第18話 『草毟り』の二つ名と、変わらぬ日常
森の中で薬草を採取するソウタの横を、駆け抜けていく低ランクの冒険者たちがいた。
「何やってんだよ、あんなもん放っておけ。俺たちは冒険者だ、モンスターを倒してなんぼだろうが」
「そうですよ、そんな小銭稼ぎなんて『草毟り』にでも任せておけばいい」
そんなやり取りを耳にしても、ソウタは淡々と採取を続けるだけだった。彼らにとって薬草採取は「買い叩かれて銅貨数枚にしかならない無価値なもの」だったが、それは彼らの採取方法と保管の仕方が余りにも杜撰だからに他ならない。
ある日、受付でカモリナがソウタの薬草を検品していると、背後の冒険者がその買取額に過剰な反応を示した。
「おい待て! 何でアイツの薬草だけそんなに高いんだ? 同じものだろ、五倍も差があるなんておかしいだろ!」
騒ぎ立てる冒険者が手にしていたのは、討伐したモンスターの素材と一緒にバックパックへ詰め込まれ、血と内臓の臭いが染み付いて潰れた「薬草」だった。獣人であるカモリナにとって、ゴブリンの臭いが移ったその代物は、検品するのも苦痛な代物だ。
「……そんな状態のものを、高く買い取れるわけないでしょう。これがソウタくんの持ってきた薬草よ」
カモリナが提示したソウタの薬草は、根元が丁寧にナイフで処理され、採取したてのような瑞々しさを保っていた。冒険者は舌打ちをしてその場を去ったが、その怒りの矛先は当然のようにソウタへ向かった。
『アイツだけ高い買取額をもらっている』
『楽をして稼いでいる』
そんな悪意ある噂は瞬く間にギルドへ広まり、いつしかソウタは蔑称である『草毟り』という二つ名で呼ばれるようになっていた。中・高ランクの冒険者が端から採取など見向きもしない中、低ランクの冒険者たちは、嫉妬を正当化するために「採取はあいつの仕事だ」と馬鹿にするようになったのだ。
だが、そんな陰口を意に介することなく、ソウタの冒険者生活は過ぎていった。
相棒のリャンゾウと共に、コエザの指名依頼を完璧にこなし、安定して上質な薬草を納品し続ける。街もギルドも、ソウタの安定した仕事ぶりに感謝こそすれ、不満など何一つなかった。
そして数年後。
冷ややかな視線を浴び続け、誰からも認められずとも地道に歩み続けたソウタの冒険者証は、ついに「Dランク」へと昇格していた。
相変わらずの採取士として、そして傍らにはいつも聖獣リャンゾウを連れて。ソウタの静かなる躍進は、まだ誰にも知られることなく続いていく。




