第38話 冒険者ギルドの凋落と、遠き日の後悔
冒険者ギルドの重苦しい空気は、外の青空とは対照的だった。ギルド長コヤマザが肩を落として戻ってくると、職員たちが待っていたのは希望ではなく、破滅の予兆だった。
「回復薬の供給停止、そして採取士ギルドによるダンジョン独占……」
コヤマザが呟いた言葉は、職員たちの顔色を青ざめさせた。経理担当の職員が憤怒の形相で詰め寄る。
「ギルド長、冗談じゃありませんよ! 薬草の納品が途絶えた時点で大打撃だったのに、素材の持ち込みまで減るなんて、うちのギルドは持ちません!」
コヤマザは荒い息を吐きながら、近隣の森を根こそぎ荒らした低ランク冒険者たちの愚行を語った。採取の基本である「残す」という知恵さえ持たず、二束三文のゴミを大量生産し、ギルドの看板を汚した彼ら。その代償はあまりに大きかった。
そんな中、カマルカが泣き言を漏らす。
「うはぁ、これからどうなるのぉ? 私の給料、これ以上減ったら……」
その言葉は、まるで火に油を注ぐ行為だった。
「自業自得だ! 今回の件の発端は、カモリナを追い落とそうと嘘の報告を流したお前だろうが!」
経理担当が怒りを爆発させると、周囲の職員たちからも冷ややかな視線が突き刺さる。カマルカは反論することもできず、ただ涙を流すことしかできなかった。
ギルド内には、かつて「草毟り」と馬鹿にしていたソウタへの、歪んだ郷愁が漂い始めていた。
「……ソウタくんがいた頃は、よかったなぁ」
一人の職員がぼやくと、誰もがその言葉に同意した。ソウタが納品していたのは、常に最上品質の薬草。それらが安定して供給されていた頃、ギルドは潤い、職員にも臨時報酬が出るほどの活気があった。
「ギルドをあげて、彼を大切にしていれば……。冒険者として続けてもらうよう、もっと腰を低くしていれば……」
コヤマザの悔恨は、深い溜息となって部屋を満たす。しかし、彼らが手放したのはただの薬草採取士ではなく、ギルドの未来そのものだった。
一方、そんなギルドの現状など露知らず、ソウタは今、迷宮の奥深くで次なる一手を進めていた。
かつて彼を追い出した者たちが、自分たちの失ったものの大きさに気づき、絶望に沈む中、ソウタは静かに「豊穣の杖」の眠る最深部へと近づいていた。
(冒険者ギルドの没落か……。まあ、彼らが自分で撒いた種だし、俺には関係のないことだな)
ソウタは鑑定ゴーグルのマップを更新する。地下8階――。最奥まであと少し。
採取士ギルドの躍進と、冒険者ギルドの凋落。ビーカルの勢力図は、今この瞬間も音を立てて書き換えられようとしていた。




