第107話 大精霊ガイア「気に入らない奴はサイコちゃんに斬らせていいわよー」→笑顔で身内を処刑する神の狂気
「精霊の子がソウタちゃんの命を狙ったお詫びにねー、この森は無条件で丸ごと差し上げるわー。勿論、気に入らないエルフや精霊がいたら、いつでも追い出していいしー。もし言うことを聞かずに居座るようなら、サイコちゃんに全員バラバラに斬らせてもいいわよー?」
大精霊ガイアは、自分の身体が左肩から腰にかけて真っ二つにズレたままの状態で、信じられないほど物騒な提案をのんびりと口にした。
「は、はぁ……」
俺――ソウタは、神話級の存在から飛び出したあまりの過激発言に、完全に思考がフリーズして生返事しか返せない。
「む? おい、お前……本当に敵じゃねえのか?」
「ちょっとお兄ちゃん、大剣を下げて。少し話をしっかり聞きましょう」
ようやく状況を把握したのか、サイコは怪訝そうな顔をしながらもゆっくりと大剣を下ろした。妹のジュネも、兄の無駄な戦闘を止めて大精霊ガイアの言葉に耳を傾ける構えを取る。
「エルフも精霊たちもねー、これからはソウタちゃんの森に『住ませて貰う』訳だからさー。当然、賃料(家賃)はきっちり払いなさいねー。それから、ソウタちゃんたちを都合のいい盾(防衛戦力)扱いして当てにしないで、自分たちのケツは自分たちで拭いて、ちゃんと森を守りなさいなー」
ガイアが背後のエルフたちをギロリと振り返る。その一瞬の眼光に宿った神威に、エルフたちは完全に恐れ慄いた。
「「「は、はいっ!! 畏まりました、大精霊様っ!!」」」
老村長を筆頭に、広場に跪いていたエルフたちが一斉に額を地面に擦り付け、大合唱のように返事をする。
「あとはねー、エルフも精霊も今まで通り勝手に暮らしていいからー。もしまたソウタちゃんたちに敵対するような馬鹿をやらかしたら、いつでも全員やっちゃっていいしー。特に一緒に住んでても『森を守れ』とか強制もしないしー。だから……それで手を打ってくれないかしらねー?」
大精霊ガイアは、小首を傾げて極上の笑みを浮かべると、まるで恋人に強請るような上目遣いのアクションで俺をじっと見つめてきた。
「そ、そっすねぇ……」
有無を言わせぬ美貌と圧倒的な「神の圧」を前に、俺のヘタレ根性が全力で叫びを上げる。
(……断れるわけないだろ、こんなのぉ!! 断ったら今度は俺たちが世界樹ごと消される未来しか見えないよ!!)
(全くだキュ。あの女神、目が全然笑ってないキュ。逆らったら一瞬で消去されるキュ……)
足元のリャンゾウも、毛を逆立ててブルブルと震えながら念話を返してきた。
「ふふ、お返事ありがとうねー。この子もね、自分の知らないところで『おイタ』をした別の精霊のせいで、こんなことになっちゃって可哀想なのよー」
大精霊ガイアは、安堵したように微笑むと、しがみついて泣いていた里のドリアードの少女の元に戻り、その頭を優しく撫でた。そして――冷酷に、獲物を値踏みするような目で視線を下ろす。
「……ところで、あなたは何か言い残すことはあるのかなー?」
ガイアが声をかけたのは、クロリスの黒い茨の蔦に絡まり、全身傷だらけで虫の息になっている『風の精霊』だった。
「ガ、イ……ア……さま。お、俺は……この、エルフの男に……命令されて、やっただけで……っ」
必死に命乞いをする風の精霊。しかし、ガイアの微笑みは、一瞬で凍りつくような氷点下の冷たさへと変わった。
「はぁ……何を言ってるのかなー。精霊契約って、エルフの依頼を拒否できない仕様じゃないでしょー? あなた、気が乗らない時は平気でエルフの言うことを無視してサボってるじゃないのー。今回は完全に、自分の意思で『面白そうだから』ってソウタちゃんを狙うのに手を貸したんでしょー。……自分のしたことには、ちゃんと責任を持ちなさいな。――ホイっ♪」
シュッッッ!!!
