第10話 冒険者ギルドへの道、そして「巨人」との遭遇
城壁都市ビーカルの喧騒は、ヤコイケ村の静寂とは対極にあった。旅人用の門に並ぶソウタの足元で、リャンゾウが不思議そうに周囲を観察している。二股の尻尾と独特な体毛を持つこの獣は、道行く旅人たちの好奇の視線を一身に集めていた。だが、ソウタは努めて無関心を装う。今ここで注目を集めることは、目立ちたくないモブキャラとしての生存戦略に反するからだ。
「はい、次の人どうぞ!」
門番の鋭い声に、ソウタはびくりと肩を震わせた。
「は、はい……」
緊張で喉が引きつる。門番の鋭い眼光に晒されながら、ソウタは村長から託された村民証明書を差し出した。リャンゾウのことも、種別不明の従魔として記載してある。
「ん? ……ふむ、ヤコイケ村のソウタだな。従魔の名はリャンゾウ、種別不明か。……おい坊主、都市内で従魔を連れ歩くなら、冒険者ギルドで『従魔の証』をもらって、こいつに装着させるのが決まりだ。忘れるなよ」
「は、はい……!」
心の中では『ジメイさんから聞いていたから知っているし、この後すぐに行くつもりだ』と強がってみるが、口から出るのは気弱な返事だけだ。
「まあ、証明書に不備はないな。入市料は銀貨二枚だ。冒険者になれば入市料は無料になるから、さっさと登録してくるんだな」
言われるがままに銀貨を支払い、ソウタは都市の門をくぐった。
そこは、まさに異世界だった。人間だけでなく、獣人、魚人、ドワーフ、エルフ。耳の長い美女が歩けば、屈強なドワーフが隣で笑い、ヒレを持つ魚人が市場で魚を売っている。ヤコイケ村という閉鎖環境で育ったソウタにとって、その光景は映画を見ているかのように輝いて見えた。
(すげぇ……本当に、魔法と剣のファンタジー世界だ)
興奮を抑えきれずにキョロキョロと見渡していると、通り沿いに一際目を引く巨大な建物があった。壁には、剣とモンスターが刻まれた見慣れたエンブレム――『冒険者ギルド』の看板だ。
(あった! あそこが冒険者ギルドだ)
ソウタは決意を新たにした。しかし、脳裏には前世で読み漁ったラノベの定番シーンが浮かぶ。
(ギルドといえば、乱暴者の冒険者に絡まれるのがお約束だろ……。俺みたいな弱そうな奴が一人で歩いていたら、カモにされるに決まってる)
ソウタは身を潜めるように、建物の影や人の背後に隠れながら、端っこを通ってギルドを目指した。リャンゾウがちょこまかと足元を駆け回る姿は、周囲からすれば隠密行動などとは到底呼べないほど目立っていたが、ソウタ自身は完璧な隠密だと信じ込んでいた。
(良し、誰にも声を掛けられずにギルドの入り口まで到達したぞ……!)
安堵して門をくぐろうとした、その瞬間だった。
「坊主、ギルドにどんな用だぁ?」
背後から首根っこを掴まれ、視界がふわりと浮き上がった。振り返ると、そこには身長二メートルを優に超える巨漢が仁王立ちしている。
「ひゃい……っ!」
(で、でけぇ……! 巨人か? 人間とのハーフか何かか?)
恐怖で震えるソウタを片手で軽々と持ち上げ、男はニカッと笑った。
「俺はCランク冒険者のロカンだ。お前、見かけない顔だな」
「お、俺はソウタです。ぼ、冒険者の……登録に、来ましちゃ」
噛みついてしまった舌を呪いながら、ソウタは必死にロカンを見上げた。ロカンは興味深そうにソウタとリャンゾウを上から下まで眺め回すと、面白そうなものでも見るような笑みを浮かべた。
「冒険者登録、か。ふーん、面白い面構えだな」
圧倒的な威圧感を放つロカンを前に、ソウタの「穏やかな冒険者ライフ」は早くも暗雲が立ち込めていた。




