第109話 ギルドに大量の特級素材を出したらパニックに!? 絡んできた冒険者と悪徳商人を一瞬で黙らせる
エルフの隠れ里を出発した俺たちは、予定通り近くの商業都市へと到着していた。
活気あふれる街並み。行き交う人々。
久々の文明の香りに、俺――ソウタはホッと息を吐く。
「よし、まずは冒険者ギルドで溜まった素材の換金だな」
「おう! やっと俺の獲物を金に換えられるな! 腕が鳴るぜ!」
サイコが身の丈を超える大剣を背負ったまま、獰猛にニヤリと笑う。
その隣では、妹のジュネが俺の袖をきゅっと掴んで離さない。
足元では、雷獣のリャンゾウが周囲をキョロキョロと見回している。
「ソウタ、交渉はアタシに任せときなさい。サイコにやらせたらギルドごと脅迫しちゃうからね」
モモカが呆れたように肩をすくめる。
(本当にその通りだから、モモカがいてくれて助かるよ……)
そうして、俺たちは街で一番大きい冒険者ギルドの門を叩いた。
◇
ギルドに一歩足を踏み入れた瞬間、ガヤガヤとしていた酒場や受付が一瞬で静まり返る。
理由は明確。
俺の後ろに立つサイコが、隠しきれない「本物のバケモノの覇気」を無自覚に撒き散らしているからだ。
周囲の冒険者たちが冷や汗を流して道を開ける中、俺たちは受付へと向かう。
「い、いらっしゃいませ……。本日はどのようなご用件でしょうか……?」
受付の綺麗なお姉さんが、サイコに怯えて声を震わせている。
「あ、すみません。採取した薬草と、道中で狩った魔物の素材を買い取ってほしくて」
俺が愛想よく微笑むと、お姉さんは少しホッとした表情になった。
どうやら、この凶悪な男のボスが、優しそうな俺だと気づいたらしい。
「かしこまりました! では、こちらのトレイに素材をお願いします」
「わかりました。……じゃあ、まずはこれくらいで」
俺は自分のマジックバッグから、エルフの森でナナミと一緒に採取した『特級回復薬の原種ハーブ』を一掴み取り出し、トレイに乗せた。
その瞬間。
ギルド内に、言葉を失うほどの濃密な「魔力の香り」が広がった。
「――っ!? こ、これは……っ!!」
受付嬢の目が、これ以上ないほど見開かれる。
「おいおい、冗談だろ……? あの瑞々しさと魔力……伝説の『天上の聖草』じゃねえか!?」
「一葉で白金貨が動く国宝級のハーブだぞ!? なんであんな若造が持ってるんだ!?」
周囲のベテラン冒険者たちが、椅子をひっくり返して立ち上がった。
だが、驚くのはまだ早い。
「あ、サイコ。君の分の魔獣の素材も出しちゃって。あと、前に山分けしたアレも」
「おうよ! 待ってました!」
サイコが自分のアイテムバッグを逆さにし、中身をドバドバと床にぶちまけ始める。
ドスッ! ドスッ! ドスサァァァン!!!
「ひえっ……!?!?っ」
受付嬢が短い悲鳴を上げてのけぞった。
床に積み上がったのは、巨大な『一角ウサギ』の山、さらに深層にしか生息していないはずの『上位ゴーレムの魔核』、そして極めつけは、災害級の指定魔獣『グランドベア』の完全無傷の毛皮と牙。
それらが、数え切れないほどの山となってギルドのロビーを埋め尽くしていく。
「お、おいおいおい! 嘘だろ! グランドベアを無傷で討伐!? どんな英雄の仕業だよ!」
「それだけじゃねえ! あのゴーレムの魔核の数を見ろ! 一個で一部隊が壊滅するレベルの代物だぞ!」
ギルド内は、文字通り蜂の巣をつついたような大パニックに陥っていた。
◇
「おい、ちょっと待ちやがれ」
パニックに陥るギルドの雑踏を掻き分けて、一人のガタイの良い男が前に出てきた。
全身をトゲトゲの鎧で固めた、この街のトップランカーらしき高ランク冒険者だ。
「おい、そこの軟弱そうな優男。てめえ、どっかの遺跡でも横領してきたのか? こんな特級素材、てめえの面じゃ手に入るわけがねえ。……おい、大人しくそのバッグを俺に引き渡せ。高ランクの俺が、正当に管理して――」
男がソウタの胸ぐらを掴もうと、下劣な笑みを浮かべて手を伸ばした、その瞬間。
――ガシッ。
「あ?」
男の動きが、完全に止まった。
サイコが、男の伸ばした腕の「手首」を、鉄の万力のような力で掴み取っていた。
「おい、クソ虫」
サイコの瞳が、どす黒い漆黒の殺気に染まる。
大剣すら抜いていない。ただ手首を掴んだだけなのに、ギルド全体の空気が一瞬で氷点下へと叩き落とされる。
「……っ!? ぁ、が……っ!?」
「俺の主に、汚ぇ手で触ろうとしたな?」
ピキピキ、と骨が軋む嫌な音が響く。
男は恐怖のあまり顔面を蒼白にし、全身をガタガタと震わせながら、声にならない悲鳴を上げた。
実力の差が、天と地どころではない。触れただけで「死」を確信するレベルのホンモノの化け物だ。
サイコは冷酷な笑みを浮かべ、大剣の柄にそっと手をかける。
この狂犬にとって、主への無礼は即座に処刑対象だ。
「お前ら、敵か?」
その低く冷え切った一言がギルドに響き渡った瞬間、男とその仲間たちの脳裏に【敵認定=即斬】という絶対的な死の未来が浮かび上がった。
