第106話 最強の助っ人『大精霊ガイア』降臨! → 登場1秒でサイコに一刀両断される驚愕の展開へ
上空を埋め尽くした神代級の超巨大魔法陣。
エルフの隠れ里が跡形もなく消滅する――誰もがそう確信し、絶望に身を震わせたその瞬間だった。
「あらー、ごめんなさいねー」
気の抜けた、だけど鼓膜の奥に直接響くような女性の声。
直後、ブオォッ……! と世界の法則が書き換わるような音と共に、辺り一面が目も開けられないほどの強烈な白い光に包まれた。
その圧倒的な神威の光に触れた瞬間、ジュネの絶対滅殺の魔法陣が霧散し、クロリスの狂気的な魔力も一瞬で消え失せる。
だが――この規格外の状況でも、我がパーティの『裏ボス』は一切止まらなかった。
「ふはははは! 目が見えなかろうが、そこにいるのは分かっている! 斬るっ!!」
サイコが獰猛に咆哮し、大剣を凄まじい速度で振り下ろした。
肉を断ち、骨を砕く、鈍い手応え。
やがて光が静まると、そこには息を呑むほど美しい『女神』のような存在が佇んでいた。
肌が透けて見えるほど薄いキトンの上に、ギリシャ神話の神々が纏う上着・ヒマティオンを羽織っており、立っているだけで空間がひれ伏すような神々しさを放っている。
(……え、女神様!?)
あまりの光景に、俺――ソウタは思わず念話で呟いてしまう。
(大精霊だキュ。この世界のすべての植物を統べる、大精霊ガイアだキュ……!)
足元で、リャンゾウがこれまでにないほど緊張した声で答えた。
だが、そんな世界最高峰の神格を持つ大精霊ガイアは――さっきドリアードの少女を庇ったせいで、サイコの大剣によって綺麗に袈裟斬りにされていた。
周囲を見渡すと、大精霊の出現と同時に、エルフたちは一斉に地面に跪き、恐怖と畏怖でガタガタと震えている。
「あらー、斬られちゃったわー。これ、元に戻るのに少し時間が掛かりそうだわー」
ガイアは自分の身体を見下ろし、のんびりと言った。
左肩から右の腰にかけて明らかにスッパリと斬られており、上半身と下半身が泣き別れになっている。それなのに血は一滴も流さず、そのまま平然と宙に浮いていた。
痛みはないのだろうか。痛がる様子は微塵もなく、抑揚のあまりない間延びした口調のせいで、目の前の惨劇に全く現実感が湧かない。
「クッ……! 私の魔法陣を、一瞬で消去するなんて……っ!」
ジュネが大精霊ガイアを鋭い眼光で睨みつけ、再び魔力を練り始める。
「ひん、お母さあああああんっっ!!」
里のドリアードの少女が、半身がズレたガイアの足元にしがみついてワンワンと泣き出した。
(えっ、『お母さん』って……ガイアはあのドリアードの母親なのか!?)
驚いてリャンゾウに念話で確認する。
(そんな訳ないキュ。精霊が出産することなんて滅多にないから、大抵は自然発生キュ。実の母親のように慕っているだけだと思うキュ)
(だよね〜。びっくりさせないでほしいよ……)
「ガ、ガイア様……?」
一方、クロリスは先ほどまでの怒りが嘘のように綺麗に失せ、唖然とした表情で立ち尽くしていた。
「そうよー、ガイアよー。クロリスちゃんも、最後に会った時より随分と大きく成長したわねー」
ガイアはしがみつく少女を優しく引き離すと、スーッと宙を滑るように移動。衣服の擦れる音もなくクロリスの側まで近づき、その頭を優しく撫で撫でした。
「ふん。おい、お前は俺たちの『敵』か?」
サイコが獰猛な笑みを浮かべ、上半身がズレたままの女神に向けて大剣を構え直す。
(……いや、サイコ。自分から思いっきり先制攻撃で斬っておいて、今更『敵か?』って確認するのも、客観的に見て相当おかしい気がするんだけどね?)
(たしかにおかしいキュ。あの魔族の兄ちゃん、頭のネジが数本ぶっ飛んでるキュ)
俺とリャンゾウが呆れていると、ガイアはクスリと笑った。
「サイコちゃんは相変わらずねー。でも、敵の確認は裏を返せば味方の確認でもあるからさー……。敵だらけの蠱毒の生き残り、地獄のような場所から抜け出してきた魔族の兄妹は、本当はずっと寂しかったのねー。そんなサイコちゃんにも、こうして命を預け合える仲間が出来て本当に良かったじゃないのー」
「――うるさいッ!!」
過去のトラウマを抉られたのか、サイコが顔を般若のように歪め、大剣からどす黒い殺気を爆発させる。
「まあまあ、ちょっと待ち(・)なさいなー」
大精霊ガイアはサイコに向けて優しく手のひらを向け、なだめるような仕草をした。それからゆっくりと視線を巡らせ、モモカの後ろに隠れていた俺へと、慈愛に満ちた目を向けた。
「この里のドリアードちゃんに泣きつかれてねー。あの恐ろしい『全てを斬り裂く魔族』に世界樹と里をバラバラに斬り払われると聞いて、今回の『森を譲る奴隷契約』の作戦を授けたのは、実は私なのよー」
「えっ……」
「そしたら、まさかクロリスちゃんの契約者が、あの狂犬サイコちゃんじゃなかったのねー。完全な勘違いだったわ、ごめんねー?」
「あ、えっと、俺はソウタです……」
まさか世界最高神の一柱である大精霊から直接謝罪されると思わず、俺のチキンハートはバックバクに緊張し、思わずペコリと頭を下げて自己紹介をしてしまった。
「そう、ソウタちゃんねー。クロリスちゃんがいつもお世話になってるわー、これからも宜しくねー。サイコちゃんにはこれまで大勢の精霊たちも斬られてるからさー、ここらでちょっと痛い目を見せてお仕置きしちゃおうと思ったのよー。でも……」
ガイアはふわりと微笑み、その場を支配していたすべてのピリついた空気を一瞬で霧散させた。
「――主契約者がソウタちゃんなら、話はまったく別よー?」
「は、はぁ……?」
大精霊の口から飛び出した、明らかな「特別扱い」の言葉。
エルフたちが呆然とする中、俺たちの規格外な交渉は、神を巻き込んでさらに予想外の方向へと転がり始める――!




