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『adonis』

俺はその後、数日をパリンガー婦人の館で過ごした。


一足先に学園内にある寮に戻ったマリーは残念がっている様に見えたが。


その間、簡単な学園のルールや王侯貴族連中との関わる機会が増えるとの事でその注意事項等もミラルダに教えて貰った。


文字の読み書きには不自由はしないが、どこまで学園で順応出来るのかは正直不安もある。慰めはゼオングラーダ学園は魔法魔術だけの専門の学園では無いと言う所だろう。


他にも様々な教科もあるらしいが、それらは任意で受講する事が出来るらしい。


そこに大いに興味は惹かれるが、基本的にはマリーに随行する形になる。自分の興味だけで警護すべき対象から離れるなんて本末転倒だしな。


全ての準備と手続きを終え、そして今日。


眼前にそびえ立つ、この重厚な鋼の巨大な門の先にある学び舎。『ゼオングラーダ学園』へと足を踏み入れたのだった。


「はぁ…なんと言うか。学園と言うよりも要塞みたいだな…」


俺が学園の門をくぐり、大勢の生徒とその景観から独り言を呟いていると見慣れた少女が待ち構えていた。


「おはようございます!ディオ様!よくお似合いですわ生徒服」


マリーは今日の空の様に、曇りの無い笑顔を朝から向けてくれる。


一般生徒達は淡いベージュ色を基調にした生徒服に紺色や青色の刺繍がされており、特別生徒である王侯貴族の生徒達は、白色を基調に金糸や白銀糸の刺繍等が施されている。


そして俺の様に従者関係にある限定生徒は黒色を基調とした生徒服に白色の刺繍が施され、ひと目で判断出来る様になっていた。マリーは似合っているとは言ってくれるが、どうも着心地が悪いと言うのか慣れていないのか、ひどく窮屈な感じがする。


今だけなのかもしれないが、妙に肩肘が張っている気がする。


「せっかくですので寮よりご一緒に登校したかったのですが、なにぶん学年が上がると同時に色々と準備も御座いまして…先に登校させて頂きました。申し訳ありません…」


そう言って先程とは違い、シュンっとした表情になってしまったマリー。学年が上がるとなれば、まぁ色々と準備もあるだろうし、そこまで気に病む事もない。


「そこまで気にしなくていいから。それよりもマリー、ここでの呼び方はどうする?俺の立場は従者兼護衛だろ?その俺に対して『様』付けはおかしくないか?俺は俺で姫様であるマリーの事を普通に呼び捨てにしてるしな」


俺とマリーの経緯を知っている人間達だけなら別段問題も無いのだが、ここはそんな事は知らなくて当然の人間ばかりがいてる所なのだ。変に勘ぐられるのもあまり良い気分でもないし、マリーの意見を仰いでみた。


「私としては今のままでもよろしいと思います。婆や達からはその辺りに付いて、何かお聞きしていますか?」


そう言われ考えたが、特にパリンガー婦人やミラルダからは何も言われていない。


う~ん…と考えている途中、マリーが提案した。


「ではもしこれから不都合が御座いましたらその時はその時で対応致しましょう♪」


…軽いな。


でもマリーの言う事も最もで、今この場所で問題も起きていないのに、学園の前で棒立ちになってあれこれ悩んでも仕方ない事だ。


「じゃあ、今まで通りでいいか?」


俺がそう問うと、二つ返事で「はい!」と帰ってきた。


「ではこちらへ」


そう言ってさらに正面へと進み始めるマリー。


すぐその後ろを付いて行く様に、俺もマリーの歩幅に合わせるように歩いて行った。


正面入口のエントランスを抜けると、何人も寄せ付けない雰囲気の門とは対照的に鮮やかな鉱白石をふんだんに使用し、装飾された空間に目を惹かれた。


生徒の数もかなりの多さで、目に入った生徒は気づいた限りでは一般生徒ばかりで、逆にマリーと俺がチラチラと視線を向けられている事に気づいた。


しかしそんな事はお構いなしに、俺が田舎者丸出しでキョロキョロと、辺りを手当たり次第に見ていると、振り返ったマリーがクスっと笑いながら「すぐに見慣れますよ」と言ってまた歩き出す。


照れ隠しに頭をワシャっと掻揚げて、またマリーの後に続いた。


かなりの規模の中庭らしき場所を通り、また別の建物に入る事になった。まるで迷路の様な、迷宮を探検するかの様な錯覚に陥ってしまう。


(何と言うか、前大戦の時の城塞並か、それ以上じゃないか、ここ?)