「ぐ、ひっ……あ、が……っ!?」
ガイアが軽く指を弾いた瞬間、地面から見たこともないほど鋭角で赤黒い「吸血植物」が音もなく突き刺さった。
突かれた風の精霊は、悲鳴を上げる間すら与えられず、一瞬で体内の魔力と生命力を限界まで吸い尽くされ――文字通り干からびてミイラのようになり、サラサラと塵となって崩れ落ちた。
「ソウタちゃん、これで私の誠意は伝わったかしら? 許してねー?」
大精霊ガイアは、今さっき身内の精霊を笑顔で処刑したとは思えないほど無邪気な笑顔で、俺にウインクを送ってくる。
「は、はい……(光速返事)」
(げ、げえええええ!! 笑いながら一瞬で殺したよこの神様!! 怖すぎるって!! 恐怖のあまり条件反射で返事しちゃったじゃないか!!)
「あ、そうそう。ソウタちゃんを直接狙撃したエルフの不届き者は、あそこに転がってるからエルフたちの法律で好きに処分させなさいなー。じゃあ、またねー」
ひらひらと手を振ると、大精霊ガイアと里のドリアードの少女は、光の粒子となって急に跡形もなく消え去った。
◇
嵐のような神の降臨が去り、広場には静寂が戻る。
大精霊から無条件で広大な森の所有権(領地)を貰ってしまった俺たちだが、気づけば周囲はすっかり暗くなっていた。
「……はぁ。色々ありすぎて疲れたよ。村長さん、今日はここに泊まるから、とりあえず空いてる家があったら教えてもらえる?」
げっそりとした顔で老村長セメレに尋ねると、村長は飛び上がらんばかりに驚き、慌てて両手を振った。
「い、いやいやいや!! とんでもございませぬ!! 空き家如きに、この森の偉大なる新しい所有者様をお泊まりさせるなど、滅相もないことです!! ソウタ様たちには、一族の総力を挙げて至高の屋敷を建造いたしますゆえ、それが完成するまでは、どうか儂の拙い屋敷をお使いくださいませ!!」
完全に俺を「世界を滅ぼすバケモノたちを従える、最凶の黒幕」だと勘違いしている村長は、涙目で懇願してきた。
というわけで、当面は村長の豪華な屋敷にタダで寝泊まりさせてもらうことになった。
「ふぅ……。ねえモモカ、エルフと精霊から徴収する『賃料』の件については、全部モモカに任せるから交渉よろしくね」
部屋に案内されるや否や、俺はベッドに倒れ込みながら面倒な事務作業を丸投げした。
「はぁ!? ちょっとソウタ、丸投げ!? ……まあ、分かったわよ。でも、エルフたちの経済状況もまだ掴めてないし、そもそも精霊がどんな財宝を持ってて、何を貰えばいいのか見当もつかないからね? 成果についてはあんまり期待しないでよね」
モモカは呆れたように腰に手を当てつつも、頼られたのが少し嬉しいのか、不敵にニヤリと笑う。
「いいよいいよ、無理をさせない範囲で、適当にむしり取ってくれれば。特にお金には困ってないしね」
「了解。じゃあ、きっちり絞り上げてくるわ」
こうして、一番面倒で頭を使う領地経営(交渉)の仕事をモモカに丸投げし、俺は完全にのんびりモードへと突入したのだった。
(ふふん。結果的に、何もしないで最高の拠点とタダ飯、タダ宿を手に入れちゃったな。やっぱり持つべきものは最強の仲間たちだね!)
自分の無自覚なやばさに全く気づかないまま、ソウタの異世界スローライフ(周囲からは魔王以上の恐怖)は、さらに加速していく――。




