第28話 男爵位の拝受と、新たな運命の歯車
領主ビーカル伯爵の宣告は、広場の空気を一変させた。
「『狂鬼』の代金とカマルカの罰金では損害を補填できん。冒険者ギルドも責任を負え」
「承知いたしました。監督不行届、甘んじて受け入れます」
ギルド長コヤマザの潔い謝罪の後に、伯爵は視線をソウタへと移した。
「そしてソウタ! これほどの功績を上げながら、この都市が君を把握できていなかったことは恥じるほかない。今後は君が何者にも妨げられず活動できるよう、男爵位を与える。これからはソウタ男爵だ」
会場にどよめきが走る。「あの『草毟り』が男爵?」「おい、口を慎め、不敬罪になるぞ!」と、冒険者たちの顔色はみるみる青ざめていく。ソウタは耳元でコエザに教えられた通り、震える声で「キョーエツシゴクに存じます」と繰り返すのが精一杯だった。
さらに伯爵の口から出たのは、思いも寄らぬ「採取士ギルド」の設立提案だった。
「ソウタ、君一人にこの街の経済を背負わせるわけにはいかん。君の採取の技術を次代に伝え、君が不在の時でも経済が回る仕組みを作るのだ。設立費用は公費から出す」
その言葉に、商人ギルドのニーオヤ、錬金術ギルドのヒンマル、そして冒険者ギルドのコヤマザまでもが、こぞって協力を申し出る。かつてソウタを冷遇していたギルド長たちが、今や彼の寵愛を得ようと必死に頭を下げる光景は、あまりに劇的だった。
(無理だよ、俺にギルドなんて作れるわけがない!)
ソウタは涙目でコエザの袖を掴んだ。
「し、ししょー……助けてください……」
師匠と呼ぶにはまだ距離のある関係だが、コエザは慈母のような優しい微笑みでソウタの頭を撫でた。
「ははは、分かったのじゃ。妾が全て手伝ってやるのじゃよ」
その頼もしい言葉に、傍らにいた受付嬢カモリナもまた、一つの決意を口にした。
「……私も、採取士ギルドに移ろうかしら」
こうして、ソウタの生活は一変した。ただの採取士だった青年は、男爵として、そして新しいギルドの長として、この都市ビーカルの未来を背負うことになったのだ。
◇◇
数日後。
領主から賜った屋敷へ引っ越しを終えたソウタは、会議室で採取士ギルド設立の打ち合わせに臨んでいた。コエザ、カモリナ、商人ギルドのジメイ、そしてヤコイケ村から駆けつけた幼馴染のナナミ。
会議はソウタがコミュ障であるため、ほぼ全てコエザが代弁する形で進められた。人員配置も完了し、最後に残された課題は「採取士の育成」だった。しかし、ギルドにやってくるのは冒険者崩ればかり。ソウタが納得する人材は一人もいない。
「どうするのじゃ? 年上の冒険者では、お主も教える気にならぬであろう」
「そうだね……年下の子なら話せる気がするんだけど。でも、冒険者はちょっと……」
悩むソウタに、経理担当のジメイが穏やかな笑みで提案した。
「それでは、奴隷なんてどうですか? 商人ギルドで、質の良い人材を融通できますよ」
奴隷。その言葉に、ソウタは少しだけ戸惑いつつも、自分を裏切らない「新しい家族」を育てるという選択肢に、かすかな可能性を感じ始めていた。
男爵としての屋敷、幼馴染との再会、そしてギルド長への道。
ソウタの「採取生活」は、ここから新たな、そしてより濃密な物語へと突き進んでいく。