「て、敵じゃないですぅうううううっっ!!! 勘違いでしたぁぁぁっ!!!」
男は涙目になりながら絶叫。サイコが手を離した瞬間、床を転がり、仲間たちに引きずられながら脱兎の如くギルドから逃げ出していった。
もはや、俺たちに文句を言おうとする命知らずは、ギルド内に一人も残っていなかった。
◇
「……と、いうわけです。ギルド長さん?」
場所は変わり、ギルドの奥にある特設の貴賓室。
あまりの事態にすっ飛んできたギルド長と、この街で一番大きい商会の主(お大層な肥満体の悪徳商人)が、俺たちの前に座っていた。
商人の男は、床に並べられた特級素材を前に、ギラギラとした強欲な目を光らせている。
「ふむ……。確かにどれも素晴らしい素材だ。だがねぇ、お若いの。これほど大量の特級素材を一度に市場に出されると、こちらの資金繰りも厳しい。それに、出所が不明な素材となると、買い取り価格は通常の『3割』まで落とさざるを得ないなぁ、ハハハ!」
商人は、俺たちが「世間知らずの子供」だと踏んで、盛大に買い叩こうと汚い笑みを浮かべた。
(うわぁ、出たよ。テンプレ通りの悪徳商人……)
俺が内心で呆れていると、サイコが「そう言えば、これもあったな」と、俺のマジックバッグから一緒に取り出した『追加の素材』をテーブルへ無造作に転がした。
ゴトッ……。
それは、見る者を深淵の恐怖へと引きずり込むような、不気味に明滅する漆黒の魔石。
そして、その周囲を埋め尽くすのは――神話の金属で造られた、あり得ないほどの輝きを放つ超重量級のゴーレムの残骸だった。
「ひっ……!?!?っ」
今度はギルド長が、椅子から転げ落ちんばかりに絶叫した。
「こ、これは……かつて最悪のペストを撒き散らし、一国を滅ぼしかけた伝説の、最強の魔人『アサグ』の魔石……!? なぜ貴方方が持っているのですか!?」
「あ、あとそれ、アサグの眷属だった『オリハルコンゴーレム』に『ミスリルゴーレム』、『アダマンタイトゴーレム』の残骸ね。サイコと山分けして俺のバッグにも眠ってたから、ついでに出しとくよ」
ソウタが何でもないことのように付け足すと、部屋の中の空気が完全に凍りついた。
一国を滅ぼす魔人と、神話級の金属でできた最強のゴーレムたち。それらをまとめて「討伐」し、おまけのように換金しに来る存在など、この世界の歴史をひっくり返しても存在しない。
商人の男は、ギラギラしていた強欲な目が一瞬で恐怖に染まり、顎をガタガタと震わせ始めた。
買い叩く? 冗談ではない。一歩間違えれば、自分だけでなくこの街ごと歴史から消し去られる。
俺が内心で(よし、完全にビビったな)と思っていると、俺の隣に座っていたモモカが、不敵にフッと口元を歪めた。
彼女は足を組み、懐から何枚かの「書状」を取り出して机に叩きつける。さらに容赦のない追撃の開始だ。
「おい、タヌキ親父。誰に向かって交渉のハッタリかましてんの?」
「な、何だと……っ!?」
「資金繰りが厳しい? 買い取り価格3割? 笑わせないで。あんたの商会、先月エルフの隠れ里から仕入れた世界樹の葉や枝の横流しで、莫大な裏金を溜め込んでるわよね? その隠し口座の場所と金額、ここに全部書いてあるわよ」
「なっ……なな、なぜそれを……っ!?!?」
商人の顔から、一瞬で血の気が引いた。
「さらに言えば、出所が不明? これ、全部『エルフの隠れ里の世界樹の森』の特産品、それからアサグの討伐報酬よ。現在のあの森の正当な所有者は、アタシたちのボスであるソウタ。所有者本人が持ち込んだ素材の、どこが出所不明なわけ?」
モモカの容赦ない追撃が、商人の心臓を的確にブチ抜いていく。
「え、エルフの森の所有者……に、アサグを討伐した張本人……!? バカな、そんなことが――」
「文句があるなら、今すぐあの森を統べる精霊ドリアードに、あんたの名前で確認の念話でも飛ばしてあげようか? ――アタシたちのボスを騙そうとした罰として、商会ごと一瞬で植物の餌にされると思うけど?」
モモカの背後から、サイコとジュネが「いつでも殺せるぞ」と言わんばかりの凶悪なプレッシャーを商人に浴びせる。
大精霊とアサグ討伐の名前が出た瞬間、ギルド長も商人も、完全に魂が抜けたようにガタガタと震え出した。
「す、すびばぜんでじだぁぁぁ!!! 相場の『2倍』……いや、『3倍』の価格で全て買い取らせていただきますぅぅぅ!!!」
商人は椅子から転げ落ち、床に頭を何度も叩きつけて涙目で絶命寸前の懇願をしてきた。
「ふん、最初からそう言えばいいのよ」
モモカは満足そうに胸を張り、俺に向かって「完璧でしょ?」とウィンクをしてみせた。
(……す、凄すぎるよ、モモカ。アサグの魔石やオリハルコンたちのゴーレムも、高値で売れて大正解だったな!)
こうして、俺たちは一回の換金で、国をいくつか買い取れるほどの莫大な富(白金貨の山)を手に入れたのだった。
自分の規格外な影響力に全く気づかないまま、ソウタののんきな異世界無双は、街の権力構造すらも一瞬で塗り替えていく――。




