第14話 錬金術師の正体と、相棒の隠された秘密
冒険者ギルドでの一悶着を終え、ソウタは足早に都市の区画を移動していた。手元にあるのは、ヤコイケ村の錬金術師ボンブル――おばばから託された手紙と、彼女が書きなぐった少しばかり不親切な地図だ。
「ここかな、あそこかな……」
何度目かの角を曲がり、ようやくたどり着いたのは、この都市の街並みの中でも一際目を引く広壮な屋敷だった。表札には確かに『コエザ・キグリ』の文字。
「ここだよなぁ? リャンゾウ」
ソウタが問いかけると、リャンゾウは小首を傾げてキョトンとした顔を向ける。まあ、分かるはずもないか。と苦笑しつつ、ソウタは本音を漏らした。
「よし、場所は確認できた。……さて、訪問は明日にするか」
ソウタの悪い癖である。気が進まない事柄は、とことん先延ばしにしたい。ボンブルおばばの師匠といえば、さぞかし威厳のある「大おばば」に違いない。怒られたらどうしよう、門前払いされたらどうしよう、そんな不安が足を止める。
踵を返して去ろうとしたその時、ズボンの裾がぐいっと引っ張られた。見ればリャンゾウが、真剣な眼差しでこちらを見上げている。
「はぁ……そうだよな。今日、行った方がいいよな。手土産の貴重な薬草も、鮮度がいいうちに渡さないと失礼だもんな」
リャンゾウが誇らしげに鼻を鳴らす。やはりこの獣は、時折モンスターとは思えないほど賢い。意を決して、ソウタはフクロウの形をしたアンティークのドアベルを鳴らした。
カチャリ、と音を立てて即座に扉が開く。
「はいはい、なんじゃ?」
姿を現したのは、ソウタよりも若干年下に見える、派手な服を着た可愛らしい少女だった。
「……出てくるの、早っ!」
心の声が漏れたが、年下の子相手には緊張しないのがソウタの特権だ。
「こんにちは。俺はヤコイケ村から来たソウタといいます。錬金術師ボンブルさんの紹介状を持ってきました。コエザさんはいますか?」
「ん? コエザは妾じゃが。ふむ、ヤコイケ村からか。遠いところをよく来たの。さあ、中へ入るのじゃ」
「えっ……あなたがコエザさん?」
思わず声が上ずった。目の前の少女が、あのボンブルの師匠?
「そうじゃよ。ボンブルは妾の弟子じゃ。……ああ、妾をただの子供だと思ったのじゃろう? 妾はエルフじゃ。歳は一五〇を越えておるからのう」
「えええええええ!」
(エルフ! しかも長命種……!)
「ボンブルの奴、そんなことも教えておらんのか。全く、けしからん奴じゃ。まあよい、入りなさい」
屋敷の中は、まるで博物館のような超高級アンティーク家具の山だった。身の丈に合わない豪華なソファーに腰掛け、出された紅茶をすするソウタは、まるで借りてきた猫のように背筋を伸ばす。
「しかし驚いたのじゃ。聖獣を連れて、家の前をウロウロしている者がおると思えばボンブルの知り合いじゃったとは。何かと思ってドアの前で息を殺して様子を窺っておったのじゃよ」
「せ、聖獣……?」
ソウタの反応に、コエザはリャンゾウを指差した。
「ん? 知らなんだのか。それ、そこにいるのが聖獣じゃよ。雷属性とは珍しい。まだ若くて一〇歳から二〇歳の間といったところかのう。種族は『雷獣』じゃ」
ソウタは膝元で丸まっていた相棒を凝視する。リャンゾウもまた、何かを確信したようにコエザを見つめ、深々と頷いた。
(嘘だろ……あの野良の雷獣じゃなくて、聖獣だって……?)
驚愕のあまり、言葉が出てこない。モブキャラの隣にいたはずの相棒は、想像を絶する高貴な存在だったらしい。ソウタの静かな冒険者生活は、この瞬間からより一層騒がしくなろうとしていた。




