第2話 チートなし、才能なし、希望なし。それでも生きる。
異世界転生という事実に気づいた直後、ソウタは期待に胸を躍らせていた。ラノベの主人公のように「ステータスオープン!」と叫んでみたり、指先から魔法を放とうと念じてみたり。
しかし、現実は非情だった。
どれだけ必死に念じてもステータス画面は浮かび上がらず、魔法の詠唱もただの子供の独り言にしかならない。期待していた鑑定能力も、アイテムボックスも、あるいは主人公特有の膨大な魔力すら、ソウタには一切宿っていなかった。
「……まじかよ。本当に何もないのか?」
溜息を吐き、幼い手を見つめる。せめてもの救いとして、村外れのスライム相手に棍棒を振り回してみたこともある。だが、結果は散々だった。スライムを倒すどころか、逆に返り討ちに遭いかけて死にそうになったのだ。
この世界におけるソウタの立ち位置は、極めて残酷なほどに「モブ」だった。
さらに状況は悪い。家は貧しく、父親は行方不明。母親が懸命に切り盛りするだけの、経済的な余裕など皆無の家庭だ。
地球の知識で一山当てよう――そんな淡い期待も、すぐに霧散した。この世界の文明レベルは、すでに産業革命期に近い。魔石と魔法を組み合わせた「魔道具」の技術は驚くほど発展しており、地球の電化製品に相当する利便性が確保されていた。
娯楽だってそうだ。トランプ、リバーシ、チェス。果ては人生ゲームのようなボードゲームまで普及している。
「……詰んでるな」
完璧なまでの「人生ハードモード」。絶望に打ち拉がれ、ただ天井を見つめて過ごす日々に、母親の心配そうな視線が突き刺さる。やつれた顔で俺を覗き込む母を見て、ソウタはようやく悟った。
前世のような「死」を待つだけの引きこもり生活は、もう終わりだ。たとえ何者でもなくても、この世界で生きていかなければならない。
◇◇
ソウタが七歳になった頃。狩人だった父の背中を追うことはできなかったが、森には頻繁に出入りするようになった。母が行う薬草採取の手伝いだ。
母から教わるのは、村の近隣に自生する薬草や毒草の見分け方、そして効率的な採取法。
「これって、採取スキルのチートがあるか?」
なんて期待もしたけれど、現実は甘くない。母の知識も所詮は独学の延長、素人に毛が生えた程度のものだった。採取した薬草を持ち込む先は、村に住む気難しい錬金術師のおばばの店だ。
ある日、ソウタは思い切ってそのおばばに直談判してみた。
「おばば、俺を弟子にしてくれないか? 錬金術師として身を立てたいんだ」
しかし、おばばは鼻で笑った。
「あんた、魔力もなければ才能もない。錬金術師のスキルを持ってない人間に、回復薬なんて作れるわけないだろう。遊び半分で来るんじゃないよ」
おばばが作れるのは、せいぜい低ランクの回復薬が関の山。始まりの村だからこそ、この程度の技術で通用しているに過ぎないのだ。
やはり、この村に未来はない。
ソウタは、窓の外に広がる退屈な村の風景を見つめながら、拳を握りしめた。
「大きくなったら、絶対にこの村を出てやる。もっと大きな町へ行って、俺自身の居場所を見つけるんだ」
チートも魔法もなくても、俺には前世で培った「知識」と、泥臭く生き抜くための「根性」だけはある。
モブキャラとしての平穏な生活ではなく、自分の手で物語を切り拓くための、長い戦いが始まろうとしていた。