階段を上り少し歩いた後、マリーは立ち止まり俺に向き直った。


「これより階下は一般生の方々のエリアになります。そしてこれより参りますのが、私達の様な特別生とディオ様の様な限定生のエリアになります」


「どうして一般と特別と限定の生徒でそんな区切りしてるんだ?はっきり言って上の教室なんて階段も結講あるし今もかなり歩いたし、面倒なだけだろ?」


率直な意見をマリーに話した。

マリーも苦笑いをしつつ答えてくれた。


「私も一般生徒の方ともっと多く普通に授業を受けたいのですが、希に駄々を捏ねる王族、貴族のご子息様やご息女様がいらっしゃる様ですわ」


「ほう?それはどんな駄々を捏ねるんだ?」


マリーはふぅ…とため息を一つ吐いて小さな声で答えた。


「下々の人間が我々の頭上にいるとは何事か…です」


「それはまたなんと言うか。絵に書いた様な典型的な悪い王族や貴族の物言いだな」


本当にそんな事があるのか?と半ば呆れているとマリーは申し訳なさそうな顔で


「残念ながらそう言う物言いをされる方は少なからずいらっしゃいます…。私としては同じ学園生なのですから、分け隔てなく授業を受けたりお話をしたいのですが…」


マリーが申し訳なさそうな顔をするのは、そこに自分には一切の非は無いにも関わらず自分が王族の出自だから気にしているんだろう。マリーの頭に手をやり優しく撫でてやる。


「マリーが気に病む事は無い。それを言う奴も完全に悪いとは俺は断言出来ない。一般生とある程度距離を取る事をしなければならない理由だってなんとなく理解出来るしな。でもその理由以外でただの肩書きや血統のみで言っているのならそれは少し残念だけどな」


頭を不意に撫でられて顔が紅陽するマリーだったが、直様気を取り直して進み出した。


「さ、さぁ!先にいっ、急ぎましょう!こちらですわディオ様!」


スタスタと先程よりも早い速度で歩くマリーの耳は後ろから見てもわかる程には赤くなっていた。


そしてある教室の前で立ち止まり、俺に話しかけた。


「ここが去年より通っている私の教室です。普段は各個人で様々な研究であったり、授業を選択しておりますから、常時全ての生徒がいてる訳ではありません、主に集合目的に使用されたり、時間の余った方の待機教室の意味合いもあります」


「へー。そうなのか。俺はてっきりこの部屋でずっと勉強するのかと思っていたけど違うんだな」


各個人で好きずきに、何かしらの授業を選択。


もしくは研究に没頭しているのがこの学園のやり方なのか。


案外自由なんだな。


そんな事を思いながら目線を上に上げると表札に文字が書かれていた。


『SR-adonis(アドニス)』と。


俺の目線に気づいたマリーが答えてくれた。


「これはこの棟の名前『アドニス』の特別生徒室の意味ですわ。年次毎に入学する特別生達は学年事に入学時に棟を割り振られます私の場合でしたらこの棟名『adonis(アドニス)』に。「そして卒業するまでの間はここが私の教室になります。同時に入学した特生の方全て『SR-adonis(アドニス)』に。この国も学園の生徒数もかなりの規模ですが、特別生自体はそれほど人数はおりません。ですので、ほぼ同じ高さではありますが、棟が違う建物に上級生や下級生用に割り振られた各棟の教室があるのです」


「それじゃあ、中庭で見えた他の棟にもそれぞれ名前があってそれぞれの生徒達が在籍しているんだな?」


「はい、その通りですわ。またその棟名はおいおいお伝え致しますね。それでは本日からディオ様が通う事になるこの教室に入りましょう」


扉を開きマリーが一歩踏み入れた。その後を追う様に俺もまた新たな一歩を踏み出した。

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