第59話 平和な森と、訪れる招集の使者
深い森の中、木漏れ日が差し込む静かな一角。
「こっち、こっち!」
ドリアードのクロリスが、楽しげに手招きをする。その先には、見たこともないほど瑞々しい緑を湛えた薬草が群生していた。
「どれどれ……おお! これは文句なしの特上だ。さすがだな、クロリス!」
ソウタは鑑定ゴーグルを装着し、慎重に薬草を採取してアイテムバッグへと収めていく。その足元では、相棒の雷獣リャンゾウが、ソウタのゴーグルに魔力を供給して視界を補佐していた。前方では、探索者のモモカが鋭い眼光で周囲を警戒し、森の気配を読み取っている。
「ソウタ! 待ってよぉ……はあ、はあ」
少し遅れて、幼馴染の薬師・ナナミが息を切らして駆け寄ってきた。
かつてのヤコイケ村から、さらに開拓を進めたこの辺境の地。ソウタたちはさらなる発展のため、新たな薬草を求めて森の奥深くへと足を伸ばしていたのだ。
「ソウタさん! 何か来た!」
モモカの警告と同時に、リャンゾウの鋭い鳴き声が響く。
(ゴブリンだキュー!)
「リャンゾウがゴブリンだと言っている。来るぞ!」
ソウタが剣を抜き放つと同時に、ナナミが「豊穣の杖」を高く掲げた。
「ソウタ、私に任せて!」
杖から放たれた柔らかな光が草むらに届いた瞬間、飛び出そうとしたゴブリンたちの足元から蔦が噴出し、瞬く間に彼らを締め上げた。
「やったー! 攻撃していいわ!」
「いくぞ!」
モモカとリャンゾウ、そしてソウタが同時に駆け出し、絡めとられたゴブリンたちを一気に片付ける。慣れた連携だった。
ソウタは淡々とゴブリンの死体をアイテムバッグに放り込む。魔石は換金、肉は畑の肥料にする。無駄なものは何一つない。
「よし、目的の特上薬草も確保したし、肥料も揃った。引き上げようか」
ソウタが背を向けると、クロリスとリャンゾウも慣れた足取りで続く。
「そうね。コエザさんも待ってるわ」
「先導は任せてください!」
モモカが軽やかに先頭に立ち、一行は賑やかに村へと戻っていった。
◇◇
村に戻ると、待っていたかのように村長であり錬金術師のコエザが、神妙な面持ちでソウタの元へやってきた。
「コエザさん、どうしたの? あとでそっちへ寄ろうと思ってたんだけど」
「ソウタ、ビーカル辺境伯より召集の命令が下ったのじゃ」
「召集? 領都に行くってこと?」
「そうじゃ。緊急の事態と言っておる」
ソウタは呑気に「ふーん、行ってらっしゃい」と流そうとしたが、コエザの次の一言で凍りついた。
「ん? ソウタも行くのじゃよ」
「えええええ!? 何で~? 俺はもう一村人だよ? そんなの断ってよ!」
ソウタの悲痛な叫びもどこ吹く風、コエザは小さく微笑んで言った。
「何を言っておる。この辺境がこれほど早く立ち上がり、豊かになったのは、すべてお主のおかげじゃ。ソウタ、お主はこの辺境の『幹部』なのじゃよ」
「えええええ!」
ソウタは露骨に嫌な顔をする。
ようやく手に入れた穏やかな日常。それが、王国の上層部の身勝手な論理によって、再び騒乱の渦中へと引きずり戻されようとしていた。
だが、その召集の裏に隠された「王国の不穏な動向」を、ソウタはまだ知らない。
平和な薬草採取の時間は、ここで終わりを告げようとしていた。




