第13話 冒険者ギルドの守護者、そして年上の「お姉さん」
ギルド内に響き渡るロカンの怒声と、背後ではやし立てる仲間たちの嘲笑。
「おいおいロカン! こんなガキんちょにやられたのかよ!」
「ジャイアントハーフがチビに負けるとは、傑作だな!」
冒険者たちの視線が痛い。ソウタは恐怖で足がすくみ、顔面蒼白のまま震えていた。冷や汗が頬を伝う。だが、足元ではリャンゾウがソウタの脚に体を強く押し付け、鋭い眼光でロカンを睨み返している。
「うるさい! お前らは黙ってろ! 俺はこの小僧に聞いてるんだ! てめえ、俺に何をした! 何で俺が入口で寝てたんだ!」
ロカンの大声が、ギルド中の空気を凍りつかせる。
「ひゃ、ひゃいぃ……!」
ソウタはもう、まともに言葉を紡ぐこともできない。だがその時、リャンゾウがソウタを見上げ、優しく鼻先で手元を突いた。「大丈夫、僕がついてる」とでも言いたげなその仕草に、ソウタは必死に正気を保つ。
絶体絶命のその時だった。
「ちょっと待って!」
凛とした女性の怒声が場を制した。受付のカウンターを軽やかに飛び越え、颯爽と駆け寄ってくる影。カモリナだった。
「ソウタくん、大丈夫よ。ここは私に任せて」
ソウタに小声でそう囁くと、カモリナは一歩前に出た。腰に左手を当て、右手でロカンを鋭く指差す。その背後、マリンキャップの隙間からピーンと伸びた獣耳が、怒りに震えているのが見えた。彼女もまた、獣人の血を引いていたのだ。
「ロカンさん、いい加減にしなさい! ギルド内で初心者の若い冒険者を囲んで脅すなんて、Cランク冒険者のすることかしら!?」
(カモリナさん……かっこいい!)
ソウタは心の中で感嘆した。不退転の決意を宿した彼女の尻尾は、獲物を狙う猛獣のように力強く揺れている。
「む、むぅ……いや、その……その小僧が、俺を……」
ロカンはたじろいだ。ここでEランクの初心者に自分が倒されたと公言すれば、冒険者としてのプライドが崩壊する。それに、密かに好意を寄せているカモリナに完全に嫌われることだけは避けなければならない。
「……あ、いや。なんでもないんだ。小僧、邪魔したな……」
ロカンは急激に萎びたような表情で、すごすごと踵を返した。
「二度とソウタくんに手出しはしないことね!」
背中に向けたカモリナの厳しい追撃の声に、ロカンは背中を丸めて小さく手を挙げた。
「わ、分かったよ……」
その背中を、呆れた顔の仲間たちが追っていく。ギルドに再び日常の喧騒が戻った。
「カモリナさん、本当にありがとうございました」
ソウタが深く頭を下げると、カモリナは先ほどの鬼気迫る表情を一瞬で消し去り、いつもの優しい受付嬢の顔に戻ってソウタの頭をポンポンと撫でた。
「いえ、何事もなくて良かったわ。何か困ったことがあったら、いつでもお姉さんに相談しに来るのよ?」
にっこりと笑う彼女の姿を見送り、ソウタは複雑な心境でその場に立ち尽くした。
(お姉さん、か……。転生前の記憶も含めれば、俺の方が年上なんだけどなぁ……)
助けられた安心感と共に、言いようのない切なさが胸に残る。モブキャラとしての一歩は踏み出した。だが、自分の精神年齢とのギャップに、ソウタは少しだけ苦笑するしかなかった。




