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【ブラッシュアップ版】 モブキャラ異世界転生記~モブキャラに転生しちゃったけど従魔の力で何とかなりそうです~  作者: ボルトコボルト


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第77話 黒き嘴の狂人たち、立ち塞がる絆

 この世界のペスト医師たちは、一種の死神として恐れられている。鳥の嘴を模した奇妙なマスクは、瘴気を防ぐためのものだと言われているが、その嘴の中には聖水に浸した藁と、死臭を打ち消すための強い香辛料が詰め込まれている。


 全身を分厚い黒革のガウンと手袋で包み、頭には黒いつば広帽子を乗せ、手には町ごと焼き払うための火炎魔法が刻まれた杖を持つ。その姿は、医者というよりは、病そのものを体現した異形の怪物に近い。


「そいつらは獣人国の者なんでしょ? ここは別の国なんだから、無茶はできないはずじゃないの?」


 モモカの疑問に、宿の従業員は顔色を悪くして首を横に振った。


「奴らに国境や法律なんて関係ありません。獣人国の殺傷権を盾に、気に入らない町を焼き払うのが彼らの『治療』なんです」


「……困ったな。穏便に町を出るつもりだったんだけど」


 ソウタは深く息を吐き、ナナミとモモカを見た。二人は無言で頷き、臨戦態勢に入る。


 従業員の案内で宿の裏口へ向かうが、そこでリャンゾウがピタリと足を止めた。


(囲まれてるキュ。……逃げ場はない)


「あーあ、詳しく話を聞きすぎたか。油断したな」


 ソウタはそう自嘲すると、裏口の扉を堂々と開け放った。そこには、数人の黒い死神たちが待ち構えていた。


「お前が聖者か?」


「聖者が出てきたぞおおおおお!」


 ペスト医師たちは、まるで獲物を見つけたかのように叫ぶ。彼らのマスクの奥にある眼がどんな表情をしているのかはわからない。しかし、人形のように感情を排したその佇まいが、逆にソウタの神経を逆撫でし、不思議なことに彼の緊張を消し飛ばしていた。


「勝手に聖者と呼んでいるのは町の人たちだ。俺は聖者と名乗った覚えはないし、あんたたちに用もない」


 ソウタは一歩前へ出た。普段、大人と話すことに苦労する彼が、誰よりも凛とした態度で敵と対峙している。その姿に、ナナミとモモカは小さく目を見開いた。


 ゾロゾロと数が増え、十数人の黒い影が宿を取り囲む。


「聖者と聞いていたが、女子供か。……おい、俺たちと一緒に来い。抵抗するなら無理やり連れて行くぞ!」


 リーダー格の男が指示を出すと、周囲のペスト医師が一斉に歩み寄る。しかし、それを遮る影があった。


「待て! 聖者様に手出しはさせんぞ!」


 町の衛兵たちだった。昨日までペストに侵され、ソウタに命を救われた彼らが、誇り高い鎧を身に纏い、宿の前に立ち塞がる。さらに、案内をしてくれた宿の従業員までもが、ソウタを庇うように両手を広げた。


「邪魔だッ!」


 ドカッ、と鈍い音が響く。リーダーが衛兵の腹部を蹴り上げ、男は地面に崩れ落ちた。


「貴様ら、邪魔をすればこの町ごと灰にするぞ!」


 彼らは手に持った杖を掲げた。魔法の杖の先から、不穏な熱風と共に炎の奔流が渦巻く。焼くことによる浄化――それが彼らの狂気じみた正義だった。


(この町を燃やす? ……冗談じゃない。俺がようやく平穏を感じ始めた町を、こんな奴らに壊させるわけにはいかない)


 ソウタの瞳に、モブとしての諦念とは別の、強い光が宿った。彼の手には、いつの間にか八尺瓊勾玉が握られている。周囲の人々の震える背中を守るように、ソウタは杖の炎を真正面から見据えた。

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