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【ブラッシュアップ版】 モブキャラ異世界転生記~モブキャラに転生しちゃったけど従魔の力で何とかなりそうです~  作者: ボルトコボルト


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第4話 勇者の理屈と、モブの生存戦略

 ソウタの額から流れ出た鮮血は、庭の土を赤く染め上げた。ナナミの悲鳴を聞きつけ、慌てて飛び出してきた母親の顔は恐怖で引きつっていた。すぐさまソウタを抱きかかえ、慣れない手つきで低ランクの回復薬を患部に振りかける。それでも出血が止まらないのを見て、母は真っ青な顔で村の錬金術師のおばばのもとへ走った。


 おばばの迅速な処置により、ソウタは何とか一命を取り留めた。しかし、受けた衝撃は小さくない。幼い身体は深い闇の中へ沈んだまま、目を覚ますことはなかった。


 ナナミから事の顛末を聞かされた母親は、怒りで震えていた。そのまま隣の勇者の生家へ乗り込み、ユウキの両親に激しい怒りをぶつけた。勇者の親たちは事情を知るや否や、青ざめた表情で平身低頭に謝罪を繰り返し、帰ってきたユウキをこれでもかと叱りつけた。だが、それがソウタの心の傷を癒すことはない。


   ◇◇


 ソウタが目を覚ましたのは、それから半日後のことだった。窓から差し込む夕日が目に痛い。額に巻かれた包帯の感触が、自分が辿った理不尽な結末を思い出させる。


(……ああ、そうか。ユウキに木剣でやられたんだっけ)


 頭の奥で鈍い鐘が鳴っているような、重い感覚がある。朦朧とする意識の中で、ソウタは記憶を繋ぎ合わせた。咄嗟にナナミを庇った自分。幼児とは思えないあの怪力。


(勇者という称号は伊達じゃないってことか。それにしても、あいつ……)


 思考を巡らせるうちに、ソウタの背筋に冷や汗が流れた。そうだ、あの時の言葉だ。ユウキは確かに、俺のことを『NPC』と呼んだ。


(NPC……つまり、こいつは俺と同じ『異世界転生者』だ!)


 血の気が引く思いだった。相手は伝説の勇者、こちらはただの村人A。しかも、あのユウキの性格はどう見ても最悪だ。自分が転生者だと悟られれば、どんな理不尽な扱いを受けるか分かったものではない。何より、今の自分には対抗する手段も、武力も皆無なのだから。


 ガタガタ、と部屋の隅で物音がした。


 思考を中断して顔を向けると、そこには信じられない光景があった。


 俺のタンスを勝手に漁り、机の引き出しを乱暴に開けているのは、紛れもなくあのユウキだった。


「ちっ、相変わらず大したものはねえなぁ」

 悪びれる様子もなく、俺のお小遣い入れをポケットへ滑り込ませる。


「金もこれっぽっちかよ。しけてやがる」

「……な、何やってるんだ!」


 驚愕と怒りで、思わず大きな声を上げてしまった。自分の部屋で他人が、しかも殺されかけた相手が我が物顔で盗みを働いているなど、誰が想像するだろう。


「ん? ソウタ、起きてたのか?」

 ユウキはまるで、自分の家の中にあるものを漁るかのような、あまりに自然な態度でこちらを振り返った。


「アイテムやゴールドをゲットしてるんだよ。お前、寝てる間に宝箱の中身を補充しとけよな」


(……宝箱? 補充?)


 開いた口が塞がらない。こいつ、本気でここをゲームの中か何かだと思っているのか。


「俺のお小遣いを……今、勝手にポケットに入れたのを見たぞ!」


「ああ、そうだよ。タンスの中にあるアイテムやゴールドは、NPCの家のものなら貰っていい決まりだろ。お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの――って言葉を知らねえのか?」


 その瞬間、ソウタの脳裏に青い狸のロボットのマンガに出てくる、あの最強の悪役の姿が浮かんだ。


(お前はジャイ〇ンかよ……!)


 喉元まで出かけたツッコミを、渾身の力で飲み込む。ここでそんなメタ発言をしたら、転生者であることが確実にバレる。どうする。力で押さえつける? 無理だ。この殺気じみたガキに勝てるわけがない。


 一瞬の思考の末、ソウタは戦略を変えた。実力行使ではない。この世界の住人に助けを求める、最も泥臭く、最もモブらしい策を。


「ドロボーおおおおおお!!」

 ソウタは肺の空気をすべて吐き出す勢いで、最大音量で叫んだ。


「な、なんだよ!? いきなり大声を出すな! どこに泥棒がいるんだよ!」

 慌てふためき、部屋を見渡すユウキ。ソウタはその鼻先を、指先が震えるほど真っ直ぐに突きつけた。


「……オ、オレ?」

 自分を指差し、呆然とするユウキ。ソウタは一点の曇りもない目で、無言で力強く頷いてみせた。


「ちょっと待てよ! タンスやクローゼットの中身を回収するのは勇者の特権だぞ! こんなイベント、攻略本にもなかっただろ……!」


 混乱する勇者の横で、ソウタは冷めた心で思う。――この世界を救う勇者様は、とんだ盗人猛々しいガキのようだ。この村での生活、思った以上に前途多難になりそうだった。

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