第43話 急転直下の叙爵と、ギルド長たちの争奪戦
会議室の重厚な空気が、ソウタの言葉でさらに張り詰めた。
「た、採取士を……してます。ソウタです。男爵です」
緊張で声が裏返り、あまりに要領を得ない自己紹介をしてしまった。
(はぁ……。なんてかっこ悪い挨拶なんだ)
ソウタが冷や汗を流していると、今回の初対面であるライゴー大司教が、破顔一笑して肩を叩いた。
「がっはっは! 堅苦しい挨拶は不要じゃよ、ソウタ殿。テンダイジモン教はこの度、ビーカル伯爵の招きにより、この領地に正式に拠点を開くことになった。今後とも仲良くしてくだされ」
(誘致か……。今までこの都市にはなかったはずだけど、急に何だろう)
ニコニコと笑う老人の顔を眺めながら、ソウタは得体の知れない違和感を覚えた。
すると、ビーカル伯爵がテーブルに地図を広げ、真剣な眼差しをソウタに向けた。
「さて、本題に入ろうか。ソウタ、今回の『翠露の迷宮』攻略、見事であった。我が領地からダンジョンを攻略できる豪の者が現れたことは、周辺諸侯への強烈な牽制となる。無用な争いを未然に防げた意義は極めて大きいぞ」
「しゅ、周辺の領地……?」
(なんだか、思っていたより話が大きくなってきたぞ……)
呆然とするソウタをよそに、伯爵は「がっはっは」と豪快に笑った。
「王都からも今回の件について問い合わせが来ていたが、貴殿の性格を考えて、王都への直接召喚は俺の方で断っておいたぞ」
「あ……有難う御座います……」
(ほっ、助かった。王都なんて呼ばれたら、それこそ一生のんびりできなくなりそうだ)
しかし、伯爵の言葉はそこで終わらなかった。
「それでのう。今回の功績を称え、褒美として貴殿を『子爵』に叙爵することとした。国王の許可は既に取り付けてある」
伯爵は、重厚な羊皮紙に刻まれた叙爵の書状を、ポンとソウタの前に放り投げた。
「え? えええええええ!?」
思考が停止する。貴族階級の昇格など、モブキャラとして平穏に暮らす予定だったソウタには青天の霹靂だ。
「併せて、町を一つと村を二つ、貴殿の直轄地として任せる。……まぁ、貴殿の陣営にはコエザもおるし、問題はあるまい」
(町と、村2つだと……!? そんな責任、背負えるわけがない!)
「ま、町ぃ!? 村2つぅ!? ……あ、あの、真に勝手ながら、慎んでお断り致します!!」
ソウタは必死の形相で声を張り上げた。
(言えた! これで解放されるはずだ!)
ところが、伯爵は困ったように眉を下げて首を振った。
「おいおい、即答で断るなよ。俺は新参の伯爵で、信頼できる寄子が圧倒的に足りんのだ。信頼できる貴族が必要なんだよ。頼む、少しは検討してくれ。……なぁ、コエザ、貴殿からも何か言ってくれんか?」
その瞬間、ソウタの中で点と点が繋がった。
(ははーん、そういうことか。この領地には貴族が少なすぎるんだ。だからギルド長たちを集めて、俺を幹部として抱え込もうとしているのか……!)
「ふむ……。ソウタにしては、即答で断るという上々の回答じゃが」
コエザは顎を撫でながら、ニヤリと笑った。
「検討……そうさな。領地の場所にもよるのう」
「場所の候補は追って連絡するが、希望はあるか?」
「まだ受けるかどうか分からんが……『ヤコイケ村』が候補にあるなら、前向きに考えられるかな?」
「ほほう。そう言えばソウタの故郷がヤコイケ村であったな。分かった、候補に入れておこう」
「あ、有難う御座います……」
完全に逃げ場を塞がれつつあるソウタをよそに、ビーカル伯爵は「俺の話は以上だ」と締めくくった。
その瞬間、待ち構えていた冒険者ギルド長コヤマザが、椅子を鳴らして飛び出した。
「ソウタ男爵! この度の功績を鑑み、冒険者ランクを『Bランク』へ昇格させる! そのエルダートレントの魔石、冒険者ギルドに納品してくれないか!」
その露骨な囲い込みに、コエザが即座に割り込む。
「コヤマザ、感心せんな。冒険者ギルドに納品せねばランクが上がらぬような口ぶりは、あまりに不誠実じゃろう」
「その通りだ!」
今度は錬金術ギルド長ヒンマルまでが乗り出してきた。
「ソウタ君、我がギルドで買い取らせてくれ。むしろ買い取らせてほしい。適正価格で鑑定するぞ!」
「いやいや、商人ギルドの方が弾むぞ、ソウタ殿! 貴族として活動するなら資金が必要だろう!」
会議室は一転、ソウタの魔石を巡る泥沼の争奪戦へと変貌していた。その様子を、ライゴー大司教だけが静かに、そして楽しげに眺めている。
(……詰んだ。どう考えても逃げられない)
ソウタは遠い目をして、激昂するギルド長たちの声を聞いていた。




