。
マリーに並んで魔法の授業を受けては熱が上がり、マリーと魔術の授業を受けては眠気を必死に抑えての繰り返だ。
マリーの従者としての手前、みっともない立ち振る舞いは駄目だろうとなんとか凌いできたが、何も悪い事ばかりではなかった。
相変わらず魔法も何も才能が無い俺は、周りの生徒達が手や媒介の物から出す魔法を見ては、興味を惹かれていた。
魔力を捻出し形に作り上げるその様が、とても綺麗に見えた。
使用者がと言う訳じゃないぞ?
その過程が綺麗に見えたんだ。
体から僅かに放出される魔力の波が、使用者の手に集まり、徐々に形を成して鮮やかな魔法が生まれるのだ。
改めて悔しいと思った。俺には何故出来ないのかと。
魔術の授業もそうだ、魔法と違い主に媒介となる魔道具を使用しての授業。道具に魔力を流して初めて効果の出る代物ばかりだ。
生徒達に配られた授業用の紙には方陣が描かれていた。
これに魔力を込めて方陣に行き渡らせると小さな蝋燭ほどの火が灯される。
マリーの横で見よう見まねで魔力の変わりに気合を込めてみたが、当然俺の方陣は無反応だった。横でマリーは苦笑いをしていたが。
戦争の時は妖魔の凄まじい魔法の数々を目にし、戦っているだけでどの種族がどの系統の魔法を主に使うかぐらいは理解していた。
でもこの学園と言う場所で習う魔法は派手なモノではなく、基本を抑えて課題を出し、個人で応用していく様にされている。
魔術もそうだ、妖魔には魔術や紋様の概念が無いのでこれは人の方に一日之長がある。人は足らない何かを補い、応用するのが得意なのだと、改めて感じた。
マリーを専用の女子寮に送り届け、その後は学園の練武館を借りて他の生徒に混じっての時間の許す限りの自己鍛錬。
鍛錬と言っても軽く汗を流す程度のもので、模擬刀の感触を確かめる割合の方が多かったのかもしれない。
もっぱら他の生徒の動きや、練武館とはもっと離れた場所にある魔法を使用する生徒達が練習に使う練魔館に赴いては術者の動きを見たりしていた。
命を奪う為の戦いでは無く、己の実力をぶつけ高める為の戦い。
その意味合いだけで嬉しく、日々気持ちが高ぶっていった。
そして今日、祭りの日を迎える事になった。
闘技場は学園内にある物ではなく、ゼオングラーダが管理する大掛かりな場所で執り行う。
学園の生徒以外の一般の人達も入場料を払えば観戦出来るとの事でパリンガー婦人は来れないらしいが、ミラルダさんや他のメイドさん達は休暇も兼ねて観戦しに来るらしい。
「それにしても、本当に祭りみたいだな~」
闘技場に近づくにつれて、街の賑わいが騒がしくなり、方々に露天が立ち並んでいる。
普段はそんな処に露天など無い場所だ。
「武棟祭は以前から、この様に学園内外合わせてのお祭り騒ぎらしいですわ」
「へぇ~、やっぱり人の多い土地ってのは色々とあるんだな」
闘技場に一緒に向かうマリーは、道中の風景に目を泳がせている俺を見て苦笑いを浮かべている。俺もマリーの顔を見て苦笑いを返す。
「今日は参加する生徒の実力を発表する場です。新入生で参加する者は数は少ないですが、それでも一部の天才と呼ばれる様な方々が参加している事も事実です。また残りの2棟の上級生の方々も魔法も魔術も1周りも2周りも習得されている事は必死です。ディオ様!マリーはディオ様の勝利を信じておりますが、お気をつけくださいませ!」
真剣な表情になったマリーが足を止めて俺に伝えた。
そうなのだ。今日の場には大陸から集まった、生徒の中でも天才と呼ばれる様な連中も、参加しているとの事だ。
地元で呼ばれている天才なのか、地方で天才か、はたまた国きっての天才なのか。
どんな者が相手でも、俺は俺のやり方で闘うのみだ。
因みに『11武装開錠』を使う気は一切ない。
これは酷使すれば自身の命を削り、相手の命を奪う為の力だ。
こんなものを使わないで、競え合える日が来る事が俺には嬉しい。
数日前に練武館でレイア姐さんからも言われていた事だしな。
「ディー君、武棟祭に参加すのは本当なのか?」
「うん、マリーに参加してみないかと言われてね、俺もどんなモノなのか興味あるし、参加してみようと思うんだ」
「またあの小娘姫か…」
「…姐さん?」
「いや、何でもない。ディー君わかっていると思うが、ディー君だけの力があるだろ?11武装開錠。あれは使わない方が良い」
「そうだね『アレ』は本来頻繁に使っていいものじゃない。それに俺は俺の実力でどれくらい通用するのかを試してみたいし」
姐さんが優しく微笑む。
誰が見ても見とれるだろう笑顔だ。
「うむ。ディー君の実力なら、この学園内の連中で、単純な武具の戦いならば間違いなく優勝はするだろうな。でもここは魔術王都ゼオングラーダだ。油断するなよ?」
姐さんの言葉を思い出す。
再び闘技場に向けて歩き始めたマリーに並んで話す。
「油断はしないさ、俺はマリーの従者だしな。みっともない闘いはしないよ」
柄にもなくウインクを決めてマリーに宣言する。
目を大きく見開いて、いつかのように、みるみる頬を染めるマリーは真剣な眼差しで見つめ返してくる。
「デ、ディオ様!ご武運を!!」
「おう、まかせておけ」
マリーの頭を一撫でし、闘技場の入口に向かう。
マリーとは別れ、一人無機質な巨大な石造りの薄暗い通路を歩く。
カンテラの淡い光が闘技場の独特の雰囲気を創りだす。すれ違い、行き交う人は皆生徒か教員達だ。
人が多く行き交うがそれほど広くはない通路に人々の足音が反響する。
そろそろ控え室かと思った時、見知った姫様と従者が俺に気付き近づいて来たのだった。




