第32話 採取士ギルドの壁と、ダンジョンへの挑戦
採取士ギルドの日常は、ソウタの熱心な指導により順調に回り始めていた。
モモカ、ハルナ、ユナ、テロツの四人は、午前中の戦闘訓練で引退したベテラン冒険者たちから生き残る術を学び、午後はソウタたちと共に森へ入って薬草を見極める目を養った。
ソウタは午前中にリャンゾウと森の奥へ向かい、供給を維持しつつ、午後は子供たちのペースに合わせて採取を行う。コエザから錬金術の才能を見出されたナナミも、毎日充実した時間を過ごしていた。
しかし、平和な日常に影が差す。
「はぁ、ここの薬草も、もう採取し尽くしたな……」
テロツの呟き通り、冒険者たちが過去に近隣の森を根こそぎ荒らした影響は深刻だった。ソウタたちが慎重に採取を続けていた生息地さえも、ついに底をついてしまったのだ。
「これ以上は全滅しちゃうからね……」
ナナミも寂しげに呟く。リャンゾウも小首をかしげ、近場にはもう頼れる生息地がないことを伝えてくる。ソウタたちが森の奥へ入れば薬草は見つかるが、まだ未熟な子供たちを危険に晒すわけにはいかない。
ソウタたちは採取士ギルドに戻り、コエザに相談を持ちかけた。
「状況は分かった。……ならば、ダンジョンに行ってみるか?」
「ダンジョン?」
コエザはニヤリと笑う。
「うむ。ダンジョンは不思議な場所でのう。薬草を採り尽くしても、一定期間でまた生えてくる。上層であればモンスターもさほど強くはない。ナナミや子供たちの修行にはうってつけじゃよ」
「なるほど! それならナナミたちも安全に採取ができるし、経験値稼ぎにもなるね。僕も最初について行って、みんなのレベル上げを手伝うよ」
ソウタの提案に子供たちも顔を輝かせたが、コエザはすぐに厳しい表情で釘を刺した。
「一つ、大きな問題があるのじゃ。ダンジョンには、冒険者ランク『D以上』の者しか入れぬ決まりがある」
「えっ……マジかよ」
ソウタの言葉に、ギルド内が静まり返る。
男爵位を得たソウタならいざ知らず、まだ正式な冒険者登録をしていないナナミや、奴隷という身分の子供たちには、ダンジョンへの入域許可が下りない可能性が高い。
採取士ギルド設立早々の壁。しかし、ソウタはすぐに頭を切り替えた。
(僕が男爵であることを使って、直接領主様に嘆願書を出すしかないか……いや、もっといい方法があるかもしれない)
ソウタは深く考え込む。ギルド長コエザと、商人ギルドのジメイ、そして冒険者ギルドの面々。男爵としての権威と、採取士ギルドとしての「公的な貢献」をどうアピールすべきか。
ダンジョンの入り口という新たな試練に立ち向かうべく、採取士ギルドの戦略が今、動き出そうとしていた。




