第60話 招集令状と、辺境の反旗
辺境スギンビの領主館、その会議室には、この地を支える実力者たちが集結していた。
ビーカル辺境伯の呼びかけに応じ、採取士のコエザ、冒険者のコヤマザ、商人ニーオヤ、錬金術師ヒンマル、そして大司教ライゴー。その面々に混じり、ソウタはやる気なげにテーブルに突っ伏していた。
(子爵の爵位を返上してただの村人になったはずなのに、どうしてこんな所にいるんだ……)
ソウタの心中を察する者はおらず、ビーカル辺境伯は重々しい口調で切り出した。
「皆、集まってくれて感謝する。本題に入る。国王より、我が辺境へ戦地への出兵要請が届いた」
その言葉に、会議室が揺れた。
「戦争!? スギンビは開拓三年間の兵役免除が条件だったはずだ!」
冒険者ギルド長のコヤマザが立ち上がる。しかし、ライゴーが穏やかながらも鋭い声音で補足した。
「……国難を理由とした王命です。免除の効力は無効化されました」
(ライゴーの情報網……やはり全部知っているのか)
ソウタは冷めた視線でライゴーを見やる。ビーカル辺境伯の顔には、隠しようもない怒りが滲んでいた。
「ふん。俺たちが血を流して発展させたビーカル領を奪い、今度は開拓の苦労が報われ始めたこの辺境から、兵を搾り取ろうというわけだ」
コエザが厳しい顔で続く。
「おっしゃる通りです。侵略戦争ならともかく、防衛戦で勝ったところで報酬などたかが知れておる。領民を消耗させるだけです」
「……しかし、王命に背けば反逆者として討伐対象になります」
商人ギルド長ニーオヤの震える声に、錬金術師ヒンマルも激昂する。
「そうだ! ここで拒絶すれば王国軍が来る! 王国軍を撃退しても、今度は隣国に攻め込まれる! どちらに転んでも破滅だ!」
部屋が絶望に染まりかける中、ライゴーが静かに切り出す。
「王国の狙いはただ一つ。辺境の領民を盾にし、我らが抱える『ヤコイケ印の回復薬』を軍の私物として強制徴収することです」
「だ・か・ら! 断るんだ!」
ビーカル辺境伯の力強い一言に、全員の視線が集中した。
「王国の言いなりになれば、回復薬も領民も根こそぎ使い捨てにされる。なら、自ら王国という檻を壊すしかない」
ビーカルは、これまで秘密裏に進めていた「辺境防衛軍」の構想を語り始めた。
それは、ただの徴兵された領民による寄せ集めではない。辺境の魔の森で鍛え上げられ、最新の回復薬によって常時ベストコンディションを維持する、「王国軍を遥かに凌駕する精鋭部隊」の計画だった。
「防衛軍の目処はついている。あとは俺たちが、王国に頭を垂れるか、それとも自分たちの土地を自分たちで守り抜くか……その意思を固めるだけだ」
ビーカル辺境伯の瞳には、かつての栄光を奪われた貴族の顔ではなく、自らの領民と土地を守り抜く「独立領主」としての覚悟が宿っていた。
ソウタは顔を上げ、ようやくやる気のないポーズを解いた。
(断る……か。面白い。王命に逆らうってことは、実質的な独立宣言だよな)
辺境スギンビという新たな場所で、静かな、しかし熱い火種が燃え上がろうとしていた。王国という巨大な船舶から、彼らは自らの意思で舵を切ろうとしている。




