第66話 王城陥落、隠されし秘宝
コトウハ公爵率いる千人の軍勢が、夕闇に紛れて王都へと雪崩れ込んだ。
先陣の百人が王城の門番を瞬時に制圧して門を解放し、続く九百の重装兵が一気に王城へと突入する。ヤコイケ印の回復薬で疲労を知らぬ「不死身の軍団」の猛攻に、不意を突かれた王城の守備兵たちは、組織的な抵抗もできぬまま次々と崩れ去った。
「敵は国王とリーキヤだ! 突き進め!」
コトウハの咆哮が王城内に轟き渡る。狂乱の渦と化す城内で、ソウタたちは公爵軍の兵とは別行動をとり、慣れた足取りでひっそりと謁見の間を目指していた。
「ソウタさん、この先に敵の気配はありません」
モモカの警戒に従い、ソウタは謁見の間の扉を開けた。
「ソウタ、こんな場所に来てどうするの? 私たちは公爵軍から離れていていいの?」
ナナミの問いに、ソウタは少しだけ悪戯っぽく笑う。
「大丈夫だよ。ここにしか無い『良い物』があるんだ。……お楽しみはこれから」
(前世の知識が正しければ、この城が陥落する混乱に乗じて、あるアイテムを回収できるはずだ)
ソウタは王座の背後へ回り込み、床を鋭い眼光で観察した。記憶にある『三種の神器』の隠し場所――しかし、見た目には何の変化もない。
「おかしいな、ここにあるはずなんだけど……」
「ソウタさん、あれは何?」
モモカが指差したのは、王座の陰にひっそりと隠された小さなレバーだった。
「お、さすがモモカ!」
ソウタがレバーを引くと、カコンという乾いた音と共に床がせり出し、地下へと続く隠し階段が現れた。
一行が地下の小部屋へ辿り着くと、中央の台座には一つの宝が安置されていた。それは、魂を模したかのような形の、深紅に輝く『八尺瓊勾玉』だった。
ソウタはそれを手に取ると、誰にも見られないよう、すぐに服の中に隠した。
「ソウタ、それ何? すごく綺麗な石ね」
「これは『三種の神器』の一角、八尺瓊勾玉。この世界の理に触れる魔道具さ」
「へえ、どんな力が?」
ナナミの好奇心に満ちた問いかけに、ソウタは首を振る。
「内緒だよ。これを俺が持っていると知られれば、間違いなく命を狙われる。……みんなにとっても危険なんだ。絶対に誰にも言わないでくれ」
その言葉の重みに、ナナミたちは真剣な表情で頷いた。
(これがもし勇者の手に渡れば、物語の展開が変わってしまう。誰にも見つかる前に、さっさとこの場を離れなきゃ!)
ソウタは足早に地下室を去ると、隠し階段を元通りに閉じた。
城内では依然としてコトウハ軍による激しい攻防が続いている。しかし、ソウタの胸元には、すでに王国の命運を左右しかねない「秘宝」がしっかりと収まっていた。
動乱の王城で、誰も知らないうちに歴史の重要なピースが、ひっそりと辺境の若者の手に渡ったのである。




