第34話 冒険の始まりと、翠露の迷宮へ
ソウタは会議室で、リャンゾウをモフりながら己の境遇を反芻していた。
(モブ転生したんだから平穏第一……なんて思っていたけれど、まさかダンジョン攻略に挑むことになるとはな。リャンゾウさえいれば、俺たちならやれるはずだ)
ふと窓の外を眺めると、かつてのゲーム知識が蘇る。ビーカル近郊のダンジョンといえば『翠露の迷宮』。名前の通り、地下に広大な森が広がる不思議な空間だ。
「ソウタ、何ボーッとしてるのよ」
ナナミの声に、ソウタは我に返った。ナナミは結局、ソウタが「呼び捨てでいい」と押し切ったことで、気兼ねなく名前を呼ぶようになっていた。
「いや、何でもないよ。ちょっと今後の作戦を考えてただけだ」
ソウタは立ち上がり、全員を集めてダンジョンへの進出を宣言した。総勢10名と1匹。小さな、しかし確かな絆で結ばれた採取士ギルドの面々だ。
「……というわけで、これからは『翠露の迷宮』を拠点にする。最初は安全を期して、俺と元冒険者のヤフジさん、そしてカモリナさんも同行してくれることになった」
その言葉に、ハルナとユナが不安げな顔をする。
「ダンジョン……モンスターも出るんですよね……?」
「大丈夫だ。無理はさせない。あくまで薬草採取がメインだ」
ソウタの言葉に、思わぬ援軍が声を上げた。
「私も行くわ。受付にいるだけじゃ暇だし、元はCランクの冒険者よ。迷宮の勝手なら分かっているわ」
カモリナの頼もしい言葉に、場の空気が一気に引き締まる。ヤフジも髭を撫でながら頷いた。
「Cランクの冒険者証ならダンジョンへの入域許可は十分だ。俺とこの姉ちゃんがいりゃあ、上層くらいなら安全に回れるさ」
準備から学ぶことが重要だ、というソウタの提案で、一行はそのまま迷宮攻略に向けた準備を開始した。
ダンジョン攻略には、装備の点検、食料の配分、そして何より「迷宮内での規律」が求められる。モモカたち子供たちにとって、それは初めての本格的な「冒険者としての準備」となった。
特にモモカは、持ち前の探索者の鋭い勘で、ヤフジの装備チェックを真剣な眼差しで学んでいる。
(みんな、強くなろうとしている……。俺も、ただの男爵として見守るだけじゃなくて、みんなと一緒に戦い、成長しなきゃいけないんだな)
ソウタは自分の鑑定ゴーグルをしっかりと締め直した。
冒険者ギルドに依存しない、採取士ギルドによる独自の迷宮攻略。
ビーカル伯爵も知らないところで、この都市の経済と力の均衡を揺るがす挑戦が、静かに始まろうとしていた。
準備が整った彼らが迷宮の入り口に立ったとき、そこにはかつて「草毟り」と蔑まれていた少年の姿はなく、新たな一歩を踏み出す一人の指導者の眼差しがあった。
「よし、行こう。翠露の迷宮へ!」




