第35話 迷宮の森と、頼もしき弟子たち
『翠露の迷宮』の入り口をくぐり、緩やかな勾配の洞窟を下っていくと、やがて視界が開け、地下とは思えないほど広大な森が現れた。木漏れ日が差し込み、緑の香りが満ちるその場所を見て、ナナミや子供たちは目を輝かせた。
「すごい……! 地下にこんな森があるなんて」
ヤフジが前衛の五人を呼び寄せる。「いいか、ここからは実戦形式だ。採取士ギルドの力、見せてもらおうか」
先頭を進むのはモモカだ。彼女は先ほどから周囲の気配を殺し、集中力を研ぎ澄ませている。その後ろに盾と剣を持つテロツ、後衛に弓のハルナと魔法のユナ、そして回復・補助担当のナナミが続く。
ソウタは鑑定ゴーグル越しにナナミのステータスを見直し、その意外な性能に内心で感嘆していた。
(【薬師】に【薬効】……毒や痺れ薬も扱えるなら、単なる回復役以上の仕事ができそうだ)
そんな緊張感の中、リャンゾウがソウタの足元でピクリと反応した。
(前方にコボルトが隠れているキュ)
(分かった。モモカたちに任せてみよう)
ソウタが隣のカモリナに目配せすると、彼女は愛用の鞭を手に取り、獲物を狙う猫のような鋭い視線を向けた。露出を抑えたタイトな黒革の鎧が、彼女の引き締まった肢体を強調するが、その佇まいはまさに歴戦の冒険者だ。
「……前方、隠れています。コボルトです」
モモカの声は冷静だった。彼女は自身の影に溶け込むように動くと、草むらから飛び出してきた一匹のコボルトの懐へと一瞬で潜り込んだ。
「テロツ、お願い!」
「おう!」
テロツが盾でコボルトの突きを弾き、生まれた隙にハルナの放った矢がコボルトの肩を射抜く。
「うおぉっ! 逃がすか!」
怯んだコボルトに対し、モモカが流れるような身のこなしで追撃を加え、とどめを刺した。
ソウタは息を呑んだ。子供たちは、想像以上にしっかりと連携が取れている。
「すごい、完璧な連携だよ!」
思わずソウタが声を上げると、子供たちはパッと顔を輝かせた。
「今の動き、悪くなかったわね」
カモリナも鞭を収めながら、満足そうに頷く。
「よし、この調子だ。リャンゾウが警告をくれるから、モモカはそれに合わせて探知の精度を上げていけ」
ソウタの言葉に、子供たちは大きく頷く。
当初の不安はどこへやら、彼らはすでに「採取士ギルド」の冒険者として、迷宮の第一歩を堂々と踏み出していた。
地下の森には、薬草の独特の香りが漂っている。この森の奥には何があるのか。ソウタは鑑定ゴーグルで周囲をスキャンしながら、期待に胸を膨らませた。
(この分なら、予定より早くダンジョンでの採取体制が整いそうだ)
ソウタはリャンゾウの背を撫で、弟子たちの背中を温かく見守り続ける。
迷宮の攻略は、始まったばかりだ。




