第51話 明かされた秘密、そしてライゴーの正体
「よし、方向性が決まったところで、幹部を呼んで詳細を詰めよう」
ビーカル伯爵がそう言い出した時、ソウタは慌てて手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
普段はコエザに会話を任せているソウタだが、気さくな元冒険者である伯爵とのやり取りには、少しずつ慣れてきていた。
「おっ、どうしたソウタ。珍しいな、何か意見でもあるのか?」
「……幹部と言うと、ライゴー大司教も来るんですよね?」
「勿論だ。ライゴーもこの領地の重要幹部だからな。あの宗教は非常に穏やかで、この領地に最適だと思って誘致したんだ。王都の『イテンダ教』に入り込まれると、金の亡者共に領内を荒らされるからな。それもあって、イテンダ教と関係が深いリーキヤ公爵に目を付けられたのかもしれん」
ソウタは、その老人の顔を思い浮かべながら、核心を突く質問を投げた。
「ふーん……。ライゴー大司教って、鼠を従魔にしていますか?」
ビーカル伯爵の表情が、一瞬で凍りついた。
「ん? ……なぜそれを知っている? 誰にも内緒にしていたはずなのだが……まあいい、寄子のソウタだ。教えても差し支えないだろう」
「やっぱり……そうなんですね」
「俺が貴族になる前の冒険者時代からの知り合いでな。あいつはテイマーとして『アイアンマウス』を従えているんだ」
「そのアイアンマウス、眷族も従えているのですよね」
「うっ……そこまで知っているのか……!」
伯爵の動揺を見て、ソウタは確信を深める。
「はぁ……そうでしょうね」
「分かった、全部話そう。ライゴーを招いたのは宗教上の理由だけじゃない。狙いは諜報だ。奴がテイムしているアイアンマウスは、現在数千の眷族を抱えており、領内の情報収集を担わせている。態勢がもう少し早く整っていれば、今回の転封騒ぎも防げたかもしれないのだが……」
コエザが冷ややかに口を挟む。
「数千では他領の監視までは難しいでしょう」
「その通りだ。現在も数を増やしている最中でな。将来は数万単位にして、国中の貴族の情報を掌握するのが我々の狙いだ」
ソウタは言葉に詰まった。数千、数万の鼠――それはもう諜報の域を超えている。
「……ところでソウタ。なぜ君がその詳細を知っているのか、教えてもらってもいいかな?」
ビーカル伯爵は真っ直ぐにソウタを見つめている。彼は信頼できる男だ。仲間として自分を認めてくれている。
(……話そう。この人となら、これからの荒波も超えていけるかもしれない)
ソウタは横にいるコエザを見た。彼女は静かに頷き、黙認の合図を送った。コエザには以前、自分が転生者であり、この世界がかつて遊んだ「ゲーム」に酷似していることを打ち明けていたからだ。もっとも、ゲームという概念が理解されなかったため「読んだ本の内容と同じだ」という説明で納得してもらっているのだが。
「今から話すことは、この3人だけの秘密にして貰えますか?」
「おっ、もちろんだ。約束しよう」
伯爵の力強い言葉を聞き、ソウタは意を決した。
「実は……僕は転生者なんです。そして、この世界は、僕が前の世界で遊んでいたゲームの世界と、驚くほど同じなんです」
ソウタの言葉が、会議室に静かに響いた。それは、ビーカル領という小さな箱庭を越え、王国全土を揺るがす真実への入り口だった。




