第12話 冒険者『採取士』の誕生と、大男の咆哮
冒険者ギルドのカウンターで、ソウタは冷や汗を流していた。職業。それは、前世の記憶を頼りに生きる自分にとって、もっとも答えにくい問いだった。
(剣士? 剣を握ったこともない。魔法? 当然使えない。リャンゾウを連れているからテイマー……いや、支配下にあるわけじゃないんだ。嘘をついて登録して、後でボロが出るのは絶対に嫌だ)
「あの……職業なしではダメですか?」
勇気を振り絞って尋ねるソウタに、カモリナは困ったように眉を下げた。
「うーん、何らかの職業がないと登録できない決まりなのよ。自分の得意なことを職業として申請するんだけど……リャンゾウちゃんを連れているなら、テイマーが一番自然じゃないかしら?」
「テイムしているわけではないんです。……相棒であり、親友なんです。スキルもないのにテイマーと名乗るのは、リャンゾウに対して嘘をつくようで……。だから、それは嫌なんです」
ソウタの真摯な言葉に、カモリナは一瞬目を見開いた。そして、どこか慈しむような優しい笑みを浮かべる。
「……そう。ごめんなさいね、変なことを言って。それなら、得意なことはない?」
「得意なこと……? あ、そうだ」
ソウタはピンと来た。自分の人生を支えてくれた、唯一無二の手段。彼はペンを手に取り、冒険者登録用紙の職業欄に、迷わずこう書き込んだ。
「……『採取士』?」
カモリナは目を丸くした。
「何それ!? 戦闘職でもサポート職でもない、そんな職業……聞いたことがないわ」
「村では毎日、薬草採取を仕事にしていたので。……やれることは、これくらいしかなくて」
ソウタはポケットから、今日採ったばかりの薬草を取り出した。カモリナがそれを手に取り、光に透かす。
「……すごい。傷一つなく、成分も完全に保持されてるわ。これほどの鮮度なら、ギルドの常設依頼として優先的に買い取らせてもらってもいいかしら?」
「はい。ぜひお願いします」
カモリナは楽しそうに笑いながら、手続きを進めた。カチャカチャと音が鳴り、登録作業が終わる。
「はい、お待たせ。前例のない職業だけど、『採取士』として登録完了よ。薬草の品質が素晴らしかったから、買取額も少し色をつけておいたわ」
渡されたのは、薄く輝くEランクの冒険者証と、リャンゾウ用の従魔の証。そして銀貨数枚。
「詳しくはこの冊子に冒険者のルールが書いてあるから、よく読んでね。ソウタくん、無理しちゃダメよ?」
「はい。本当にありがとうございます」
首から冒険者証を下げ、リャンゾウの首元に証を装着させる。少しだけ、自分が何者かになれたような気がした。
その後、掲示板を確認したが、どれも戦闘や他人との交流が必須のものばかりだ。
(結局、俺には常設の採取依頼しかないか。……まあ、コツコツやるのが性に合ってるよな)
安堵して出口へ向かおうとした瞬間。
「……おい、小僧ッ!」
背後から響く、地響きのような大音声。振り返れば、そこには先ほどまで白目を剥いて気絶していたはずの、Cランク冒険者ロカンが立っていた。
その顔は怒りで赤黒く染まっている。
「俺に何をしたァッ!」
ギルド内が静まり返る。ソウタの冒険者ライフは、開始早々にして最大の危機を迎えていた。




