第57話 玉座に響く断罪の鐘
ヤイムラ王国王城、謁見の間。重苦しい空気の中、コトウハ将軍の怒気とリーキヤ公爵の薄笑いが交錯していた。
「……すると、補給部隊が持参した回復薬が『ヤコイケ印』ではなかったことが敗因だと言うのか」
国王ヤイムラの問いに、コトウハ将軍は悔しげに拳を震わせる。
「はっ。しかも、上部のみを本物で隠し、下部は粗悪な低級薬という詐欺に近い代物でした。あれでは兵が戦えるはずもございませぬ」
将軍の殺気立った視線が、謁見の間に居並ぶリーキヤ公爵へと突き刺さる。しかし、公爵はどこまでも冷淡だった。
「コトウハ将軍。ヤコイケ印の供給が滞ったのは事実。国中を探しても数が揃わず、急を要したので止むを得ず代替品を送ったまで。……敗戦の責は、出荷を止めた製造元にあるのでは?」
国王の視線が、静かに佇むヤコイケ子爵へと向けられる。
「ヤコイケよ。申し開きはあるか」
「はっ。我が都市は職人が薬を作り、商人に卸すのみ。戦争での使用など一切の約束をしておりませぬ。ましてや先代が去り、熟練の職人らも去った今、以前のような生産は不可能なのです」
「……うむ。確かにヤコイケと王国軍の間に、納入の契約など存在せぬな」
国王の指摘に、リーキヤ公爵は顔を赤くして叫んだ。
「出荷できなくなったなどと言い逃れは許さん! 製造のノウハウがあるだろうが!」
「公爵様、商取引において製造元の都合と供給の保証は別物。貴方が商会を通じて勝手に軍部に『供給を約束』しただけの話では?」
ヤコイケ子爵の冷静な切り返しに、コトウハ将軍が咆哮した。
「そうだ! 契約もしていない製造元を当てにして、勝手に軍と出荷数を約束するとは何事だ! 貴様の虚栄心のせいで、どれだけの将兵が死んだと思っている!」
「将軍、口の利き方に気をつけなさい。補給を預かる身として、最善を尽くしただけだ。メアサ男爵と商会が勝手に話を進めたことであり、私も騙された被害者だ」
「とぼけるな! そもそもビーカルを辺境へ追いやったのが全ての発端だろうが!」
コトウハの怒声に、公爵は鼻で笑った。
「ビーカルは栄転だ。回復薬の功績を称えての抜擢を、左遷などと言うのは不敬ではないか?」
「栄転だと……? 発展の目があるビーカルを潰し、辺境で死ねと言っているに等しいことが分からんのか! 公爵、貴様は王国そのものを売ったのだぞ!」
将軍の糾弾に、公爵は余裕の表情を崩さない。
玉座に座る国王の眼光が、冷たくリーキヤ公爵を射抜く。
「公爵よ……褒美として与えたつもりの転封が、この国の基盤を揺るがす結果となったか。……では、その責めについては、改めて審議させてもらうとしよう」
公爵の背筋に、初めて冷たい汗が流れた。
ただの田舎子爵だと侮っていたはずのヤコイケが、そしてかつての部下を奪われた将軍が、公爵という巨塔を今まさに切り崩そうとしていた。




