彼女の笑顔と俺の戸惑い
綺麗なドレスを翻し、クルクルと回るマリー。
ハッ!?と我に返り、パリンガー婦人へと向き直り問いかける。
「婆や!?学園内での警護と言う事はディオ様もゼオングラーダの学園へと通うのですか!?」
「そうですね、その予定です」
先程までの会話でなんとなく想像は一応していたが、魔力なんて微々たるものしか無い俺が魔術王都の学園に通うなんて土台無理な話だ。それをシレっと話すパリンガー婦人の肝の据わり様は実はとんでもないのかもしれない。
「いくらなんでも俺がマリーと同じ学園に通うなんて無理があり過ぎます!確かに多少腕は立つかもしれませんが、俺は基本魔法や魔術の類は全然駄目で、そもそも勉強なんてろくに出来ないのでマリーに恥を掻かせてしまう可能性の方が大きいです!学園に通うだけの費用もありませんし、この際だから言いますが、もしパリンガーさん達の好意で捻出して頂いても俺はそれを受け取る事は出来ないです」
率直な気持ちを述べた。
それもそのはず俺は無学なのだ。
生きる事への知識も生き方もここ数年で覚え始めたくらいだからな。15の時までずっと妖魔領で戦争していた訳だし。
魔法や魔術の類は妖魔族達に散々見せられて、辛酸をなめて来たからどう言うモノなのかは漠然とはわかる。その辛酸をなめてきたモノを、俺が使える事は一生無いのだ。
ましてやここ『魔術王都』である。魔法や魔術に秀でる者達がより一層の高みへ登る為に勉学に励む場所じゃないのか?
改めて俺はパリンガー婦人へと視線をやる。
パリンガー婦人は俺の心配を他所に事もなく話した。
「王族貴族の生徒は住む環境から一人まで従者の同行を許されております。厳密には生徒ではありませんが、生徒に混じって生活して頂く事になりますよ。先程も言いましたが、承諾して頂けるなら学園にはディオさんと同じ立場の従者の人達もいてらっしゃいますよ。そしてあなたの身の保証はラモンドさんと私バーリンが致します」
む、むぅ…。
拍子抜けと言うか費用がかからないのか。
今の話でもそうだが従者扱いだから学園でのマリーへの警護やら身の回りの世話やらは特に問題も無い。
従者扱いだから別段授業とやらに出て、出来もしない魔法やら魔術やらの勉強をしてマリーに恥を掻かせる事もないのか…?ひょっとして。
「横から失礼致します。ディオさんの杞憂している根幹は魔法の類が苦手、もしくは出来ないと言う事ですよね?」
今までずっと控えていたミラルダが話に入ってきた。
「え、えぇ。その通りです。からきし駄目ですね」
ミラルダは優しい表情を浮かべて続けた。
「魔術王都だからと言って必ずしも魔法や魔術に卓越した者達ばかりではありません。馬車でこちらへ来る前にそれっぽい服装の人達を見かけたとは思いますが、みんながみんな魔法等に秀でている訳ではありません。ただこのゼオングラーダが魔法、魔術の始祖を祀っている特殊な場所と言う背景もありますが、私の様なメイドから屈強な戦士、吟遊詩人と様々な人がこの国を、街を成り立たせています」
ミラルダの言いたい事がわかる。
フォローしてくれているんだろう。
自分に魔法や魔術の才能が無かった事が酷く劣等感を感じてしまうこの国で、必ずしも国を街を成り立たせているのは魔法使いや魔術師だけではないのだと。
(ミラルダさんやっぱり優しいよなぁ…)
俺がミラルダの優しさにふやけそうになりかけていた所を直様気づき、ずいっと顔を近づけ同じくフォローしてくれる子がいた。
「ディオ様はあの悪漢達3人を華麗に倒して私を救ってくださいました勇者様ですわ!その勇者様が何の気を揉みましょうか!?私に恥を掻かせるだなんてとんでもない事です!私が逆にディオ様と比べて見劣りしてしまう事が恐ろしいですわ!!ですので!ディオ様はそんな事はお気になさらず、是非とも私を護ってくださいまし!!」
潤んだ瞳で止めとばかりにお願いをされる。
だからその潤んだ目とか表情とかズルイって。
それに勇者は別にいるし、俺は戦士だっつーの。
…はぁ。
俺って生き残る為に費やした時間、戦士として戦い続けた時間ばかりで知らない事が多いし、経験も偏っているんだよな…。ならこれからの生きる為の時間の為に、経験を重ねるのも面白いかもしれない。
(よしっ、腹を括るか!!)
「俺、姫様の身辺警護を改めて引き受けさせて頂きます!」
「まぁ!まぁまぁまぁまぁ!!ディオ様と学園生活をご一緒出来るなんてマリーは幸せ者ですわ~~!!」
恍惚の表情で一際喜ぶマリー。
「私の方からも姫様への警護、またご学友としてよろしくお願い致します」
落ち着いた佇まいで優しく微笑むミラルダ。
「では、私はゼオングラーダ学園の方へ最終手続きを致します。ミラルダ、いつもの様にお願いしますね」
「かしこまりました」
覚悟を決めた俺は、マリーの従者兼警護役としてゼオングラーダ学園での生活がこれから始まる。
それにしても学園の名前もこの国の名前と同じか。それなりの規模の学園なんだろう。
それでも一度やると決めたんだ。
何事が起こっても必ずマリーを護ってみせるさ。
俺がそう一人決意表明をしている時にパリンガー婦人に「一言だけ」と言われて手招きをされたので彼女に近づき耳を傾けた。
「万が一お嬢様に手を出す事があればラモンドさんを筆頭に、リングベル王とその臣下数千があなたを地の果てまで追いかけますので、それだけは注意してくださいね」
老眼鏡の位置を正して、とても優しい声でとんでもなく恐ろしい事を言われた。
背中に嫌な汗を垂らしつつ念押しに言われた事を反復する。
(俺がマリーに手を出す…?ぷっ…。ないないない)
まだ一人で喜んでいるマリーに視線をやると、マリーも気づき向き合った。
喜びと照れ隠しなのだろうか。自分の素直な気持ちを表情に乗せてマリーは言った。
「改めてこれからよろしくお願い致します!ディオ様!」
にこっと笑ったマリーは以前見た笑顔と遜色ないのに何故か俺はドキっとしてしまった。パリンガー婦人が変な事を言ったからだろうか。
(ないよな?俺に限ってないよな!?)
自問自答をする時間はこれから幾らでもある。
今はただ、マリーに対して真摯に向き合おうと背中の嫌な汗に誓った。




