第11話 冒険者デビュー、雷獣の閃光と受付嬢の微笑み
冒険者ギルドの入り口、身長二メートルを超える巨漢ロカンに襟首を掴まれ、宙吊りにされるソウタ。恐怖で硬直していたが、次第に自分の中で何かが沸々と煮え立っていくのを感じていた。
(……理不尽だ。俺は何もしていない。ただ、冒険者特有のトラブルを警戒して、慎重に歩いていただけじゃないか)
下を向いていた視線をゆっくりと上げ、大男の顔を直視する。ロカンには敵意こそないようだが、その無遠慮な態度には腹が立つ。力があれば叩き伏せてやりたいという衝動が、心の奥底で小さく火を噴いた。
――その時だった。
ソウタの内に芽生えた怒りを感じ取ったのか、足元のリャンゾウが動いた。一瞬、灰色の身体が眩い閃光に包まれる。
次の瞬間、巨漢ロカンの膝が崩れ落ちた。まるで操り人形の糸が切れたかのように、大男は白目を剥いて地面に激突する。
「……リャンゾウ、お前がやったのか?」
得意げな表情で頷くリャンゾウ。ソウタは呆気に取られつつも、相棒の気遣いに心からの感謝を伝えた。
「リャンゾウ、ありがとう。……でも、ロカンさんがここで倒れてたらギルドに入る邪魔だな」
気絶したロカンを慎重に引き摺り、入り口の扉横まで移動させる。そのままソウタは、意を決して冒険者ギルドの重厚な扉を押し開いた。
◇◇
中に入ると、目の前には三つの受付カウンターが並んでいた。二人の美しい女性と、一人の中年男性。ソウタは迷わず、綺麗な女性の方へ向かう。見知らぬ中年男性と話すのは、コミュ症気味なソウタにとってハードルが高すぎる。
順番が来て、カウンターの前に立つ。受付嬢は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにプロフェッショナルな笑顔を浮かべた。
「初めてお会いしますね。冒険者ギルドへようこそ、受付のカモリナです。今日はどのようなご用でしょうか?」
胸元のネームプレートには『カモリナ・ガセイ』とある。グレーのマリンキャップが似合う、切れ長の目が魅力的な女性だった。
「や、ヤコイケ村から来た、ソウタと申します。冒険者登録と……この子の従魔登録をお願いしたくて」
ソウタがリャンゾウを紹介すると、リャンゾウはカウンターに顔をちょこんと出し、クリクリとした瞳でカモリナを見上げた。
「きゃあ、かわいー!」
カモリナが思わず声を上げて喜ぶのを横目に、ソウタは村長から託された証明書を差し出した。
「これを確認してください」
少し頬を赤らめたカモリナが書類を受け取り、丁寧に確認していく。
「ええと……ヤコイケ村のソウタ様ですね。種別不明でリャンゾウちゃん……はい、問題ありません。では冒険者登録と従魔登録を進めますが……ソウタさんの『職業』は何に登録しますか?」
「え、職業……ですか?」
ソウタは言葉に詰まった。剣が振れるわけでも、魔法が撃てるわけでもない。前世の知識だけで、この過酷な異世界で何者として生きていくのか。
(剣士じゃない、魔法使いでもない。俺の職業って、結局なんだ……?)
ソウタの冒険者としての第一歩は、自分自身を定義するという難問から始まろうとしていた。




