第48話 ヤコイケの変貌、採取士たちの王国
ヤコイケ村に安定した人手が供給されるようになると、その生産性は爆発的に向上した。ナナミは畑の管理を信頼できる孤児たちに任せ、自身は専業の薬師として、回復薬や解毒薬の調合に軸足を移した。
質の高い薬草が潤沢に供給される環境に、錬金術ギルドも黙っていない。支部長クラスの精鋭をヤコイケへ送り込み、村は一躍、地域随一の「薬の生産拠点」と化した。「ヤコイケ印」の回復薬は、その圧倒的な品質ゆえに市場を席巻し、商人ギルドもまた、その利権を求めて支店を置くようになる。
そして――。
「やはり、ソウタのそばにこそ、採取士ギルドの本部があるべきじゃろう?」
ある日、ソウタの屋敷に現れたのは、採取士ギルド長コエザだった。
「コエザまで移転して来たの!? ビーカルの支部はどうしたんだ?」
「新人に引き継ぎは済ませてきた。本部機能は全てこちらへ移管したわ」
コエザの背後には、会計のジメイと事務兼受付のカモリナの姿もあった。
それだけではなかった。
「師匠、俺たちも本部と共にあります」
テロツ、モモカ、ハルナ、ユナといったソウタの直弟子たちも次々とヤコイケへやってきた。
「私達はソウタ様の奴隷……いえ、採取士としての誇りがありますから!」
などと物騒なことを言う弟子たちに、ソウタは苦笑しつつも安堵する。ビーカルの防衛はベテランのヤフジが引き受けてくれていると聞き、ソウタは心底助かったと思った。急激な発展は、必ずしも平和とは限らないからだ。
「ヤコイケ印」の回復薬は王都の騎士団や高ランク冒険者たちからも指名買いが殺到し、村には人が溢れかえった。外周には新たな居住区が建設され、元の村の姿はもはや記憶の彼方へ消え去ろうとしていた。数年後、ヤコイケは村という呼称を卒業し、都市と呼ぶに相応しい規模へと変貌を遂げていた。
そんなある日のこと。都市の執務室で山積みの書類を前に、コエザが溜息をついた。
「ソウタよ、これらは採取士ギルドの仕事ではないじゃろ」
「ええー、お願いしますよぉ、コエザさん。俺にはこんな政務、到底無理ですって!」
「……仕方ないのう」
いつの間にか、都市の運営体制は盤石なものになっていた。
コエザが都市の行政を司り、ジメイとカモリナが事務方の頂点に立つ。かつての弟子たちは、それぞれが独自の才覚を見せた。
騎士団長となったテロツが都市の治安を守り、モモカは裏の動きを察知する情報部隊を組織。そして、ハルナとユナはソウタの側を片時も離れない親衛隊として君臨していた。
(……あれ? 僕、何もしてなくないか?)
領主として都市の屋根の上から街を見下ろすソウタ。
伝説の杖を手に、薬草畑を眺めるその少年は、図らずも採取士という枠を超え、一つの巨大な都市の主としての風格を漂わせていた。
静かな生活を望んだはずが、周囲の優秀すぎる仲間たちが、ソウタの物語を「建国」というスケールの大きなステージへと押し上げていたのである。




