第44話 ギルド間の密約、採取士の新たな地平
会議室に渦巻く欲望の中で、コエザは冷徹にコヤマザを追い詰めていく。
「クックック、コヤマザ。買取金額で競って勝てると思っているのか? そもそもソウタは、おたくのギルドに対してこれまでの経緯もあって、決して良い印象を持ってはおらぬよ」
コエザの指摘は的を射ていた。実際、ソウタにとって中間マージンを抜く冒険者ギルドを通すメリットなど皆無に等しい。
「ぐ、ぐぬ……。しかし、ランクアップという強力なカードが……」
「ほう、実力は攻略実績で証明済み。これ以上のランクアップなど、本部への言い訳に過ぎんのではないか? 何より、本人は子爵になった今、ランクなどという虚名に何の執着も持っておらぬよ」
ソウタは深く頷く。コエザの言う通りだ。ランクアップの恩恵よりも、面倒な指名依頼が増えるデメリットの方が大きい。
「……ふぐっ」
言葉を失うコヤマザを横目に、錬金術ギルドのヒンマルや商人ギルドのニーオヤが次々と強気の攻勢をかける。
「我が錬金術ギルドが買い取れば、その魔石を最高品質の魔力増幅剤に精製できる」
「商人ギルドの流通網を使えば、王都の貴族連中に倍値で流してやれるぞ、ソウタ殿」
会議室が泥仕合の様相を呈したとき、コエザがポンとテーブルを叩いて場を制した。
「まあ待て。コヤマザの事情も分からぬではない。ダンジョン攻略の実績を本部に報告せねばならん苦境、察してやろう」
コエザは慈悲深い表情を浮かべつつ、コヤマザに向き直る。
「条件次第では、妾がソウタを説得してやっても良いぞ。エルダートレントの魔石、冒険者ギルドに譲ってやっても構わぬ」
「本当か!? その条件とは何だ!」
コヤマザが身を乗り出す。コエザは妖しく笑みを深めた。
「採取士ギルドも、今後ダンジョンに本格進出するにあたって、冒険者ギルドと同様のランク制を導入する。EからSまで、ダンジョン入域条件を揃えるつもりだ」
「ふむ、それがどうした」
「採取士は我がギルドだけの制度。他領では通用せぬ。そこで、採取士ランクと同ランクの『冒険者証』を、採取士ギルドの推薦に基づき自動発行してほしいのだ」
それは、実質的に採取士ギルドが「冒険者ギルドの受付業務の一部を代行する」という、極めて異例の密約だった。
コヤマザは青ざめ、しかし計算を始めた。確かに手続きは採取士ギルド任せになる。だが、モンスター素材の納品ルートを確保できれば、ギルドの崩壊は免れる。何より、手元のカモリナを始めとした信頼できる人間が間に入るなら、裏切りのリスクは低い。
「……期間と条件による。採取士ギルドの受付が信用できる人間に限るなら、検討の余地はある」
「カモリナがおるうちは盤石じゃよ。それ以降は別途協議すればよい」
「……分かった。その条件、呑もう。カモリナがギルドに籍を置く期間に限り、自動発行を認める」
その言葉を聞いた瞬間、コヤマザは肩から力が抜けたように深く息を吐いた。ソウタにとっては単なる手続きの効率化に過ぎないことが、ビーカルのギルド運営を根本から変える契約となってしまったのだ。
(ああ、また知らないところで話がまとまった……。まあ、みんなが納得しているならそれでいいか)
ソウタはリャンゾウを撫でながら、自分の身に起きている変化の大きさに、今更ながら溜息をついた。
子爵への叙爵、精霊との契約、そして冒険者ギルドとの不可侵条約。採取士ソウタの日常は、その規模を加速度的に広げ続けていた。




