レイア・アネス
私の名前はレイア・アネス。
年の頃は数えて22歳だ。
まぁ世間一般でよく聞く『丁度良い年齢』らしいぞ。
そんな事はまぁどうでもいい。
今日は青天の霹靂と言うか、驚きの出来事があったのだ。
3年前、私達の隊から突然姿を消したディー君がゼオングラーダの学園にマリーベル・フェイメール・リングベル付きの従者。
つまり限定生徒として入園したのだ。
「全く…3年だぞ!?3年もお姉ちゃんを心配させおって…!」
そう。
3年と言う月日は短いようで長いのだ。
終戦が確定した直後、我々パーフェクトウォーリアの面々は解散にあたり其々がその存在を知る、各国への引き抜きに遭った。
それは兵科指南役であったり、国の要人警護、そして私の様に少年や少女を相手に武術を指南したりと皆其々の第二、第三の人生を送る運びとなったのだ。
その中でディー君だけが3年前、妖魔領最深部『妖聖都市ヒュノイア』に向かった情報を最後に消息不明になったのだ。
我々の存在の大元は、各国大陸連合の中で現状を打破する為に結成、生み出された純粋な特化戦闘集団。本来部隊名も何も無い、暗号の様なもので呼ばれる裏の存在。
対妖魔戦に置いての戦闘では、各国の精鋭と呼ばれる兵士すら、妖魔の強大な魔力や魔法により相手にならない場合も多々あった。
その中で妖魔相手に一歩も引けを取らず、大陸でも例外扱い、時に忌避扱いされた世界の明暗の『暗部』に位置する人間が集められた戦闘集団。
個々の戦闘力では大陸連合で敵う者は無く、また妖魔に対しそれこそ死んでも勝利に繋げる様から、あの戦争で兵士達の間で噂話とでも言うのか、または伝記の様に、いつしか呼ばれる様になった我々の総称。
それが『パーフェクトウォーリア』だ。
まぁ私が入隊した時には、その名前も随分と薄れていたみたいだがな。
100年もあった戦時中のいつ、その名を囁かれたのかは現隊長であったあのオヤジにもわからないらしい。
休戦間際の数年は両軍入り乱れての本気の戦闘なんて、数える程だ。
戦闘が無ければそれに越した事はない。
それに伴って私達の名前も次第に戦場を共に駆る者達からも忘れ去られて久しいらしいが。
まだ幼く、精神的に未熟だったディー君には、あれやこれやと言い聞かせて、無理やり納得させていた自分を懐かしく思う。
「私達の仕事はとても人気のある職業で、中々パーフェクトウォーリアにはなれないんだぞ?でもディー君はまだ11歳だけど、立派な戦士の一人だ。今はお姉ちゃんがディー君を絶対に守ってあげよう。でもいつかディー君がお姉ちゃんを守れるくらいに強くなるんだぞ?」
「うん…!今度こそ…!!僕がお姉ちゃんを守ってあげるから!」
思い出の中に出てくる幼いディー君の容姿に、思わず笑顔になる。
とにかくあの子は私にとっては、絶対的に可愛いのだ。
まだ子供なのに、国を失い、家族を失い、それでも今にも死にそうな傷ついた小さな身体で妖魔の尖兵に一矢報いようと身の丈に合わない剣で立ち向かったあの姿を境界の国『グベリア』救援の任務の際、私はしかと見たのだ。
勿論子供が敵う訳も無く、無慈悲な神は本来ならディー君を見捨てた筈だった。
しかし結果として神は無慈悲では無かった。
本来は個々で散らばり戦場で戦う、パーフェクトウォーリア隊が集結していたのだ。
グベリアを襲った妖魔の大隊ですら、私達パーフェクトウォーリア含む少数精鋭の前に後退を余儀なくするしか無かった。
傷ついたディー君を始め、生き残った人達を避難しようと他の隊の者が準備をしていた時だ。私はディー君の手当をしていた。
切られた身体がまだ痛いだろう、失ってしまった『モノ』を思えば心が痛いだろう。それでも震える身体を起こし、私の腕を掴んで力強く、復讐の炎が燃上がる様な強き意思ある瞳を向けて言ったんだ。
「どうすればお姉ちゃん達みたいになれますか…」
こんな話を世間にすれば信じられないと言われるだろう。
そもそも世間の連中に私とディー君の思い出を語る義理など無いのだが。
正直に言おう。
ディー君のこの言葉で私は『濡れた』のだ。
うら若き17歳の少女ではあったが、戦士でもある私は、私の中にある女をそれまで捨てていた。
いや、捨てたつもりだったのかも知れない。
遠に捨てた女が、不意打ちを突かれた様に、戻って来たのだ。
私とて当時の戦士としても、女としても未熟ではあったが、自分の感情や気持ちには正直でいたつもりだ。
だからこそ、この身体の反応には困惑する事になった。
後にディー君を預かる話になった際、私が全力で擁護し、説得し
「この中の誰よりも強く立派に育ててみせる!」
と隊長始め、他の連中にも豪語したのは良い思い出だ。
ディー君自身は認めないし、譲らないだろうが、その後本当に1対1の戦闘においては最強と呼ばれるに相応しい実力を身に付けていった。
そしてその後、ディ-君は妖魔領にて消息不明になり、今に至るのだ。
(ふん…。お姉ちゃんはいっぱい寂しかったぞ!)
今までの寂しい気持ちを拭うかの様に自室で度数の高い酒を煽る。
さして高い酒でもなく、いつもの飲み慣れた酒なのだが、今日ばかりはやけに旨く感じる。
その理由も答えも既に出ているがな。
下着姿のままで次の酒を棚から取り出す。
ポン!っと小気味よい音を立てて栓を抜いて、グラスに酒を注いでまた煽る。
「ふぅ…。しかしディー君の傍にあんな小娘がいてるとはな…。生意気だぞ!ディー君は私のディーくんなのにらぁ…」
今日の教練中、ずっとマリーベル・フェイメール・リングベルの傍で彼女を見守り、時に説明してとても良い従者かつ限定生をしていた。
あの小娘との馴れ初めまでは聞けなかったが、追々聞き出そう。
男子生徒達に絶大な人気を誇り『太陽の微笑』と呼ばれる姫君に平民出身の新たな限定生のディー君。
私が何もしなくても、噂の一つや二つは自然と出てきそうだがな。
…
……
ん…。ひっく!
如何な。
飲み過ぎたか?
グラスをテーブルに置いて、そのままベッドに横たわる。
瞼を閉じた瞬間から深い闇が心地良く襲ってくる。
昔の事を思い出し、再会した最愛の弟分。
これから彼と会えなかった時間を埋めて行こう。
例えあの小娘姫がしゃしゃり出て来ても私のディー君『愛』には敵わない。出来る事なら夢の中でもディー君に会いたいと欲を出してみる。
そう祈りながら私は今日一日を終えたのだった。
「ディーくん…。本当にまた会えて良かった…」
頬を伝う、一粒の雫が枕を濡らした様な気がした。




