第99話 【悲報】エルフさん、無自覚チート主人公を狙撃してしまい、伝説の精霊(ヤンデレ)を本気で怒らせる
「いや〜! 野営地でこんなに美味い飯を食ったのは初めてだぞ!」
サイコが山盛りの肉料理を口に放り込み、咆哮する。
その隣で、ブリュンヌも無言で猛烈な勢いでスプーンを動かしていた。
「でしょ〜! 私が手伝ったんだから!」
ジュネが胸を張って自慢げに笑う。
「まあ、マジックバッグに食料も保存してあるからね。材料があれば作り甲斐もあるよ」
俺――ソウタは苦笑しながら答える。
(……ん? 待てよ。肉は大量にあるけど、人が増えたから調味料や野菜が足りないな)
そう思い、近くの小さな村に立ち寄って食料を買い足した俺たち。
しかし、その村では素材の買い取りを行っていなかったため、次の大きな町を目指すことにした。
すると街道の途中で、ナナミが目を輝かせて提案してきた。
「ソウタ様、街道を外れて『あの森』を通っていきませんか? 貴重な薬草が群生しているそうなんです」
「良いね良いね! 森だ〜い好き!」
植物の精霊クロリスが、俺の肩の周りで嬉しそうに飛び跳ねる。
「村の人の話だと、途中で珍しい果実や、野菜の原種なんかもあるらしいよ?」
モモカも索敵の手を休め、興味深そうに身を乗り出してきた。
「げぇっ……また『草むしり』三昧かよ」
サイコが露骨に嫌そうな顔をする。
「お兄ちゃんは狩りをしてればいいじゃん! 私はまたソウタ様に採取を教わりたいなぁ」
「……う。そ、それもそうか! 腕が鳴るぜ!」
ジュネに可愛い笑顔でおねだりされ、一瞬で手のひらを返すサイコ。チョロすぎる。
「狩り、いいね。大物を狙おう」
ブリュンヌも乗り気だ。
全員一致で、俺たちは森のルートを選択した。
◇
足を踏み入れた森は、まさに「命の宝庫」だった。
各種薬草、色鮮やかな果実、ハーブの爽やかな香りが満ち溢れている。
手に入るすべてが、俺の『鑑定』スキルで「最高品質」の太鼓判を押されるモノばかりだ。
「はふぅ〜……気持ちいい〜……」
クロリスがぽーっとした表情で、ふわふわと宙をさまよい始めた。
「え!? クロリス、なんだか体が透けてないか!?」
「そうよぉ〜。久しぶりの深い森だしぃ……。ここ、精霊にとっても優しいの。お気に入り〜……」
クロリスの気配が薄くなり、まるで森の概念そのものと一体化していく。
(確かに、清々しい魔力が満ち溢れて精霊が好みそうな森だキュ)
「へえ、リャンゾウには分かるのか。流石は聖獣だね」
(まぁ〜ね〜! キュゥ!)
リャンゾウが誇らしげに胸を張った、その瞬間だった。
――ヒュンッ!!!
空気を切り裂く、不吉な風切り音。
パシッ!!!
「え……? ええええええええええ!?!?!?」
俺の悲鳴が森に響く。
目の前、わずか数センチのところ。
そこには、恐ろしいほど鋭利な『矢尻』があった。
透き通っていたはずのクロリスが、腕だけを実体化させ、俺の目を貫く直前でその矢をガシッと掴み取っていたのだ。
「うひゃっ!?」
あまりの恐怖に、俺は情けなく腰が抜けて尻もちをつく。
「ソウタ様!!!」
「何があった!?」
ジュネとサイコが血相を変えて駆け寄ってくる。
「くそっ、周りに気配は一切なかったぞ!?」
モモカが悔しそうに歯噛みし、即座に索敵の魔力を全開にする。
(匂いも音もないキュ……!)
リャンゾウも眉を寄せ、鋭い眼光で辺りを睨みつけた。
「無駄よ。感知圏外の、遙か遠方からの超長距離狙撃だわ」
クロリスの透き通っていた体が、一瞬で元に戻る。
彼女は尻もちをついた俺の背後に回り込み、優しく、だけど絶対に離さないというように強く抱きしめた。
その声は、いつものおっとりしたトーンではない。
冷徹で、地の底から響くようなシリアスな声。
「そんな遠くから狙撃なんて、可能なの……?」
モモカの問いに、クロリスの瞳が妖しく ―― 紅く輝く。
「風の精霊を奴隷のように使った仕業ね。……あとは、高慢ちきなエルフ共よ」
クロリスの存在感が、膨れ上がっていく。
森全体の植物が、彼女の感情に呼応してザワザワと激しく揺れ始めた。
「ふふ……ふふふふふ。森の中で、この『私』に喧嘩を売るなんて。身の程知らずにも程があるわ」
冷たい笑みを浮かべるクロリス。
「私の……大切な、大好きなご主人様を殺そうとするなんて。……舐めた真似をしてくれたじゃない?」
バキィィィンッッッ!!!
クロリスは掴んでいた矢を、圧倒的な握力だけで粉々に握り潰した。
ドクン……!!!
次の瞬間、森の空気が一変する。
クロリスから放出されたのは、国家を一日で滅ぼせるレベルの、狂気的なまでの膨大な魔力。
(ひ、引きこもり精霊だと思ってたら、クロリスってマジでヤバい存在だったんじゃ……!? 怖すぎるって!!)
サイコとブリュンヌが完全に臨戦態勢を取り、リャンゾウも牙を剥き出しにして唸る。
ほんのり日が射して暖かかったはずの森。
それが一瞬にして、光の届かない、凍えるような極寒の『死の森』へと変貌していた。
「――消すわ。根絶やしにしてあげる」
ブチ切れた伝説の精霊による、エルフ狩りが始まろうとしていた。




