第21話 偽りの告発と、賢者の微笑
『狂鬼』のリーダー、カイズは頭痛に耐えながら、仲間の五人とともに立ち上がった。倒された屈辱よりも、先行きの不安が彼らを突き動かす。
「おい、このままじゃまずいぞ。冒険者ギルドに報告されたら、俺たちが強盗未遂で厳罰を受ける」
「……だな。だったら、『従魔に不当に襲われた』ことにすればいい」
彼らは邪悪な笑みを浮かべた。自分たちの立場が危うくなれば、弱者をスケープゴートにする。それが彼らの生存戦略だった。「まともに喋れない『草毟り』の言い分なんて誰も信じない」という確信が、彼らを支えていた。
◇◇
一方、ソウタは恐怖に震えながらコエザの屋敷に駆け込んでいた。
「……そんなことがあったのか。酷い奴らじゃのう」
話を聞き終えたコエザの瞳の奥で、静かな怒りの炎が揺らめいた。
「ソウタはここにいるのじゃ。妾が直接ギルドへ行って、全てを叩き直してきてやる」
◇◇
冒険者ギルドは、カイズたちの嘘と悪意で渦巻いていた。カイズは受付嬢カマルカの前で、わざとらしく大声を張り上げる。
「『草毟り』の従魔に襲われたんだ! ギルドとして厳重に処罰してくれ! あの従魔は危険だ、殺処分を求めるぞ!」
カマルナは内心で小躍りした。ソウタを担当するカモリナの評価がうなぎ登りになっていることが、以前から妬ましくて仕方がなかったのだ。
「由々しき事態ね。ギルド長に進言して、その従魔の捕縛依頼を出すわ」
その言葉に、ギルドにいた他の冒険者たちも呼応する。嫉妬と野次馬根性が混ざり合い、ギルド内は「『草毟り』糾弾」の異様な熱気に包まれていく。
「そうだ! あんな気味の悪い従魔、さっさと処分しちまえ!」
「俺たちが捕まえてやろうぜ!」
カマルナがカモリナを嘲笑うようにチラリと見る。カモリナが顔を真っ赤にして制止しようとしたその時、背後からひんやりとした声が響いた。
「……随分と、騒がしいようじゃのう」
その声の主を見た瞬間、ギルド内の空気が凍りついた。カモリナの口を軽く塞ぎ、冷静な眼差しでカイズとカマルナを見据えるエルフの賢者、コエザその人だった。
「コ、コエザさん……?」
カマルナの声が震える。コエザは穏やかな微笑を浮かべたまま、しかしその瞳は全く笑っていない。
「カモリナ、ちょいと相談があるのじゃ。どうやら、妾の愛弟子であるソウタを陥れようとする輩が、ここに大勢おるようじゃのう」
コエザがギルドのロビーを見回すと、さっきまで騒ぎ立てていた冒険者たちが、皆、我先にと視線を逸らした。
「妾が先ほど、当事者のソウタから聞いた話とは、全く違うようじゃが……?」
賢者コエザの静かな一言が、ギルドに張り詰めた緊張を走らせる。嘘と嫉妬で積み上げた『狂鬼』の計画は、今、圧倒的な「格」の差の前に瓦解しようとしていた。




