第108話 最強の魔族や獣人をアゴで使い、神獣をチェスの駒のように配置する俺、エルフの村長から魔王だと思われている件
ここはエルフの隠れ里。
常識外れのバケモノたちを従える「最凶の黒幕」としてエルフたちから畏怖されている俺――ソウタは、村長の豪華な屋敷で優雅に朝食をごちそうになっていた。
「はぁ……昨日は本当にいろいろあり過ぎたわね」
モモカが温かいスープを口に運びながら、しみじみとため息をつく。
「そうだな。謎の超長距離狙撃から始まって、大精霊ガイアの笑顔の公開処刑まで、完全に怒涛の勢いだったよ」
俺は苦笑交じりに返事をする。
「で、今日はどうするの? ソウタ」
「近くの大きな町に行って、溜まった素材をまとめて売ってきたいんだよね」
「ああ、俺も行くぞ!」
「私もお供します、ソウタ様」
俺の言葉に、サイコとジュネが間髪入れずに即座に反応した。
「サイコもゴーレムの素材やら魔物の死骸やら、マジックバッグに大量に持ってるからな。同行は確定だね」
「おうよ! 早く金に換えてぇぜ!」
「お兄ちゃんが確定なら、私の同行も確定ね。ソウタ様の側を離れるわけにはいきませんから」
ジュネが嬉しそうに俺の隣をキープする。
「そうだね、じゃあ二人は一緒に行こう。……っと」
「おい、私も行くぞ!」
(あちゃー……ブリュンヌも行きたいのかぁ。でも……)
「ブリュンヌはちょっと待って」
「えー! なんでだよソウタ!」
ブリュンヌが不満げに耳をぴくつかせる。俺は彼女の問いにはすぐ答えず、静かにハーブティーを飲んでいたナナミへと視線を向けた。
「ナナミはどうする?」
「私はこの里に残って、薬草の採取と薬の調合をしてるわ。見たところ、この森にはかなり希少で質の良い薬草が多そうだしね」
「了解だ。……だったらブリュンヌ、君はナナミの護衛としてここに残ってもらうよ」
俺の決定に、ブリュンヌは露骨に嫌そうな顔をした。
(……いやね、サイコ一人だけでも町に連れて行くのは相当気を遣うのにさ。ブリュンヌもかなり喧嘩っ早いから、二人同時に連れて行ったら町を一つ消滅させかねないんだよ。不安要素は減らしたいんだ)
「えー、採取なんてかったるいなぁ。ナナミの護衛ならジュネでいいじゃん。あいつ、採取とか好きそうだしさぁ」
ブリュンヌが何気なく放ったその言葉に、ナナミの美しい目が一瞬でスッと冷たく据わった。
(……はぁ? 採取が好きなんじゃなくて、ジュネちゃんはソウタ様のことが好きなのよ。この猫娘、本当に配慮が足りないわね。それとも……まさかこの猫娘も、ソウタ様を狙っているのかしら?)
ナナミから立ち上る無言の嫉妬のオーラに気づく様子もなく、ジュネがブリュンヌをキッと睨みつける。
「はぁ!? あんた如きにお兄ちゃんの暴走を止められるわけ? ――今すぐここで、お兄ちゃんに斬り殺されたいわけ?」
「ギクッ……!?」
ジュネの凄まじい殺気に、ブリュンヌは恐る恐るサイコの方を盗み見た。
当のサイコは、すでにいつでも抜刀できる体勢に入っている。
「……何だ? お前、また俺たちの『敵』になったのか?」
大剣の柄をガチリと掴むサイコ。
「そうよ。この配慮の足りない猫娘は、今の私にとって明確な『敵』ね」
ジュネが氷のような冷笑を浮かべ、ブリュンヌを指差す。
「いやいやいや! 敵じゃないって! 違うから! ねえ、聖者様! 助けて!」
完全に形勢不利を悟ったブリュンヌが、顔を真っ青にして俺に救いを求めてきた。
「あー……ブリュンヌ、その『聖者様』って呼ぶのはそろそろ止めてくれないか? 聞いてて恥ずかしいし。そうだなぁ……君のことは敵だとは思ってないよ。……まぁ、『元・敵』かな?」
「ええええええ!? 何ですかその不穏な含みは! 明確に否定してくださいよ! そ、ソウタ様ぁ!?」
「おう、呼び名はそれで良い。……というわけで、ナナミの護衛を頼んだよ、ブリュンヌ」
「は、はい……(完全降伏)」
俺の有無を言わせぬ(ようにエルフたちには見える)命令に、ブリュンヌは直立不動で頷いた。
「サイコ、ブリュンヌは敵じゃないぞ。ナナミの大事な護衛だ」
「ん、そうか。ならいい」
俺が一言そう告げると、サイコは何事もなかったかのように大剣の柄から手を離した。その一連の流れを見ていたモモカが、少し心配そうに俺に提案する。
「ソウタ、私が代わりにナナミの護衛に入りましょうか?」
「いやいや、モモカは絶対に俺に同行だよ。町に行ったら、モモカに商人たちとの価格交渉をして貰わないと困る。俺、そういうお堅い話をするの苦手だし。……サイコとジュネに交渉を任せられると思う?」
(サイコに交渉なんてさせたら、買い叩こうとした商人の首が飛んで、一瞬で国家指名手配犯になる未来しか見えないって……!)
「あ……そうでしたね。あいつらに交渉を任せたら、交渉じゃなくて恐喝になりますもんね」
モモカは納得したように苦笑しつつも、残されるナナミの方に視線を戻した。
「でも、警戒は必要でしょ? まだこのエルフの里の連中が、本当に完全に大人しくなったかも分からないし」
「だなぁ。……あと、まだ今日の動きを決めてないのは、クロリスと、ブルと――」
(ソウタに同行するキュ! 主の隣は譲らないキュ!)
(了解だ、リャンゾウ)
足元で服の裾を引っ張ってくる雷獣に念話を返す。
「リャンゾウは俺と一緒に町へ行くから、青い鳥のブルをナナミの警戒につけるよ。クロリスはどうする?」
「私はぁ〜、この森が気に入ったからぁ、ここにいるよぉ〜」
クロリスがふわふわと宙に浮きながら、のんびりと答える。
「オッケー、じゃあこれで決定だね。ブリュンヌ、もし何かトラブルがあったら、遠慮なくクロリスに相談して。エルフたちは精霊のことを神として敬っているみたいだしね。クロリス、ブリュンヌとナナミのことは任せたよ。特にブリュンヌが外で問題を起こさないように、しっかり見ててね」
「ええええ! 俺は絶対に問題なんて起こさないってば!」
ブリュンヌが必死に弁明する。
――そんな、何気ない旅の仲間たちの「役割分担の会話」を、部屋の隅でガタガタと震えながら見つめている影があった。
この屋敷の主であり、エルフの老村長セメレである。
(な、何という恐ろしい会話だ……っ! あの凶悪な魔族の兄妹を、ただの一言で完全に手懐け、元敵の獣人すらも完璧に隷属させている……! さらに伝説の精霊や聖獣までもが、あの男の指先一つでチェスの駒のように配置されていく……っ!)
村長の目には、ソウタが「世界を裏から支配する、冷徹で完璧な独裁者」にしか見えていなかった。
「よし、じゃあ準備ができたら、町へ向けて出発しようか!」
自分の評価が天元突破していることなど微塵も知らないソウタは、美味しい朝食を満喫し、のんきに声を上げるのだった。




