第37話 冒険者の焦りと、ギルドの政治劇
都市の酒場では、罰金という名の鎖に縛られた低ランク冒険者たちが、出口のない不満を酒に流し込んでいた。かつてソウタを「草毟り」と蔑んでいた彼らは、今やそのソウタの成功を指をくわえて眺めるしかない。採取士ギルドへの転職を試みた者もいたが、ソウタの冷徹な面談の前に全滅。彼らの居場所は、都市のどこにも残されていなかった。
◇◇
一方、領主の城では、ビーカル伯爵を交えた首脳会議が激しい火花を散らしていた。
「……従って、採取士をダンジョン『翠露の迷宮』に入れるよう制度を改めるべきじゃ。このままでは薬草の安定供給が途絶える」
コエザがギルド長としての威厳を纏い、力強く主張する。彼女の背後には、回復薬の供給という最強のカードを持つ錬金術ギルドのヒンマルが控えている。
「そうですね。採取士の確保ができなければ、冒険者たちが愛用する回復薬の供給も止まることになります。これは都市の戦力低下に直結しますよ」
ヒンマルの静かな一言は、冒険者ギルド長コヤマザの心臓を直接握りつぶすような威力があった。
「ま、待ってくれ! 採取士は非戦闘職だぞ。ダンジョンに潜るなら、冒険者を護衛として雇うのが筋だろう! それを独占させれば、我が冒険者ギルドの権益が……」
コヤマザの苦しい弁解を、コエザは一蹴する。
「権益? 笑わせるのじゃ。近隣の森の資源を根こそぎにして都市を危機に陥れたのは、お前たちの管理下にある冒険者共じゃろうが。ソウタ男爵を冷遇した報いは、しっかりと受けてもらわねばならん。我らは、自分たちの採取士を守るために独自の安全網を築く」
「むむ……」
コヤマザがぐうの音も出ないのを見て、伯爵がテーブルを軽く叩いた。会議室に静寂が訪れる。
「コエザの意見、理解した。採取士ギルドがダンジョンに入る必要性は認める。しかし、安全管理は領主たる俺の肝入り組織として、杜撰なことは許さんぞ」
伯爵の鋭い眼光がコエザを射抜く。それは、ソウタという新しい「力」が、この街の既存勢力を凌駕しつつあることを示唆していた。
「その判断基準、我が採取士ギルドに一任していただきたい」
「……いいだろう。その詳細な基準案を提出せよ。俺の認可が下りれば、即座にスタートさせよう」
コエザが小さく微笑む。それは、採取士ギルドが単なる採取集団から、都市の資源管理を統括する実力組織へと脱皮する瞬間だった。
会議を終えたコエザは、満足げに城を出た。
(さて、ソウタ。お主がダンジョンで成果を上げる頃には、この街のルールは書き換わっておるぞ)
都市の裏側で繰り広げられる政治的な駆け引き。その一方で、ソウタは今、迷宮の奥深くで「豊穣の杖」を求め、着々と攻略の足跡を刻んでいた。
採取士ギルドの躍進は、もはや誰にも止められない。




